第19話

 ルミンの修行を受け始めてから1週間……今まで一人でやってきたことから、新しい発想、新しい知識、新しい技術を身につけることができ、自分的にはかなり成長することができた。


 闘技大会へは無事に登録をすませ出場することができるようになった。

 先日、ここの受付に来た時とは違って今は全然違った景色が見えている。


「また懲りずに来たのか。冒険者にすらなれないお前が闘技大会になんて参加したって勝てるわけないのにな。まぁでもこれで実力を知るのも大事だろうよ」


 絡んできたのはB級冒険者のケルクだった。

 なぜだろう。前の時も小物感がすごかったが、今では相手にするのもかわいそうなくらい何も感じなくなっていた。


「そうだな。実力を知るために俺は参加するわけだから、気にしないでくれないかな」

「コロン……相手にしなくていいですよ?」

「わかってます」

 ルミンの顔を見た瞬間……ケルクの顔が曇る。

 前回のことを思い出したのだろう。


 身体の中で魔力を回転させながら、いつでも戦闘できるようにしておく。もう前の時とは違うのだ。


「コロン、やめておきなさい。勝負はちゃんとルールのあるところでやらないと。どんないいがかりをつけられるかわかりませんよ」

 ルミンは俺の身体の中で魔力を回しているのに気が付いたのだろう。

「大丈夫ですよ。師匠」


「ハハハッまだこんな子供を師匠なんて言ってやがる。頭おかしいんじゃねぇの?」

 こないだルミンにやられたことを忘れているこいつ等に頭がおかしいとか言われる筋合いはないが、ルミンがそのままスルーして行ったので俺も聞かなかったことにする。

 勝負は闘技大会でつければいい。


「雑用の屑やろう! てめぇまでなにシカトしてるんだよ」

 ケルクは俺の肩を持ちながら思いっきり手前に手を引くが、俺の身体はとっさに体幹へと魔力を流したことで、ケルクの力にも負けなかった。


「放してもらえますか?」

 俺の身体に触れていたケルクは、俺の変化に気が付いたのかゆっくりと肩から手を離した。今ならなんでもできる気がしてくる。

 俺はそのままケルクを無視してルミンの後ろを歩き出した。

 いよいよ修行の成果を見せる時だ。そして賢者の弟子になる。


 闘技大会に申し込んだ人間はかなり沢山の人がいた。初戦はバトルロイヤル形式で各ブロックで10人ずつで戦いあうことになった。

「コロン! 頑張ってくださいね!」

「コロンさんなら余裕ですよー」


 大きな声で応援してくれるルミンとその横にはナツの姿があった。

 誰もナツがいることに違和感を覚えていないようだが、あれがナツがケットシーの魔法なのだろう。


 1週間の修行の間、ナツはいつも食事の時間にきては物々交換や材料を持ってきては料理の依頼をしにきていた。

 俺も珍しい食材などを料理することができて、何気に楽しかった。

 ナツとはかなり仲良くなれた気がする。


 応援してくれるのは沢山の人がいる中で2人だけだが、それでもこの1週間の成果を見せたいと思う。

闘技場の中心に人が集められ、簡単なルールの説明があった。


 あくまでも、これは自分の実力を見せるためのもので、命のやり取りはしないこと。

 怪我は自己責任で回復薬は自分で準備すること。

 そのため、怪我をしたくなければ早めにリタイヤすること。

 など内容はそんなところだった。


 ルール説明なんてほとんどの奴は聞いていなかったけど。

 審判はいるので、危なくなれば止めるということだった。


「それでは各ブロックに分かれて予選を始めるから」

 係員の指示に従って各ブロックに分かれる。


 俺のブロックにはケルクの取り巻きたちが数人いた。

 初戦は集団での勝ち抜きのため、知り合いがいて協力できる方が有利だ。

 まぁ……元々俺には協力できる仲間はいなかったんだけど……寂しい限りだ。

 各グループに別れ、一斉に戦いが始まった。


 戦うことへの恐怖心は、1週間の修行のおかげでなくなっていた。死なないとわかっているだけ、ダイオウイカがいる荒れ狂った海に投げ出されるよりはマシだった。


「死ね! コロン!」

「弱い奴から片付けろ」

「行け―」


 まずは頭数を減らしていくのが目的なのか、一番最初の俺が狙われた。

 だけど……遅い!


 ダイオウイカとの戦いで覚えた雷魔法は自分の基礎スピードを格段にアップさせることができた。魔力を循環させ、一人目の顎に掌底をくらわせる。崩れていくのを横目で確認しながら、驚いた顔をしている二人の男たちに回し蹴りをいれる。


 スピードがあがっているため、ダメージも格段に増えている。

 俺が最弱だと思われていた油断もあったのだろうがケルクの手下たちはあっという間に戦闘不能にしてしまった。


 他の争っていた人たちが、俺が3人を瞬殺したことで争いをやめこちらを警戒してきた。潰しあってくれればと思ったが、そうはいかなかったようだ。


「おい、あいつから先に潰さないか?」

「そうだな。俺たちの決着はそのあとだ」


 冒険者風の男たちが争いをやめ俺を警戒して共闘してきた。相手がどれくらい強いのかわからないからかドキドキが止まらない。ケルクの手下の時は心構えよりも先に動いていたのでいいけど……悩んでも無駄だ。


 いっきに距離を詰めるのに足に雷の魔力を込める。

『うぐっ』

 魔力を使いすぎて俺の方が一瞬気持ち悪くなった。危ない。緊張するとまだ魔力操作がおろそかになるが動けなくなるほどではない。


 でも、そのおかげで今回最高スピードのまま冒険者一人の懐に飛び込み、そのまま場外へとふっ飛ばした。もう一人は冷静に俺へと切りかかってくるが、そのスピードでは遅い。


 半身になって相手の攻撃をかわし、回転しながら脇腹へ一発蹴りを放った。

 10人での戦いだったが、そのうち5人をあっという間に戦闘不能に追い込んだ。

 

 ルミンのおかげで修行の成果がでている。

 残りは俺のを除いて4人だが……残りの4人のうち3人はリタイアしており、その一人もすでにボロボロになっていた。


「やりますか?」

「き……棄権します」


 ほぼ無傷で勝ち残った俺とでは勝負にならないと思ったのか、男はあっさり棄権してくれた。余計な力を使わずにすんで助かった。

 俺の予選が終了するとルミンとナツが出迎えてくれた。


「途中で、気持ち悪そうな顔してましたが大丈夫ですか?」

「なにをおしゃっているんですか。余裕でしたよね?」

 途中で気持ち悪くなっていたのは、ルミンにはしっかりとバレていた。


「師匠には勝てませんね。途中で魔力使いすぎてしまって」

「油断大敵ですよ。常に冷静になっていればコロンが負けることはないんですから」

「精進します」

 俺と違うブロックでケルクと、グッドルが勝ち残っていた。

 ケルクと戦うにはベスト4……グッドルと戦うには決勝まで勝ち上がるしかなかった。

 絶対に優勝してみせる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少女と始める大賢者への道 かなりつ @KanaRitsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