いじめられている少年と悪魔

お餅ミトコンドリア@悪役貴族愛され勘違い

いじめられている少年と悪魔

 おいらは、上級悪魔のマークだ。

 今まで、数え切れない程多くの人間達の願いを叶えて来た、超エリートだ。

 で、今おいらが担当しているのは、優人ゆうと、十歳。

 コイツと出会ったのは、一ヶ月前。まだ秋だった頃だ。

 その頃、優人は、毎日苛められて、泣いていた。

 内気な優人は、去年、今年と、同じクラスになったガキ大将の六輪ろくわによって、毎日苛められていた。

 そこで、おいらの出番だ。

 簡単な話だ。魔法で、優人を六輪より強くすれば良い。

 でも、優人は、筋金入りの弱虫だったからな。

 流石のおいらも、多少手子摺った。

 一回の魔法では十分じゃなくて、何度も魔法を使う羽目になったんだ。

 でも、そのお陰で、一ヶ月後には、優人は六輪と決闘して、見事勝つ事が出来たんだ!

「やった! やったよ! マーク、ありがとう!」

 と、優人は泣いて喜んでいた。


 その後、めでたく、優人は苛められなくなった。


 で、願いを叶えた悪魔がやる事は、一つだ。

 魂を頂くのさ。

 そう言ったら、優人は、きょとんとした。

「魂をあげたら、僕はどうなるの?」

 その問いに、おいらは答えてやった。

 死ぬってな。

 狼狽える優人だったが、おいらが、

「魔界のルールだからな。おいらは、それに逆らえない。もしルールを破れば、その時は――罰として、おいらが殺される」

 と言うと、優人は、

「マークが……死んじゃう……!?」

 と、呟いた。


 暫くした後。

「……分かったよ。マークに、僕の魂をあげる」

 優人は、そう言った。

 おいらは、

「良いのか!? 死ぬんだぞ!? 怖くないのか!?」

 と聞いた。

「そりゃ、怖いけど……でも、マークが死ぬのはイヤだから」

 と、優人は答えた。

 そして、優人はこう続けた。

「だって、全部マークのおかげだから。今、僕、すごく幸せなんだよ? だから、マークには生きていて欲しいんだ」

 そう言うと、優人は震えながらも微かに微笑んだ。


 では、魂を奪うとするか。

 悪魔が自分の爪を、魂を奪おうという意思を持って、人間の胸に突き刺すだけだ。

 これは魔法ではなく、悪魔が生まれつき持っている能力だ。

「心の準備は良いか?」

 おいらが聞くと、優人は、

「……うん。良いよ……」

 と、答えた。

 おいらがゆっくりと右手を優人に近付ける。

 すると、優人が静かに語り掛けて来た。

「マーク。今までありがとう」

 そして、

「マークと出会えて、本当に良かった」

 と、目を潤ませながら呟いた。

 その言葉を無言で聞いていたおいらは――

 顔を上げ、右手を構えて――

 意を決して、一気に貫いた――

「……なん……で……?」

 ――優人の服の側面を。

 服は鋭く貫かれているものの、優人の肌には、爪は触れていなかった。

 おいらは、耐え切れずに、感情を爆発させた。

「出来ない! そんなの出来る訳がない!」

「!」

「嫌なんだよ! お前を殺すなんて! お前が死ぬなんて! そんなの、おいらには耐えられない!」

 おいらの叫び声が響く。

「知ってたんだ! おいらの魔法が全然役に立たない事を! 効果がない事を!」

「!」

 そう。

 おいらは、上級悪魔なんかじゃない。

 今まで数多くの人間達に出会って来たが、願いは、一つも叶えられた事がない。

 どれだけおいらが一生懸命魔法を唱えても、効果を発揮しないんだ。

 今回もそうだった。

 優人が六輪に勝てたのは、優人自身が空手の事を調べて、毎日必死に厳しい特訓をしたからだ。

 おいらの魔法は、全く役に立たなかった。

 決壊し、溢れ出したおいらの感情は、止まらなかった。

「今まで会った人間達は、みんな馬鹿にして来た。『悪魔の癖に、使えない』、『この役立たずが』って」

 おいらの目から、大粒の涙が溢れる。

「初めてだったんだ! おいらの事を傷付けないように、失敗ばかりのおいらの魔法を、努力して、願いを自力で叶える事で、〝成功〟させるなんて……そんな事してくれたのは、優人が初めてだったんだ!」

 おいらは、続けて言った。

「お前を殺すなんて……おいらには出来ない!」

「マーク……」

 すると、突如――

「「!」」

 おいらの下の床に、魔界の魔法陣が現れて、おいらの脚が飲み込まれていく。

 おいらは咄嗟に飛んで逃れようとするも、魔法陣の力は強大で、抗う事が出来ない。

「マーク!」

 優人が、おいらに手を伸ばそうとする――

 が。

「うわっ!?」

 見えない何かに弾かれた。

 魔法陣の上の空間には、円柱形の魔法障壁が展開されているらしく、優人が何度も叩くが、ビクともしない。

 魔法陣に飲み込まれながら、おいらは心の中で呟いた。

 ここまでか……

 でも、これで優人は死なずに済む……

 これで、良かったんだ……

 これで……

 そう思い、おいらは目を閉じた。

 すると――

 ――右腕が、誰かに掴まれた。

 驚いて、おいらが目を開けると――

「マーク!」

 優人が、おいらの腕を掴んでいた。

 見ると、サイドフレームと呼ばれる、ベッドの側面の板を左手で掴んだ優人が、右手を思い切り伸ばして、おいらの手を掴んでいた。

 そして、おいらの腕を掴む優人の手は――

「!」 

 ――皮が捲れ、出血していた。

 その手と、現在の状況から考え得るのは――

 魔法障壁を拳でぶち破ったのか!?

