終章


 ――そして、全てが砕け散った。


 赤獅子騎士団が旧工場地帯に構築した要塞の一角が、文字通り爆発した。堅牢なはずの外壁が粉砕し、内部へと暴力が侵略、暴れ回る。

「流石、俺が考えた機導式だ。始まりの鐘を鳴らすのにピッタリだぜ」

 廃ビルの屋上で、ゼルは煙草を吹かしていた。地面には機操剣が突き刺さり、近くには大砲が我が物顔で陣取っている。戦艦の主力砲にも匹敵するこの対要塞用砲台は、この日のために用意したとびっきりの新作だ。

 月さえ怯える夜空は曇り。

 ゼルは紫煙を盛大に吐き出した。良い気分だった。こんなにも満たされて許されるものなのだろうか。

 だから、なにもかも嬉しかった。

 まばたき一つ。ゼルの周囲に、妙な連中が立っていた。熊の毛皮と甲冑を縫い合わせたかのような格好で、手には背丈よりも大きな長柄の斧を握っている。蒸気機関と高位解析機関が搭載されているのだから、機操剣なのだろう。よく使い込まれている。間違いない、一人一人がレインと同格がそれ以上の強者だ。

「変わった得物だな。まあ、俺の首を狙っているんだろう? だったら、話は早い。せっかくの夜だ。存分に楽しもうぜ」

 旧工場地帯を制した者達が、この街の覇権を握る。そうして、他の経済都市を狙い、ゆくゆくは帝国そのもの、さらに領土を増やすのか。

 そんなこと、させるものか。これ以上、犠牲を増やすものか。ふざけるな。手前ら全員、ちょっとばかし教育してやろう。

 今頃、レインはなにをしているだろうか。きっと、怒る。間違いなく怒る。だけど、どうか許してほしい。俺にはもう、捨てるモノはなにもないのだから。クローゼルを失い、自由に生きようと決めた。しかし、世界は俺からフレンジュを奪った。幸せになることを許してくれなかった。ゼルはもう納得していたのだ。

「これが正解なんだろうな」

 ゼルは機操剣の柄を握り、トリガーに指をかけた。

「ここに、手前らの墓標を用意する」

 もう、自由など望まない。これ以上、安息など願いはしない。だから認めろ、神。俺はもう、ここから逃げない。だから手前も逃げるな。ゼルの覚悟はすでに、満たされていた。

 一度だけ、固く目を閉じる。脳裏に浮かぶのは、友であるレインにダルメル、失った戦友であるバグル、倒すべき敵であるベニアヤメ、そして大切な二人の女性の姿。

 クローゼル。

「悪かった。俺はやっぱり、こっちが性に合っているんだろうな」

 フレンジュ。

「ごめんな。これは、俺の役目って決まっているみたいなんだ」

 胸の奥を錆びたナイフで抉られるかのような痛みに、ゼルは奥歯を強く噛んだ。それでも、ここは逃げ出すなんてしない。

 さあ、戦おう。

 さあ、殺し合おう。

 さあ、争いを始めよう。

「手前ら全員、逃げるんじゃねえぞ。怖い怖い竜のお出ましだ! 頭から噛み砕いて地獄に還してやるから覚悟しやがれ!」

 ゼルが叫ぶ。機操剣の内部、高位解析機関が歯車の群れを掻き鳴らす。その音はまるで、竜が啼いているかのよう。

 あるいは、泣いたのか。

帝国領第十三試験的機械化構築経済都市〝ラバエル〟。

これより、数多の勢力と〝たった一人〟が争う激動の時代を迎える。

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竜は墓標を捧ぐ 砂夜 @asutota-sigure

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