第9話 あーあ

あれから、あのお見合いから、私は何かおかしい。

すぐボーっとしてしまうし、いつもはしないミスをしてしまうし…どこか体が変なのかしら。

今日だって朝、寝坊してしまった。目覚まし時計をかけ忘れたのが原因だ。お母さんがギリギリに起こしてくれたけど、なんで今日に限って忘れたんだろう。


悩みは沢山ある。人間ってそういうもんだ。


些細な悩みが、大きな悩みに変わってしまうこともある。些細に思っていたはずなのに、私の中でどんどん大きくなってる。

彼のことだ。


最初は腹立たしい人だと思っていた。無愛想で、無関心。

私は結構、可愛いと思う。容姿が整っていて、上品。普通の男性なら2度見は確実というくらい自信はある。

でも彼は違った。彼の視線に私はいない。彼は色々見ているようで、結局なにも見ていない。

それが本当に腹立たしかった。

「私を見て!」。そう思った。


けど今は違う。…「私を見て!」に変わりはないけれど、腹はたってない。その代わり、私の頭の中から消えないで、ずっと残っている。


彼は今、なにをしているのだろう。

本とか、読んでそう。好きっぽい顔してるし。

寝るのもめちゃくちゃしてそう。性格的に、友達いなさそうだし、…人のことは言えないけれど。

意外に、女の子と話してたりして…。


私の知らないところで楽しそうにする彼を思うとお腹がキュッとなります。


やだ、私、嫉妬してる…?


確証はないのに私以外の女の子と楽しそうにする彼を思うと…もう。


「齋のこと、もっと知りたい…」


1日しか会ったことのない、はじめての男性。

顔は整っているけれど、無愛想な目つき。

揺れる前髪、少し浮き出た手の甲の血管、リズムのいい静かな呼吸、シャツ越しから浮かぶ肩甲骨…。


私、彼のこと意識してる…。


「い、つ、き」


そう、名前を呼ぶと、体が燃えるように熱くなる。


「はぁ〜齋ぃ。熱いの止まんないよぉ❤︎❤︎」


もっと彼のことを見たい。知覚していたい。

手に入れたい。



「パパ、この間のお見合いのことなんだけれど…」


私はもう、見逃さない。



そろそろ来るよね。


齋の学校のチャイムが鳴ったタイミングで、丁度門前に着いた。


人はまだ誰も校舎から出てこない。

門前では静寂が身を包む。


『トクンッ、トクンッ、トクンッ』


心臓が煩い。止まらなくなってる。

昨日からずっとだ。彼のことを考えると決まってこうなってしまう。頭がだんだん気持ち良くなってきて、身がトロトロに溶かされる。

自分でもどうかと思うくらい、甘えた猫みたいな声が出て「齋、齋」と、彼の名前を呼び続けていた。


「んんんん〜♪」


鼻歌で紛らわそう。

そう思って無理やり鼻歌を歌ってみたけど、だめだ。無理。

忘れるの、無理。


はぁ〜。制服姿、どんななんだろ。

まさか約束、すっぽかさないわよね。

早く会いたいよぉ〜齋❤︎❤︎。


「…ルカ」


突然、後ろから声がした。

あぁ、彼だ。反射的に振り向いてしまう。

少し低い、透き通った声だ。声の主はもちろん…


「齋!もう、遅いじゃな…い…」


いたのは齋だ。しかし、立っているのは二人。私の彼の隣にいるのは、誰?


「…初めまして、花谷ルカさん?天川由良と言います!新島くんが、お世話になってます」


ギロっとした敵意の視線が私を迎えていた。

_________________________________________


まさか女の子に恥、かかせないよね、齋くん

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