 と、おいらは驚愕する。

 後から知った事だが、実は、おいらは、魔力の使い方は拙いが、魔力の量は、決して少なくなかったらしい。

 そのおいらの魔法――魔力を、一ヶ月間、毎日欠かさずに身体全体に浴び続けるという、普通の人間ならば一生経験しない事を、優人は行っていた。

 おいらの使い方が下手であるが故に、何の効果も発揮せず、魔力は優人の身体から消えずに残り、徐々に積み重なって行った。その結果、目には見えないが、優人の身体は魔力で覆われていたんだ。

 その状態で、優人は、魔法障壁に対して正拳突きを繰り返した。

 そうして、魔法障壁は破壊された。

 だが、魔法障壁を突破したとはいえ、魔法陣の力は未だ健在であり、悪魔であるおいらが自力で逃げ出せないのに、人間の――しかも子供の力で、引っ張り出せる訳が無い。

「優人、手を離せ!」

「……嫌……だ……!」

「お前まで飲み込まれるぞ! いいから離せ!」

「……嫌だ……! ……だって……友達……だから……!」

「!」

「……友達を……見捨てたり……なんて……出来……ないよ……!」

 友達……友達、か……

「ありがとな、こんなおいらを、助けようとしてくれて……でも、もう良いんだ」

「……マーク……?」

 おいらが諦めようとしているのが、優人に伝わっていった。

 すると、優人は叫んだ。

「……諦めちゃ……ダメだよ……!」

 そして、ありったけの思いを込めて、続けた。

「……マークが……諦めずに……何度も……魔法を……使ってるのを……見たから……僕は……頑張れたんだ……!」

「!」

 必死に叫び、全力で引っ張り続ける優人を見て――

 ――おいらは、口角を上げた。

 心の中で、呟く。

 おいらは、落ちこぼれの悪魔だった。

 何の才能もなく、何の取り柄もなく。

 何のために生まれて来たのかも分からない。

 糞みたいな一生だった。

 だけど――

 最後に、お前と出会えた。

 お前と出会えて……良かった。

 おいらは、穏やかに微笑むと――

「ありがとな、優人」

 ――左手を使い、右手を掴む優人の手を――強引に振り解いた。

 おいらは、勢いよく魔法陣に飲み込まれて行く。

「そんな!? 待って! マーク!」

 ベッドから手を離して、優人がおいらを救おうと跳ぶ。

 ――が、おいらはもう、消えていた。

 おいらの意識が途切れる直前。

 遥か遠くから、優人の泣き声が聞こえた気がした。


 ………………

 ………………

 ………………


 そして、暫くすると――


 ポンッ。


 何かが爆ぜるような音と共に、煙が充満して――

「あれ!?」

 ――おいらは、目覚めた。

「おいら、死んだはずじゃ!?」

 そう呟くおいらに――

「マーク! マークマークマーク!! うわあああああああ!!!」

 優人が、抱き着いて泣きじゃくった。

「ったく。お前は、泣き虫だな」

 と言って、優人を抱き締めると、おいらの頬を涙が伝った。


 暫くすると――

「!?」

 おいらは、眩い光に包まれ、その光は更に輝きを増して――

「………………!」

 ――光が消えた後、おいらは、真っ白な髪に白い翼、純白の服、頭上には光り輝く輪が浮かんでいた。

 すると――

「ああっ!」

 ――おいらは、叫び声を上げた。

 そして――

「何で今まで忘れてたんだ!?」

 ――全てを思い出した。

 そう。

 おいらは、悪魔ではなく、天使だった。

 元々天使として生まれたおいらだったが、天使としての仕事である、人間の恋愛成就の手助けを全くせず、遊んでばかりだった。

 おいらは、人間に興味が無かったし、どうでも良いと思っていたからだ。

 そこで、何度注意しても態度を改めず、いつまで経っても怠けているおいらに対して、おいらの母親である女神が罰を与えた。

 それが、悪魔の姿に変身させて、記憶を操作して自分が悪魔だと信じさせた上で、人間の事を良く知る為に、人間界に送り込む、という事だった。

 悪魔の姿にする際には、その能力は天使だった時の功績に準じるとしたために、功績が皆無であったおいらの魔法の才能は、壊滅的なものとなった。

 そして――

「母ちゃんが呼んでる……もう、行かなくちゃ……」

 と、おいらは呟いた。

 別れが悲しいのか、優人は泣いている。

 情けない奴だ。

 え? おいらもだって?

 これは、その、アレだ! 優人の部屋は埃っぽいからな。うん、そのせいだ!

 そして、おいらは、優人とお別れした。

 最後は二人とも、笑顔で、な。


 で、その後、天界に帰ったおいらだけど。

 性格なんて、そう簡単に変わるもんじゃない。

 未だに、人間には余り興味は無い。

 けど――

「母ちゃん、分かってるって! 研修には参加するから!」

 ――アイツの恋なら、応援しようと思う。

 ……ん? 母ちゃんがまた何か叫んでる。

 って、え!?

「研修に遅れたら、また悪魔にする!? それだけは勘弁してえええええ!!!」


―完―

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