第6話 プランCの実行

 今日は週末で学校はお休み。朝食後・・・姉はいつものようにすぐに自室へ戻ってしまった。何故かと言うと、それは大好きな本を自室に籠って好きなだけ読む為である。


「全く・・リリアンは本の虫ねえ・・・。」


母が立ち去ってしまった姉の席を見つめながらため息をつく。


「ああ・・全くだ。読書をしないルチアと足して2で割れば丁度良いのに・・・。」


言いながら、父はチラリと私を見る。


「何ですか?お父様。言いたいことがあるならはっきり言って頂けますか?」


「い、いや。別に。」


父は私から視線を逸らすと、コーヒーを飲んだ。私はデザートのプリンを食べながら思った。全く・・・両親がもっとしっかりしてくれていれば、ジェイクの事で私がこんなに頭を悩ます事は無いのに・・・。能天気な両親が羨ましくて仕方が無い。それにしても・・どうすれば姉の方からあのクズ男ジェイクに婚約破棄を言い渡してくれるだろうか?・・・こうなったら最後の手段、プランCを実行するしかない。姉を傷つけてしまう事になるかもしれないが・・・あのジェイクと婚約するくらいなら、今姉が傷ついてでも将来を見据えて実行するのみだ!プリンを流し込むように食べると私は席を立った。


「あ。ルチア、そう言えばセルジュがバラ園に来ているのよ、貴女に用事があるみたいなのだけど・・。」


母が背後から呼びかけてきた。


「またにしておいてくださいっ!」


私はそう言ったのだが、どうも母は聞き間違いをしてしまったらしい。

・・・この聞き間違いが後で大きな波紋を呼ぶことになるとはこの時の私はまだ知る由も無かった・・・。



コンコンコンコン!


左手に束になった書類を持ったまま、せわしなくドアをノックする。そして私は姉に呼びかけた。


「お姉さまっ!ちょっとお話宜しいですか?」


「ええ、どうぞ~。」


間延びした姉の声に呼ばれて私はドアを開けた。


「失礼します。」


「どうかしたの?ルチア。」


姉は開け放した窓の傍にある大きな丸テーブルの上に本を置き、椅子に座りながらこちらを見ていた。姉の背後ではレースのカーテンが舞い上がり、バルコニーの奥では緑の木々の葉が風に揺られてざわめいている。その一瞬の光景に入り込む姉の姿は・・・まるで1枚の絵画のように幻想的で美しかった。

うん、やはりこんな美しい姉にはあのクズ男ジェイクはもったいなさすぎる!

私は覚悟を決めると、ツカツカと姉の傍に歩み寄ると言った。


「お姉さまッ!私はジェイクがどれほどまでにお姉さまを貶める言動をしてきたのか、証拠を集めてまいりましたっ!」


そして姉の前にバサアッとチャーリー達から集めてきた調書をテーブルの上に並べた。


「まあ。これは何かしら?」


文章を読むのが大好きな姉は嬉しそうに尋ねてきた。


「お姉さま・・残念ながらこちらの書面は決して面白いものではありません。不快か、悲しみ、怒りしかこみ上げて来ないような内容かもしれませんが・・・ジェイク様が普段からどのような言動でお姉さまの名誉を傷つけてきたのかが、事細かく詳細に書かれています。どうか目を通していただけますか?そしてご決断下さい。私が必ずお姉さまをすくって見せますので。」


まるで主に忠誠を誓う騎士?のようなセリフ私は姉に言った。


「ルチアの言ってる意味が良く分からないけれど・・・とにかく読んでみる事にするわ。」


そして姉は4人分の調書に目を通し始めた。



1時間後―


「はい、読んだわ。ルチア。」


姉は全員分の書類をトントンと揃えると笑顔で言った。


「そうでしたか、それで?」


「それで・・・って?」


「何か思うところがありましたよね?」


「え・・いいえ・・。これと言って特にないけれども・・・?」


姉は首をかしげる。


「え・・・?無いのですか・・?」


私は耳を疑った。


「ええ、そうね。」


「だって・・・読みましたよね?こんな言い方しては何ですけど・・。ジェイク様はお姉さまの悪口を思いっきり世間に言いふらしていますよね?」


「ええ、そうねえ・・・。」


「およそ人の感情というものを持ち合わせない人間だとか、本と男にしか興味がない変人だとか、いつもぼ~っとしていて何を考えているか分からないが、それは仮の姿で、本当は男に受けるための演技をしているだけで、実はとんでもないあばずれだとか・・・!」


「・・・。」


姉は笑みを絶やさず、じっと私の話を聞いている。


「どうですかっ?!ここまで聞けば・・・さすがにジェイク様と婚約破棄する気になりましりましたよね?」


「いえ・・・別に・・。何といってもこれは恋愛による結婚では無く、家同士の結婚だし・・。」


「お・・・お姉さま・・。」


そんなっ!姉が自らの意思で婚約を破棄しないのなら・・このままでは姉とジェイクは結婚してしまい、ジェイクは何も文句を言わない姉の前で、堂々と浮気しまくるに決まってるっ!これではジェイクの思うつぼだっ!


「クッ・・・!こうなったら最後の手段・・・っ!」


私は目の前の書類を引っ付かんだ。


「あら?どうしたの?ルチア?」


「お姉さま・・・私はこれからジェイク様のお父様の処へ行って、この調書を見せに行ってきます。これを見せれば・・さすがにジェイク様のお父様もお2人の婚約を破棄してくれるかもしれませんっ!」


「え?ルチア?一体何を言ってるの?」


「まあ、お任せください。お姉さま。」


 姉にウィンクすると私はすぐに自分の部屋へ取って返し、いつものエプロンドレスに着替えると・・自転車でレイモンド家へと向かった。



そして・・・その道すがら、私はとんでもない光景を目にするのだった―。





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