第10話 夜明け
最終
今回のナイトラリーでは、最終的なゴールの順位に関わらず、二日間のSS所要時間の合計タイムが少ない方が高いポイントをもらえるルールだ。
だから、このままトラブルなしにゴールすれば、トモは恐らく入賞できる。
ただ、俺は、彼女を置き去りにして相当先行しないかぎり入賞には届かない。初日のタイムロスは実を言うとけっこう痛かった。
「ナオは先に行って。私なら大丈夫だから」
「いや、ゴールまでちゃんと付き合うよ。トモ、入賞にかなりこだわってたろ? サポートするって」
「いや、それは……」
なんだか歯切れが悪い。
「……斉藤先輩のご褒美がとっても魅力的というか何というか……」
「その、ご褒美って一体何なの?」
トモは顔を伏せる。ヘルメットをかぶったままなので表情はまったくうかがえない。
そのままごにょごにょとつぶやいていたかと思うと、急にこっちを向いて恥ずかしそうにはにかんで見せた。
「ナオにはまだ秘密。ちょっと話を聞かせてもらうだけだよ」
「え! たったそれだけで、あんなにやる気になれるのか?」
驚く俺に、彼女は心外だというように口をとがらる。
「いいじゃん、私にとってはそのくらい楽しみなんだから!」
拗ねられてしまう。
「まあいいや。ともかく、今回はトモの経験値アップが目的だから、俺の順位は気にしない」
「……まあ、ナオがそれでいいのならいいけど」
トモは頷くと、不意に切実な表情を向けてきた。
「ねえ、ナオ」
「ん?」
「もしかして、私、足手まといになってない?」
「プッ!」
思いもよらぬことを聞かれ、俺は思わず吹き出した。
「私、あなたの足かせにはなりたくない。いつでも並んで一緒に走っていたい」
なんだ、このかわいい生物は。
思わず頬が緩んでしまう。
「……トモ、さっき、楽しいって言ってただろ?」
「うん。だけと……」
「俺も同じ気持ちなんだ。トモと一緒に走れて嬉しい。一人で上位を走るより何倍も、ね」
「ホント!?」
「ああ、ホントだ」
大きく頷いて見せると、ようやく彼女の顔から憂いの影が消えた。
夜明けの直前、俺たちは並んでゴールした。
「よ! お疲れさん!」
斉藤先輩はゴール地点で俺たちを出迎え、凍り付いたスポーツ飲料を投げてきた。
俺はトモとお互い受け取ったペットボトルをぶつけて乾杯をする。
カキンという高い音が、藤色に染まる明け空に響き渡った。
最終的に告げられた順位は、彼女は八位、俺は十三位だった。
「ナオ、ありがとう。おかげで入賞できた」
弾けるような満面の笑顔でそう言われ、こちらまで嬉しくなる。
うん。やっぱり、自分が入賞するより何倍も嬉しい。
「俺も、楽しかったよ。また一緒に走れるといいな」
「うん!」
シャリシャリに凍ったスポーツ飲料を絞り出すように喉に流し込み、夜明けの光を浴びながら、俺はずいぶん長いこと忘れていたバイクの楽しさを久しぶりに思い出した。
「さて、お二人さん、撤収だ。ちょっと寄り道して行こう!」
「え? ここからまっすぐ帰るだけでもけっこうかかりますよね? 運転、大丈夫ですか?」
「せっかく群馬まで来たんだ、温泉に入りたい。泥汚れだけじゃなくて疲れも落として帰りたいだろ?」
「先輩、本当にどうしたんです? 今日はおかしいですよ?」
「おかしい言うなバカ者! 智子君も異論はないな?」
「私は構いませんが、先輩、あの……」
「ああ、ご褒美な。女湯でゆっくり話そう」
「え、俺はのけ者ですか?」
「当たり前だ。入賞も出来ない奴に褒美なんぞあるか」
先輩はふんぞり返ってニヤリと笑った。
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