第15話

「たしかあなたには2つ年下の弟がいる。そして、あなたと弟は犬猿の仲であり、もし弟が当主になれば、あなたはお払い箱だ。」


「つまり、私が弟に負けると?」


マクルーガー様は大変優秀な方だったはずです。何か不安要素でもあるのでしょうか。


「いえ、可能性の話をしているだけだ。

それに、可能性がある以上、あなたなら何か手を打つはず。それが、ローゼとの婚姻だとしたら?我が家から嫁をとっていれば、あなたの立場は盤石なものになるだろう。そうすれば、たとえ仲が悪かろうともあなたを蔑ろにはできない。」


なるほど、彼は保険の意味もあって私との婚約を望んでいたのですね。

弟さんと仲良くすればいい話なのでしょうが、世の中、特に貴族社会では簡単にはいかないでしょうしね。


「ははは、そんなことはありませんよ。私は両家のことを考えてこの縁談を持ちかけているのですよ。それに、私があの愚弟に負けることなど万に一つもありません。」


「ならばどうでしょう、まずは少なくとも次期当主に内定してから、改めてお話を持ってきていたいただくというのは。」


「なに?それは、私を信用できないということですか?」


「当然だ。断っても断ってもこの縁談にこだわるにはそれ相応の何かがあると考えるのは当たり前だろ?

それに、あなたは自分の弟に負けることはないと言ってはいるが、次期当主にまだ指名されていないのだから不安要素があるというのは自明。」


お兄様が今おっしゃっていることは、かなり失礼なことではあるけれど、確かにこのしつこさは何かあると考えてしまうほどでした。


「マクルーガー様、家ではなく、あなた個人が私との縁談にこだわる理由はあるのですか?」


「ですから、貴族間の婚姻に感情などいらないのですよ。もちろん、私はあなたを大切にすると誓います。」


はあ、やはりこの方とは結婚できないですね。この方は私を人間だと思っていない。貴族間の婚姻は、たとえ政略結婚だとしても、お互いに尊重し合い、そして、愛そうと努力しなければすぐに崩壊してしまいます。

私は、元王太子殿下との婚約破棄の後、私にも殿下を御しきれなかった責任があったのではないかと考え直しました。そして、次があるなら、その時はしっかりと相手を愛し、周りのためになる婚姻というだけでなく、お互いが幸せを掴める婚姻にしようと決めているのです。


「やはり、あなたとの婚姻はお受けできません。それは、この後どれだけ利があるとしても、あなたがどれだけ迫ってこようとも、絶対にあり得ません。」

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