phrase.6
26.一度人気になったら中だるみしても許されるから不思議よね。
「ねえ、
「まあ、それは確かに……ってあれ?」
四月一日はあたりを見渡す。その視界にはいつもの教室が映る。あまりにも見慣れ過ぎて、見飽きた、いつもの光景だ。
「え、旅行は?」
「やあねえ四月一日くん。ゴールデンウィークはもう終わったのよ。前に進まなきゃ。そんなんだから右曲がりなのよ」
黙らっしゃい。誰が右曲がりか。
まだ疑問の残る四月一日は、
「え、それは分かるんですけど、あの、旅行ってあれだけなんですか?」
「あれだけ?」
「いや……神社にいって、それで終わりなんですか?」
渡会はぴたりと四月一日の額に手を当てて、
「熱は無いわね……そうなるとやっぱり脳の問題かしら」
やっぱりってどういうことだ、やっぱりって。
渡会はこほんとわざとらしく咳をして、
「ねえ、四月一日くん。続きものって新規の読者が入りにくいと思わない?」
「……もしかして、カットですか?」
「カットじゃないわよ。キングクリム○ンよ」
一緒である。
渡会は語る。
「そりゃね。旅行はあの後も色々あったわよ。熱海プリンも食べたし、足湯にもつかったし、寛一お宮像も見たし、寛一のポーズをとった四月一日くんをこれでもかってくらい踏みまくったし、温泉にだって泊ったけど、それを延々とやっていたら、新規の読者が入りづらいじゃない。だからあえてのキングク○ムゾンよ」
「え、泊ったんですか?温泉」
渡会はにやりとして、
「ええ。四月一日くんはなかなかどうしていいものを持ってるってのが分かったわよね、右曲がりだけど」
「何の話!?」
記憶を遡れば確かにあの後色々あったのは覚えている。ただ、温泉には泊まっていないし、当然自分のものを見せた記憶もないし、右曲がりでもない。完全なる捏造である。
ただ、それとは別に、
「つまり、話を先に進めたほうがいいと思ったってことですか?」
「そういうことよ。ほら、よくあるじゃない。すっごい巻数になっちゃってて、しかも途中が中だるみしまくってるくせに「国民的!」とか言われてるような漫画。ああはなりたくないじゃないの。ねえ?」
ねえ?ではない。
そろそろ喧嘩を売っていない方向が少なくなってきた気がする。四面楚歌どころの騒ぎでは済まなくなるからやめていただきたい。
「それで?渡会さん的には何が新規の読者を掴む要素だと思うんですか?」
「エロ」
「待てこら」
言ったよ。
言い切ったよこの人。
確かに、ラブコメとエロは正直、切っても切れない関係にある。
それこそお色気を前面に打ち出しているものもあれば、あまりにもお色気要素がないもんだから、パンチラすらないのはラブコメとしてどうなんだということで、わざわざエロ要素をふんだんに取り入れたスピンオフが描かれる場合もある。
それくらいエロとラブコメというのは密接な関係があるわけで、渡会の言っていることはあながち間違ってはいない。
いないのだが、
「……ちなみに聞きますけど、渡会さんの思う「エロ要素」ってどんなのですか?」
「え?セック○。本番のシーンを挿絵ありで書いておけば売れるでしょ?」
駄目だこりゃ。
本日も渡会の毒舌は絶好調……いや、舌好調の様だった。
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