第42話 英雄、開封の儀式を見守る

「さて、なにが出るかな」


 ミノタウロスを倒した後に出現した宝箱の前に並ぶ三人の後ろから声をかける。


「シショー、あけて」


「今回は三人で開けるといい。勝者の権利だからな」


「おじい様もこう残していますわ。『勝利の美酒を味わうことができるのは戦った者だけだ』と」


 正真正銘、今回は三人だけで獲得した宝箱だ。

 開封の儀式は三人でやるべきだろう。


 もっとも地下一層の宝箱からそれほどレアなアーティファクトは出ない。

 ブレスレットやストレージが手に入るのは稀なのだ。

 あの時は本当に運がよかった。


 三人は互いを見て、それから揃って宝箱に手をかける。


「これは……」


「んー……」


「まあ、そうですわよね……」


 宝箱の中には大量の棒クズが入っていた。

 生配信を見ている人たちの反応が容易に予想できるほどの大外れだ。


「ははは。まあ、こういうこともあるさ。じゃあ、生配信を終了するぞ。以上で地下一層、南エリアボス攻略は終了だ」


 フェアリーアイに配信を停止させる。


「やったー!」


 宝箱に両手を突っ込んで棒クズを手にして大喜びしているのはローゼルだ。


「これで、いっぱい、たべられるー」


「おやめなさいな。はしたないですわよ」


「ローゼルさんが喜ばれる気持ちもわかりますけどね」


 俺たちにとって棒クズは外れアイテムじゃない。

 なにしろ、ご馳走の元になるからな。


「ねー、シショー。たべたい」


 潤んだ瞳で見つめられる。

 俺、この目に弱いんだよなあ。


「わかったわかった。食事の用意をしておくから、その間に魔核の回収を済ませておいてくれ」


「心得ましたわ」


「あとは周囲の安全確保も忘れないように」


「わかっています。ローゼルさん、行きましょうか」


「うん」


 それぞれが行動を始める。

 この一カ月で見違えるほどに成長してくれたのを実感していた。






「休みながら聞いてくれ。これからなんだがプランは二つある」


 食事を終えて満足そうな三人に提案をする。


「一つは今日の探索は終了にして地上に戻る。もう一つは地下二層へ行く。みんな、どっちがいい?」


 ミノタウロスを三人で倒せるようになった今なら地下二層は余裕をもって探索することが可能だ。

 仮にディープアリゲーターと遭遇しても、前回のようなことにはならないだろう。


「わたくしは地下二層へ行きたいですわ。このところは一層ばかりで退屈していましたもの」


 初心者向けの配信をする都合上、最近は地下一層の探索をしてばかりいた。


 実力的には地下二層でも問題はないのだが、配信内容はギルドからの正式な依頼でもあるのでちょっと背伸びをして先を急ぐことは極力避けていたのだ。


「体力も魔力も問題ありません。地下二層へ行っても大丈夫だと思います」


「ローゼルはどうだ?」


 コクリと小首をかしげる。


「ローは、うみに、いきたい」


「それですわ!」


 いきなりティアが立ち上がる。


「なにか忘れていると思っていたのですけれど、ローゼルのお陰で思い出しました。わたくし、海が見てみたかったのですわ!」


「ローも、いっしょ!」


 微笑んでいるのでササンクアも異論はないようだ。


「わかった。じゃあ、このまま地下二層へ向かうとしよう。なるべくディープアリゲーターのいるエリアは避けていきたいところだが……」


 ブレスレットの地図を表示して海へ向かうルートを確認する。


「今のわたくしたちならディープアリゲーターを相手にしてもジニア様の足を引っ張ることはないと思いますけれど」


「それはわかっている。とはいえあえて危険を冒す必要はないだろう。海には海の魔物もいることだしな」


 海を見るという目的を立てたのだから、どうしても避けられない戦闘以外は極力避けたい。

 主目的を設定した以上、リスクを排除した計画を立てる必要がある。


「海の魔物といえばとても有名な魔物がいますわね。その名も深海の王者。一度でいいから見てみたいですわ」


「なんだか強そうな名前ですね」


「ササンクア様はイカをご存じかしら?」


「ええ。これぐらいの生き物ですよね」


 ササンクアは両手の人差し指で大きさを示している。


「それの100倍ぐらいの大きさを想像していただければいいと思いますわ」


「……え?」


 冗談だと思ったのか、ササンクアが俺を見る。


「事実……らしい」


「……イカですよね?」


「いや。クラーケンだ。まあ、見た目はよく似ていると言われているそうだが。生憎、俺も実物を目にしたことはない」


 そもそも二つ名にある通り、海の底の方で暮らしているという魔物だ。

 地下二層にも海はあるが、深海と呼べるほど深いわけではないだろう。

 だからダンジョンにはクラーケンはいない……はずだ。


 なるべく安全そうなルートを設定し、その情報をローゼルのブレスレットと共有する。


「みんなの準備ができたら向かおうか」


 三人が頷いたのを確認して、地下二層へ向けて出発した。

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