第38話 神人との死闘
閃光に照らされた幻装兵の白い機体が、畏怖の光を
幻装兵の携えた剣の切っ先は、尾根に立つ羅刹鬼へと真っ直ぐに向けられており、搭乗者である終末の巫女・アルカナの粛正の意思を告げていた。
『やはり、反魂術を行使するつもりでしたね』
激しい雨と雷鳴の合間に静かな声が降る。
アルカナの問いかけに、キサラは羅刹鬼を通じて彼女を挑むように睨んだ。
「私には、もうそれしかないの。そのために生きてきたから」
――
『忌まわしきハクライの民よ。最後の生き残りよ……。あの巫女の言葉を信じたのが、私の最大の過ちでした』
アルカナの声は僅かに震えていた。
『禁忌を犯す者を殺すのに、迷いなど無用、情けなど無用……。私は、最初から与えられた使命を全うするしかなかった!』
アルカナが叫んでいるのは自分への怒り――粛正を担う神人であることへの絶望だ。
「ええ、そうよ。終末ノ巫女アルカナ」
キサラは微笑みとともに、アルカナの名を口にした。
「私を殺せば全てが終わるわ」
激しい雨が機体に叩き付け――
そして止む。
鈍色の雲が渦を巻いて、羅刹鬼の頭上で雷鳴を轟かせている。
いつでも雷で撃ち抜くことが出来た。
だが、アルカナは敢えて剣を抜いた。
『では、望みの通りにしましょう』
あくまで、自分の手で幕を引きたいという意思の表れにイルフリードは僅かな勝機を見出していた。
『この手であなたの命を断ち、この負の連鎖を終わらせます』
『……俺を倒してから、その台詞を吐くことだ』
イルフリードが出力を上げた
アルカナがそれを剣で払うよりも早く、イルフリードが一太刀を浴びせた。
漆黒の闘気を立ち昇らせたイルフリードの大剣に呼応するように、幻装兵の剣にも風が集まり、刃を鋭くしていく。
二振りの剣が、渾身の一撃をぶつけ合うその光景に、キサラはじっと目を凝らした。
風を帯びた剣が強力な風圧を帯びた一撃を繰り出す。
イルフリードの機体が僅かに傾いだが、彼の魔眼はそれすら読んでいたかのように出力を上げた
イルフリードの機体を外れた風の刃は、岩盤を削り、粉砕する。
激しく破片を散らせるその軌跡に跳躍して飛び込んだイルフリードは、アルカナが作り出した岩盤の煙幕に紛れて剣を振り下ろした。
幻装兵は咄嗟に退き、イルフリードの大剣は大地を裂く。
『キサラ、援護だ!』
イルフリードの声が聞こえるよりも早く、サヤの匂いがしたような気がした。
口を突いて出たのは、自分も知らない詠唱だった。
「――炎よ、疾く刃に集いて牙と為れ――
蒼炎が刀を包み込み、炎の刃と化す。
『やれば出来るじゃねェか! そう来なくっちゃよォ!』
羅刹鬼は嬉々として跳躍し、幻装兵に斬りかかった。
『自ら来るとは……』
風の刃と炎の刃が競り合い、激しい剣戟になる。
羅刹鬼の動きは、これまでの野性的なものとは一変し、まるで舞うように鮮やかな剣戟を繰り出していく。
『……攻撃の手法を変えたようですが――』
剣を受け止めながらアルカナが感嘆の息を吐く。
『無駄です』
風が羅刹鬼の頭部を狙って放たれるが、羅刹鬼はそれを直前で大きく身体を傾けるようにして躱し、背に装備していた槍を抜いた。
『はン! 攻撃を見切ってンのは、わしも同じだァ!』
刀と槍を振り回しながら、羅刹鬼が休む間もなく攻撃を繰り出す。
アルカナが初めて防御に回ったその時。
漆黒の闘気が陽炎のように揺らめいたかと思うと、イルフリードの鋭い一撃が幻装兵の背後から浴びせられた。
『な……』
地面から巻き起こった旋風が剣の起動を僅かに逸らし、幻装兵の装甲への直撃を回避する。
『数ではこっちが上だ』
『イルフリード!』
キサラの声に反応して羅刹鬼が左手を構え、
イルフリードの剣にも蒼炎が宿り、漆黒の闘気と入れ替わりながら激しく燃えさかった。
『悪くない』
イルフリードは蒼炎の刃を得た剣で、アルカナを圧していく。
剣を振り下ろすと同時に炎がアルカナ機の装甲に喰らいつくように襲いかかる。
剣を巧みに閃かせ、イルフリードは連撃を叩き込む。
『剣の重みが変わりましたね。部下の仇討ちという名目が加わったせいですか?』
剣を受ける側に回ったアルカナの声は、到って冷静なままだった。
『貴様には関係のないことだ』
『ウォおおおおっ!』
イルフリードの攻撃に羅刹鬼も加わり、剣と刀、槍がアルカナの機体に集中する。
『……甚だ疑問です』
二機が全身全霊で繰り出すこれらの斬撃を、アルカナは全て受けた。
その顔が決して圧倒されているわけではなく、あくまで涼しい顔で受け止めている。
それは、アルカナの静かな呟きからはっきりと伝わってきた。
『何がおかしいンだよォ!?』
キサラの怒りを代弁するように、羅刹鬼が叫びながら槍と刀を振るっている。
『
突き出された槍を剣と風で薙ぎ、疾風を起こして炎を纏ったイルフリードの一撃を躱す。
防御に回っていても、アルカナに焦りは見られない。
『あなたの反魂術への執着は、どうすれば断てるのでしょう? 命を絶つ以外に道は――』
「これで最後よ。もう私たちに干渉しないで!」
――神人がハクライの里を滅ぼさなければ。
――サヤを殺さなければ。
――エンネアを殺さなければ。
「あなたのせいで、こんなことになったのに!」
キサラの怒りで増幅した炎が、蒼色の花びらのように散りながら、アルカナの剣と激しくせめぎ合う。
『退け、キサラ!』
イルフリードが剣に纏わせた炎を
だが、イルフリードの追撃は、アルカナが起こした暴風によって阻まれた。
『……ッうォ!』
風に煽られた羅刹鬼が転倒する。
すぐに体勢を整えて跳ね起きたが、目の前に鋭い風が降った。
『ぐぅっ!』
羅刹鬼が呻きながら左腕を差し出し、胴部の損傷を防ぐ。
左腕は振り下ろされたアルカナの剣によって刎ね飛ばされた。
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