第38話 卒業式の桜のところに行ってみようか
さて、今日の俺と
まだだいぶ先のなのだけど、
なんでも
で、せっかくのせっかくだから俺と優愛の母校も巻き込んじゃおうという話になり、今日は俺たちが代表で打ち合わせをしてきた次第。
加速度的に話が大きくなっていくのが本当に三上会長らしいと思う。
ただ、俺の隣には負けず嫌いのお嬢様がいる。
今も隣でブツブツと計画を練っているご様子だった。
「やっぱりあたしたちの代の時にはウチのグループの全力協賛でいくべきよね……飲食をやるクラスにはウチのシェフを派遣して、劇をやるクラスにはプロダクションから一流の役者や舞台監督なんかを呼んで……あ、どうせなら最先端技術の見本市も兼ねればマスコミも呼べるわね……」
……三上会長とは別ベクトルで規模の大きな話をしてる。
「優愛、それもう学生の文化祭じゃないよね?」
「え、
「……いや何も」
どうせ今言っても聞かないだろうなーと思い直し、笑顔で首を振った。
うん、優愛には絶対、生徒会長はやらせられない。
みんなの青春の思い出のためにも生徒会長の座は俺が射止めよう。
最近、忘れがちだったけど、俺と優愛は次期生徒会長を目指すライバルだったりするのです。うん、だいぶ忘れがちではあったけれども。
……なんてことを考えていたら、ふと裏庭の向こうが目に留まった。
「……あ」
「どうしたの?」
「いやあれ……」
ウチの中学校には裏庭があり、ちょっとした丘のようになっている。
そこにはいくつもの桜の木が植えられていて、丘の上には一際大きい桜が立っている。
もちろんもう春ではないので、どの木も葉桜が青々と茂っていた。
だがやっぱり気になってしまう。
なぜならあの桜の木は俺たちの思い出の場所だからだ。
「ああ、懐かしいわね……」
優愛も目を向け、小さくつぶやいた。
中学の卒業式の日、俺たちはあの桜の前で別れた。
イブに付き合い、三か月の交際を経て、優愛の留学をきっかけにあの場所で別れを選んだ。
……まさか一週間でバッタリ再会しちゃうなんて思わずに。
ただ別れただけならほろ苦い思い出だったろう。
数年後に再会して復縁したなら、若き日の微笑ましい思い出になったかもしれない。
でも一週間だし。
日にちで換算すると結構スグ復縁したし。
油断すると、悲劇の主人公だったあの時の俺たちが黒歴史になって押し寄せてきそうだ……っ。
その気配に気づいたらしく、優愛の肩も小刻みに震えていた。しかし全力で抵抗し、冷静な表情を作ろうとしている。
「ふ、ふふ、思えば……あの時のわたしたちは、わ、若かったわね……っ」
「優愛……っ」
どうやら幼過ぎた青春の1ページとして処理するつもりらしい。その胆力に俺は驚嘆する。
まさか……ハイスペックお嬢様の優愛なら黒歴史を適切に処理することも可能だということなのか!?
「そ、そりゃあ中学生からしてみたら、留学なんて一生の別れだったでしょうね。だ、だから気持ちが昂っちゃうのも無理からぬものだわ……っ」
頬はピクピク引きつっている。
それでも優愛は果敢に黒歴史に立ち向かおうとしていた。
「だ、だから……あの時のわたしたちを今のわたしたちは微笑ましく思うべきなのよ。そ、そうよ、微笑ましく、微笑ま……し……く……」
が、がんばれ!
がんばれ、優愛!
「ほ、ほほえ、ほほ……っ」
ピクピクが限界に到達。
優愛は頭を抱えてうずくまった。
「ああ、無理~っ!!」
ダメでしたーっ!
