第13話

アイスを堪能してカフェを出ると、ふいに突風が吹いて二人のコートの端を翻した。


「んぷ」


強い風にリッカの少し長い髪がバサリと舞い上がる。

風が止むと、そこには鳥の巣のように髪をぐちゃぐちゃにしたリッカがいた。


「あー、今日は風が強いな」


プルプルと顔にかかった髪をはらおうと頭を振るリッカに、セルフィルトは手櫛でサラサラと髪を整えてやる。

そしてふむと顎をひと撫ですると。


「髪が長いからくしゃくしゃになるんだな。帽子でもかぶったらマシになるか」

「ぼ、ぼう、し?」


迷子にならないようにセルフィルトが指の長い手を差し出すと、リッカは不思議そうにおずおずとそれに小さな手を重ねた。


「そ、あいにくキッケルの店は今日は店休日だからな。適当な所に入ろう」


石畳を歩きだしたセルフィルトに手を引かれて、リッカはちょこちょことゆっくり歩く彼の少し後ろからついて行った。

カツコツと靴音が石畳で鳴るのを聞きながら歩く。

そして飴色に塗られた壁の上品な店構えに辿り着くと、セルフィルトは重厚な木の扉を押し開けて入った。

後をついて入ると、店内は子供服を着たマネキンが二つ置かれていて、ハンガーにかかった服が壁際に沿ってずらりと並べられている。


「いらっしゃいませ」


にこにこと店員らしき初老の男が声をかけてきた。


「この子に合う帽子をひとつ頼む」


セルフィルトの言葉に店員は、はいはいと目を細めてリッカに目線を向けた。


「こちらへどうぞ」


手のひらを閃かせて帽子掛けの方へと店員が案内する。

帽子掛けには色とりどりの素材もバラバラな帽子が、鳥が止まっているかのようにかけられていた。


「どういったものにしましょうか」

「風が強いから髪が乱れないようにしたいんだけど」


なあ?とセルフィルトが首を傾けてリッカに笑いかける。

それにうんうんと店員が頷くと、帽子掛けから白い厚手の生地で出来たキャスケット型の帽子を手に取った。


「こちらなんかいかがでしょうか。コートの色にも合うと思いますよ」

「リッカ、かぶってみな」


店員から受け取った帽子をリッカに差し出すと、おずおずとそれを受け取りぎこちなく頭に乗せた。

少し大きいけれど、ガボガボにサイズが違うわけでもない。

セルフィルトがリッカの姿を上から視線で一巡すると、うんと頷いた。


「じゃあこれを貰うよ」

「ありがとうございます」


リッカは慌ててセルフィルトのコートをくいくいと引っ張った。


「あ、あの、おか、おかね、つか、つかわ、なくて、いい、よ」


リッカがもの知らずでもお金が大事なのは知っている。

娼館の店主が稼ぎが少ないと愚痴ってはリッカを殴っていたからだ。


「まだ外歩くからさ」


サラサラとレジカウンターで白い紙にサインをしているセルフィルトが、軽い調子で答える。

そしてそれが終わると、ほら行くぞとリッカの手を引いて扉の方へと歩き出した。

慌ててリッカは帽子を被ったまま、店員のありがとうございましたという声に見送られて店の外へと出たのだった。

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