「乗っ取られ男」、その最初の物語

 下剋上華やかなりし戦国時代。
 この時代のファンがあこがれるのは、小田原城を乗っ取った北条早雲や、美濃一国を盗った斎藤道三など、壮大なスケールのハイジャック犯や窃盗犯たちの物語。
 我々が心躍らせるのは、こうした「乗っ取る側」の梟雄たちの活躍です。

 では、「乗っ取られた側」の物語は?

 歴史は弱者に冷たいもの。自分の城や国を乗っ取られた負け犬の物語が語られることは滅多にありません。しかし、人生始まって早々に自分の城を乗っ取られるという逆境に遭遇しつつも、己が才覚で危機を乗り越え、ついには数か国の主にまで成長したとすれば?

 本作は、そんな「乗っ取られた男」の、最初の物語です。彼の正体は当初伏せられていますが、置かれた状況はすぐに判明します。そこに訪れた謎の僧侶が、彼の運命を変えて……。
 助言者たる僧の正体、そして主人公の正体は、歴史好きなら思わず膝を打つあの人。一見縁のない二人ですが、ゆかりの土地が二人の英雄を結び付けています。ちなみにこの「地縁」は史実に基づいていて、その点も歴史好きにはたまりません。

 今風に言えば、『追放されたのに戦国大名になりました・序』とでも呼ぶべき本作。続編も含め、ぜひご一読ください!

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