「うん、分かる。気持ちは分かるよ……」
うずくまったお嬢様の肩をぽんぽんと叩く。
だってあの時の俺たち、桜の雨のなかで語り合っちゃったからね。
心のなかで『これは叶うことのない約束だ』って思いながら、また会えたら結婚しよう、って涙ながらに伝え合っちゃったからね。
で、一週間でバッタリ再会。
今思うと、黒歴史だ。
そうして肩を叩いて優愛を慰めていると、がばっと顔を上げて怒られた。
「ちょっと! なんで真広は微妙に他人事なのよ!? あなたも運命共同体なんだから一緒に苦しみなさい!」
「いや俺も苦しんでるよ? でもほら、最大の一撃は優愛と一週間でバッタリ再会しちゃった時に喰らったし……」
俺のコメントも右から左で、優愛は苦悶の表情。
「ああもう、なんであんなに悲劇のヒロインになっちゃったの、あの時のわたし! あとから考えてみたら取り得る手段はちゃんとあったのに!」
「え、取り得る手段って?」
「こないだ
「え、まさかそれが……?」
「あれ、わたしも出来た!」
「ええっ!?」
なんというドンデン返し。
そりゃ日本有数の藤崎グループのお嬢様なら可能だろうけど。
でもまさかそんな遠距離恋愛の攻略法があったなんて。
しかしそうなると、優愛の悶絶っぷりも分からなくもない。本当は解決法があったのにそれに気づかずに涙ながらの別れをしちゃったなんて、お嬢様のプライドが許さないだろうし。
「とにかく元気を出して? ほら、立てる? 俺の手を握って」
「うぅ~、屈辱だわ~。このわたしがあんな判断ミスをするなんて~」
べっこり落ち込みつつ、俺の手を握って立ち上がる、お嬢様。
俺はそのまま桜の方を指差す。
「とりあえず近くまで行ってみる? なかなかこんな機会もないだろうし」
「……はあ、まあそうね。ちゃんと向き合って、黒歴史に決着を付けましょう」
二人で丘を登って桜に近づいてみる。
大して時間が経ってないから当たり前だけど、葉桜に変わっただけで、景色は以前と大差ない。
……あ、いや違うか。
「真広?」
俺の様子に気づき、優愛が首をかしげる。
その手は桜の幹を触っている。
俺の視線が向かうのは、薬指。
優愛の薬指には今、俺が贈った指輪が光っている。
これが卒業式の時のとの大きな違いだ。
桜は葉桜に変わって、彼女の指には2人の愛の証が輝いている。
これ以上の違いがあるだろうか。
そう思うと、つい笑みがこぼれた。
「俺、黒歴史を克服できそうかも」
「え、なんでよ? ズルいわよ、ひとりだけっ」
「優愛もできるよ。だって……ほら」
彼女の手のひらに手を重ねる。
俺の指の間には彼女の指があり、陽の光を反射してキラリと光った。
「あ……」
彼女はすぐに理解してくれた。
「確かにそうね」
ぎゅっと手を握ったら、指を重ねて握り返してくれた。
「あの時の色んな想いがあったから、わたしたちはこうして……ここまで来られたのかも」
風が吹いた。
柔らかな風が彼女の髪をさらい、青々とした葉が宙を舞う。
目を閉じれば、あの日の光景が思い浮かぶ。
永遠なんてない、と思い込んでいた、俺。
いつかまたなんて奇跡は起きない、と思い込んでいた、優愛。
「あの時の俺たちがこの指輪を見たらどう思うかな?」
夢か何かだと思うだろうか。
未来の自分たちがこんなふうに幸せになっているなんて。
「わたしは……」
こちらを向き、目を細めて彼女は笑う。
「きっと、あなたに惚れ直すわ」
「え、本当?」
「ええ」
美しい瞳が自分の薬指の指輪を見つめる。
とても愛おしそうに。
「だって、わたしと違って真広は普通の一般人だったんだもの。きっとあの日のわたしはすぐに気づく。この薬指に指輪があるってことは、真広がとんでもなく成長して、決断して、実行してくれた証なんだって」
「そっか……」
「だから」
彼女は言葉を重ねる。
俺の目を真っ直ぐ見て、わりと真顔で。
「これ以上、成長しなくていいわよ?」
「なんでさっ!?」
思わずツッコんでしまった。
お嬢様は目を逸らして唇を尖らせる。
「だって、これ以上成長してわたしを越えられちゃったら困るじゃない」
俺は「えー」と肩を落とす。
でもすぐに気づいた。
そっか、優愛、俺に越えられるかもしれないって思ってるんだ。
あの藤崎優愛が。
ただの一般人だった、この俺を。
自然に口元が緩んだ。
顔を上げ、俺は言う。
「やだよ」
「なんでよっ」
「だって」
細い腰に手をまわし、不意打ちで抱き締めた。
ぎゅっと愛しさを込めて。
「この先、何度も何度も惚れ直してほしいもん」
「――っ!?」
彼女の耳が一瞬で赤くなった。
抱き締めてるから見えないけど、きっと顔もイチゴのようになってるはずだ。
俺の背中にもおずおずと手がまわされ、ぽつりと一言。
「……ばか」
もうあの日のような涙は流れない。
桜の雨は葉桜へ変わり、手を振るためだった手は、お互いを抱き締めるために。
卒業式で別れた桜の前で、俺たちはしっかりと抱き合い続けた――。
………………。
…………。
……。
ちなみに30分後ぐらいに中学校の生徒会役員たちがきて「他の生徒たちの教育に悪いんで……」と気まずそうに注意されました。
うん、ちょっと長くイチャイチャし過ぎたかもしれない。
帰り道、大反省する俺たちでした。
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次回更新:明日
次話タイトル:『エピローグ イチャイチャが連鎖して、みんな幸せになりました』
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