第40話 英雄、チームを語る

 外へ出ると長い銀髪が路地へ消えるところが視界の隅に映る。


 あの速度、ちゃんとノービススーツを常用しているんだな。

 それが少し嬉しかった。


 路地へ飛び込んだところで立ち止まる。


 すぐそこにしゃがんで小さくなったニモフィラがいたからだ。


「ニモフィラ」


 声をかけてもニモフィラはそのままだった。

 時折、大きく背中が震えるのは声を外へ漏らさないためか。


 ニモフィラに背を向けて立ち、泣き止むまで待つことにする。


 5分もした頃だろうか。

 立ち上がる気配がした。


「……ごめん。ジニア。無理を言って困らせて……ごめんね」


「いや、いいさ」


 振り返ると目元を腫らしたニモフィラが真っ直ぐ俺を見ていた。


「ぐす。ジニアは……すごいね」


「なにがだ」


「だって、もう新しいチームのキャプテンになってるし」


「それはたまたまさ。ギルドでソロ活動の申請をしようと思ったらササンクアに声をかけられてな。ササンクアっていうのは、ほら、頭巾を被って鏡を下げていた子がいただろ。彼女にチームのキャプテンになってくれないかと頼まれてな。戦闘では役に立たないと思うが、こんな俺でもいいのかって聞いたら構わないと言ってくれてさ。それでチームを組むことになったんだ」


「そっか。かわいい女の子ばっかりだよね」


「そこは否定しないが、彼女たちの前のキャプテンはボールサムだからな。あいつの趣味なのかもしれないぞ」


 スンと面白くなさそうにニモフィラは鼻を鳴らす。


「そっちはどうだ。チームとしてやっていけそうか」


 少なくともあの決勝を見る限り、連携が上手くいっているとは思えなかった。

 各人の意識と動きがバラバラだったのは誰の目にも明らかだろう。


「……」


 答えがない。

 それだけでチームの状況がわかってしまう。


「ジニアは……どうなの」


「そうだな」


 以前、パチェリィに楽しそうだと言われたっけ。


「たぶん楽しいんだと思う」


「……そっか」


 さっきから地面を足でこすっているが、その行為に意味はないのだろう。


「ノービススーツ」


「え?」


「ちゃんと常用しているんだな」


「……うん。ジニアに教えてもらったから」


「最初は信じてなかったくせに」


「それは、そうだけど。だって普通、裸になってノービススーツを召喚なんてしないでしょ。いきなりなに言い出すんだろう、この人って思ったし」


「塔で生き残るにはな、その普通っていうのを疑っていかないとダメなんだよ」


「……うん、そうだね。ジニアはいつもそう言ってたね」


 口の端がわずかに上がる。


「半年後にあのチームで塔へ行けそう?」


「どうだろうなあ。みんながいる手前ああ言ったけど、正直、探索も戦闘もこれからだからな。連携以前の状態だ。それより彼女たちとの付き合い方に困っていてさ。たとえばローゼルはすぐに甘えたがるんだよ。懐いてくれているのは嬉しいんだが、あの年頃の子との接し方ってどうしたらいいんだろうなあ。あんまり強く言うと泣かれそうで怖くてさ。姉のティアは頭でっかちなんだ。俺以外にダフォダルの本を全部記憶している奴なんて初めて会ったよ。知識があるのはいいんだが声をあげながら攻撃するのはやめてほしいんだよなあ。奇襲にならないし。双子に比べるとササンクアが落ち着いているのはやっぱり年長だからなんだろうな。冷静でみんなを見てくれているから助かってるよ。実はニモフィラを追いかけるように言ってくれたのがササンクアで――」


「ふ、ふふふ」


「なんだ?」


「ううん。なんでもない。ただ、ジニアは本当に楽しいんだなって思っただけ」


「そうか? これでもいろいろ気を使っているんだぞ。双子とは一回り以上も年齢が違うしさ」


「大丈夫だと思うよ。ジニアは今のままで。きっと上手くいくと思う」


「そうか。ありがとな。ニモフィラにそう言ってもらってホッとしたよ」


 くしゅりと微笑むニモフィラがくるりと後ろを向く。


「あーあ。ジニアが一人でブラブラしてたら首に縄を付けてでも連れて帰ったのにな。今のチームが楽しいなら仕方ないよね」


 そのまま路地の奥へと歩いていく。


「じゃあね、ジニア。無理を言ってごめんね。あの子たちにも謝っておいて」


 小さくなっていく背中が声をかけるのをためらわせる。


 だから見えなくなるまで、俺はその場で見送った。






「なんだ。せっかくの料理が冷めちゃってるじゃないか」


 食堂へ戻った俺を三人は無言で見上げたあと、互いに視線をかわし合っている。

 なにか聞きたいことがあるのに言い出せないようだった。


「改めて言うまでもないことだと思うんだが」


 三人の不安そうな顔を見て、きちんと口にしておくことにする。


「俺は〈星を探す者スターシーカー〉のキャプテンだからな。追い出すって言われても断固拒否するつもりだぞ」


「シショー」


「ぐえ」


 いきなり首っ玉にかじりつかれた。


「ちょ、首締まってる……」


 あと大きくて柔らかいものが押し当てられていて……その、なんだ、困る。


「ジニア様にはずっとわたくしたちのキャプテンを務めていただきませんと」


「そうですね」


 明るく笑う三人からは不安の色がさっぱり消えていた。


「さて、食事再開だ」


「じー……」


 抱き着いたままのローゼルが至近距離で見つめている。


「だからレプリケーターは使わないって言ってるだろ」


「けちんぼ」


 ケチだから言っているんじゃないからな!?

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