第21話 悪女がのたまう「好き」(2)
「えっ、好き!」
アルノーは、目の間でほざかれた言葉に目を
その脳内は一言に尽きる。
【何を言ってるんだ?こいつ。】である。
「フィーネ!なぜここに!!」
青い顔をしたアルガンドが叫ぶ。自分の命の危機に加えて、この能天気な婚約者は非常に異常なほど面食いだったことを思い出したからだ。
「アルガンド様!ご無事でしたのね!!」
声をかけられて初めて、フィーネはアルガンドがここにいたことを思い出した。
そして、その一言でアルノーは悟る。あっ、この女バカだわ。
確かに、アルノーはアルガンドの
神明誓約なんて、160年連綿と続いてきた、長寿な魔族に対する【ごめんなさい】だ。だというのに、この馬鹿どもは【王子にちやほやされたいから】と【好きな女と結婚したいから】だけで反故にしたのだ。
4代前の魔王、俺こそごめんなさい。人族国家に攻め込むのは疲れるからやめようぜ(意訳)、なんて記録に残してますけど、俺の代でもう一回攻め込むことになりそうです。いや、本当に。復讐は一応間接的にするつもりだったんだけどな。
で、この
足元の床材に走ったヒビがさらに増えるのを見て、バルバトスは苦笑した。
アルノーは清貧や貞淑、知恵を貴ぶ聖職者だった。その気質は魔王になった今も変わってはいない。
馬鹿丸出しのフィーネの行動には耐えられないだろうことは、簡単に考え付く。
一気に、もともと無い好感度がどんどんとマイナスに下がっていくことに気づいていないフィーネは、アルノーに近づいた。
「お名前を、お伺いしても…?」
オプノーティス王も、バルバトスも、アルノーも一斉に顔が引きつった。
バルバトスがアルノーとフィーネの間に入り、引き離す。
「お控え願いたい。こちらの方こそ、我ら魔族の王。今は戦時ではない故、ここにいるすべての人族に気遣い魔素の発生を抑えてはおられるが、あまり無礼を働かれるとここを魔神領に変えかねんのでな」
普段だったら、お前も無礼だぞ、とアルノーに苦笑される言い回しでバルバトスがフィーネを諭す。
それを聞いてフィーネは顔を真っ赤にした。
「まぁ!魔族の方だったのですね!!お話に聞いていたよりもずっと人らしい姿でいらっしゃるから驚きましたわ!」
そのうえ、明るく言い放って媚びてくるので、アルノーは静かにオプノーティス王に振り返る。
「……オプノーティス王」
「なんだ、魔王よ」
「話が進まん。さっさと用件を済ませてよいだろうか」
「構わん。我が子ではあるが、ここまで愚かとは思いもよらなかったからな」
望む答えが返ってきたアルノーはうなずき、アルガンドとの距離をさっと詰める。
「―お前にはある種感謝はしているよ」
「何…?!」
「お前がもう少し賢かったら、俺たちの目的達成は遅々として進まなかったろうからな」
驚くアルガンドの額にアルノーは腕を伸ばして触れる。
「【嘆け】」
その一言で、アルガンドの視界はぐるりと回り、暗転する。
アルノーと背丈がほぼ変わらないはずの男が、彼が額に触れただけで気絶し
「……悪いが、呪いをかけさせてもらった。婚約者にのみ呪いを半分移すことができるが、双方がきちんと想い合っていなければこの呪いは移らない」
甲高い叫びの裏で、アルノーはオプノーティス王に語る。
呪いを軽減する方法なんて言わなければいいのに、とそうやって筋を通そうとする魔王にバルバトスは嘆息した。
「良くなるといいな?」
想い合っていたらそれはそれ。想い合っていなくてもそれはそれ。
アルノーはそう言って、コツリ、と靴の裏で床を叩く。
おずおずと頷いたオプノーティス王は、彼に微笑んでからフィーネの横を通り、謁見の間を出て行った魔王を見送る。
その姿が見えなくなってからぽつり。
「……どうするかの…」
頽れた息子と、それを見て助けようともせずきゃあきゃあ喚く令嬢を見て、深くため息をついた。
堕ちた致命者は正義の夢を塗り潰す 小野 燈夜 @eastclow
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