第6話 昼食後




 ウインナー、ピーマン、赤ピーマン、玉ねぎのクリームシチュー風味食パンピザ。

 すっぱさのあとに甘さが追いかけてくるオレンジジュース。


 背もたれと座面がともに小さい椅子から立ち上がり映像室から出て、図書館に併設されているベーカリーで昼食を取って、ふらりふらりと歩くこと一時間。


 昼間にはめったに来ることのない海原へと辿り着くと、この時間帯にいるのは珍しいだろう人物の姿を視界に捉えて近寄る。





 海原相棒様、こんにちわ。

 こんちわ、きてん様。どうした?こんな時間帯に?

 同じ質問を返してやるよ。朝だけしか来ないのかと思ってた。

 ちょっと、映画に感化されてな。

 図書館の?

 そうだ。

 何時?

 九時。

 十一時。

 海が出てきたのか?

 そう。そっちも?

 ああ。今日の朝日は河原か?

 うん。朝も来たのか?

 ああ。

 専門家からスカウトは?

 ない。

 残念だったな。

 ああ。けど、なんか。このごろは、来なくてもいいかと思うようになった。

 へー。

 おらあ言ったよな。忘れないでいれば生きている。けど、忘れないだけじゃあ、だめだ。語るなり、語り合うなりしないと。おらあの心の中だけでは、やっぱり忘れちまう。

 昔から紡がれてきた言葉を忘れたくないって。今はあんま使われてない言葉を使って歌ってんだろ。

 ああ。やっぱ、忘れられんためには、大勢に覚えてもらうのが一番だからな。けどよ。今だって、おらあだけじゃないもんな。きてん様や、ここを通る人様たちにも語りは届いてんだろ。それでもいっかなあってよ。

 自分も何回も聴かないとすぐに風化しちまうよ。

 それもありかなあと思うようになっちまった。完全に埋まり切ってもどうせ掘り起こされるだろうし。ってな。

 じゃあ、もう歌わん?

 いやいやいや、歌う。海に向かって大声で。おらあが忘れたくないし。気持ちがいいしな。

 聴くの好きだよ。毎日は胃もたれするけど。あ。ちょっと、レタスの匂い。通り雨が来るかもな。

 おらあには磯の匂いしかせんがな。きてん様が言うなら、帰ろうかね。今は濡れたくない。

 おう。

 またいつか。

 またいつか。










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