第52話 いつか大人になる日まで
純子が帰る時間になったので、家から一緒にでた。秀明もお父さんも、純子にでれでれだったのが笑えたかも。秀明は、「なあ、純子さんと兄ちゃんと結婚したら、僕、弟になれるんやな。兄ちゃん、純子さんに振られんように気をつけてや。弟になられへんかったら兄ちゃんのせいやで」と真剣な顔して言った。お父さんも続いて「ほんまやな。こんな可愛いお嫁さんに、お義父さんと呼ばれたい。憲武、もし純子さんに振られたら、家に入れたれへんからな」と横目で俺を見た。
純子と俺は顔が赤くなり、それを見たふたりにからかわれた。
「純子、お父さんと秀明がうざかったやろ。ごめんな。ほんまにうちの家族、めちゃうるさいから」
「賑やかでええやん。それにうちの事歓迎してくれてたのが伝わってきたから、嬉しかったわ。うちをのりのお嫁さんになんて、気がはやいなあ」
純子は笑いながら顔を赤くして、俯いた。
「お父さんと秀明は、純子が大好きやからなあ。なんか純子が、俺の嫁さんになる事前提で話してたし」
「そうやな。のりお父さん、うちらが一緒になった時の為に、近所に住む計画を立てると言いだしてたし。秀明君も弟になりたいとか言ってたし。のりの家族って、冗談好きやねんな」
純子の言葉に俺は苦笑いする。いや、純子、それは本気や。秀明もお父さんも、純子については冗談なんか言わへん。なぜならふたりともお花畑の住人やから。お父さんがお母さんに裏切られて、でていったんやけどその原因はあのお花畑や。お母さんは現実的なタイプやったから、そこがあかんかったみたいや。だからとゆーて、ふたりも子供おるのに、不倫なんかしたらあかんと思うけど。
お母さんの家族の女性達は、不倫ざんまいしていて、自分勝手な言い訳をして、周りを巻き込んでいた。お母さんは、お父さんがいない時は、家に帰らない日が続き、さんざん育児放棄しといて、俺達を育てるのに疲れたとぬかしやがった。お母さんの妹も、不倫の為に、自分の子供のめんどうを俺に押し付けてきた。仕事だからという理由をつけて。当時小学生の俺は、母のいない間、弟の世話をしていたから、1人世話する子が増えるくらいはなんともなかったが、後で理由を知って、どれだけショックだったか。母やその妹が原因で、俺は女そのものが嫌になり、気づいたら男ばかり好きになっていた。まさかそんな俺が女の子を好きになるなんて…。俺は純子と話ながら、これまでの事を思いだして、少しだけセンチになり、黙り込んでしまった。
その後、俺と純子は、手を繋いで公園を歩いていた。この先の道路を渡れば純子の家が見える。純子の横顔を見ると赤くなって俯いていた。俺もなんだか気恥ずかしくなった。
道路を渡って、純子の家の前に着いた。
「のり、送ってくれてありがとう」
純子の顔を正面から見た途端、俺は純子を抱きしめていた。純子は驚いて赤い顔をしたが、俺の背中に手を回して、そっと寄り添ってくれた。
「今日はこめんっ!貴が純子にした事思いだしたら、すごくもやもやして…」
純子は俯きながら答えた。
「ううん、うちこそ不安にさせてごめんやで。転校してきたばかりで寂しそうにしてたからって、のこのこと他の男の子に家に着いて行くなんて、無防備すぎやったわ」
無口になったまま、純子を抱きしめ続ける。道路の脇では、数台の車が通り過ぎていくのを見て、いまからクリスマスの人もおるんやろうな〜なんて思った。
「純子、今日はありがとう」
そろそろ純子を家に帰さないと、家族が心配するやろう。そう思った俺から、話をきりだした。純子は俯いたまま頷き、話し出した。
「〜今日ののり、ちょっと怖かった〜なんか、知らない男の子みたいで…」
「…ごめん」
「…怖かったけど、のりならええかも…って思った。まだ、そのっ…最後まで知るのは、まだまだ怖いからイヤやけど…」
純子はそう言うと俺の背中からそっと手を離して離れかけた。俺は離さないように、さらに純子を抱きしめた。
「俺かて、純子が全然違う女の子に見えたわ。なんか、可愛いというより色っぽかったし。思わず理性とびかけたけど、純子が俺の為に勇気だしてくれてたのがわかったから、なんとか最後までしたかった自分を抑えたんや」
純子は俺を見て、ますます顔を赤くした。
その顔を見た瞬間、可愛い反応に思わず意地悪したくなった。
「…残念やったなあ。やっぱり全部やったらよかったかなあ…」
「なっ、何言うてるのっ!大人になるまではそんなんあかんっ!」
ゆでだこみたいに赤い顔した純子が怒る。怒った顔も可愛いくて、純子をまた抱きしめてそれからキスした。
「意地悪言うてごめん。いまはまだ俺も大人やないし、そんな事せえへんから安心して」
純子は安心したのか、笑顔になった。
「でも、今日みたいな事はしたいかなあ。うん、しようなっ」
「あんな恥ずかしい事、もうせぇへんわっ」
純子の声が道路に響き渡った。
「ごめん。冗談やで。純子が嫌がる事はせえへん」
純子は赤くなったまま、俯いたままやった。
純子も俺も高校生やし、お互い、まだまだ大人じゃないから。いまはまだ、お互いを思いあって、ふたりのペースで歩いて行こう。ふたりで笑い合って、いまの気持ちを大切にして、お互いを知って、それから…。
いつか大人になる日まで。
カモフラージュの恋人 ゆめみつきまいむ @maimunoyume
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