銃規制

「どうしてこんなに銃規制を厳しくしたのに、銃犯罪が減らないんだ?」首相は頭を抱えて言った。「自動小銃はもう持てないんだろ? なぜだ?」

「はあ、それが……」銃器管理局長は渋い顔になって答えた。「自動小銃は禁止しましたが、手動式の連発銃の規制はあまり厳しくしなかったんです。そうしたら、各メーカーともに、大容量弾倉を備えた手動連発銃を作るようになりまして。今ではギャングたちもそういう銃を使っていますね」

「このとんまめ!」首相は顔を真っ赤にしてわめいた。「そんなこと、どうして予測できなかったんだ?」

「はあ――しかし、ガン・ロビイストと手打ちをしたのは、首相ご自身ではありませんでしたか?」

「しかたないだろ! 手打ちをしなけりゃ、規制法案は通せなかったんだから。しかし、くそっ、こうなったら、もっと厳しく規制する必要があるな。見てろよ……」

 そういうことで、首相はさらに厳しい銃規制法案を議会に提出した。何度かの選挙を経て、首相が領袖を務める政党は議会の過半数を占めていたから、法案はスムーズに可決した。かくして、大容量弾倉を備えた手動連発銃は市場から消えた。首相は大いに満足した。

「だというのに」数か月後、首相は頭を抱えて言った。「なぜ銃器犯罪が減らないんだ?」

「法律に穴があったんです」銃器管理局長は答えた。「大容量弾倉は規制しましたが、弾倉に再装填するためのローダーの規制がゆるかったんですね。それで、みんな、ローダーの改良に血道をあげています。片手で扱うことができるローダーを持っていて、それでどんどん弾倉に新しい弾を」

「おのれ」首相は歯ぎしりした。「下手に出ればつけあがりやがって。そんなもん、禁止してやるぞ!」

 かくして、ローダーも禁止された。ついでに、全ての手動連発銃の所持も禁止された。首相は今度こそうまくいくと自信を持っていた。

 数か月後。

「なぜだ」首相はデスクに突っ伏したまま言った。「なぜうまくいかん。まったく銃器犯罪が減らんぞ。どういうことなんだ」

「ええと」銃器管理局あらため銃器規制局長は言った。「あの法律に穴があったんです。あの法律では、禁止対象なのは、金属薬莢式の弾薬を使う銃器だけでした。それより古い形式の銃は対象外で……なので、とか、とかがですね……」

「もう我慢ならん!」首相は咆哮した。「どいつもこいつも、屁理屈をこねやがって、何のつもりだ! こうなったら、さらなる規制だ! 銃なんて野蛮なものは、この世から一掃してやるぞ! くそガンマニアどもめ、思い知るがいい!」

 首相はすさまじく厳しい規制法案を議会に提出した。今度こそ、これですべての銃器を国内から根絶できるはずだった。首相は絶対の自信を持っていた。これで大丈夫だ……。

 

「で、それで、結局どうなったの?」子供は尋ねた。

「法案は結局否決されたのさ」父親は答えた。「首相はほどなくクビになった」

「どうして?」

「あまりに厳しすぎる内容だったからさ。何せ、片側をふさいだ鉄パイプを届け出なしに持っていたら、それだけで牢屋に10年も閉じ込められる可能性があったからね。憲法違反だと判断されたんだよ。それに、犯罪がいっこう減らなかったのは、首相の経済政策がまずかったせいだったのに、それを彼が直視しなかったのもよくなかったんだね」

「なるほど」

「それにね」父親はにやりと笑いながら付け加えた。「危ないものを規制し続ければ、いずれ、規制するものがなくなる。そうなったら――規制されるのは、そのものなのさ。首相はそこに近づきつつあった。だから、彼自身が規制されてしまったというわけさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る