男子校に入学したはずなのに、呪いの山からの脱出に全力な件
唇が重なり、このままここでずっと暮らしていこうと、俺がそう決意した直後の事だった。ユウキが段々と目を見開き、俺の首にしがみついているユウキの力が弱まってきた。
「……!……!?」
なにかユウキが慌てている。ゆっくりと唇を話すと、苔ベットの上を突き飛ばされ、転がされた。
「え、ど、どうしたユウキ?」
「カヅキこそ、落ち着いて!今の状況、分かっているの?」
今……?洞窟の中でもユウキと一緒なら幸せでいられそうだから、このままずっとここで暮らそうと……。
あれ?どうしてこうなったんだっけ。
「カヅキ、あなたは今日、男に戻るためにキノコを探しに来たはずよ!」
「たしかにそうかもしれない。けど、そんなこともうどうでも良くないか?」
「ダメよ!みんなが、自分を犠牲にして私たちを送り出してくれたのを忘れたの?」
ハッとする。カオリに頭をぶん殴られたかのような衝撃だ。
「あれ……?なんで俺は今、みんなのことを忘れて……?」
「たぶん、この洞窟の呪いよ。今まで直接的に私たちを殺しに来ていたのを、徐々に、そしてメンタル的に作用することによって私たちを殺そうとしていたのよ。」
そうか、そこにキスみたいな強い衝撃が加わることによって、ユウキの呪い耐性が発動して、正気に戻ることができたのか。
俺がそこまで冷静に考えられるようになった瞬間、洞窟の1番奥がぼんやりと赤く光り始めた。
「カヅキ、あそこにあるのって……!」
俺もシオリさんに写真を見せられたから覚えている。あれはオトコニナルダケだ。今回のメインターゲットである。
「でも、あれも幻覚かなにかなんじゃ……?」
「それは無いわ。絶対にないから、安心して。」
ユウキはなぜか、顔を真っ赤にしてうつむき、やたらとはっきり断言した。理由を言いたくないのだろうか。
「その……うちもそこそこの情報網があって、ここの呪いの種類は全部じゃないけどいくつか人づてに聞いて知っていたの。」
頼まずとも話してくれたユウキは、どうやらここのことを少し知っていたらしい。
「今思い返せば、この洞窟の呪いも資料があったわ。魅惑の洞窟……。人間の持つ一部の欲求を、洞窟を奥に進むか、長居することによって大きく増大させるの。」
なにそれこっわ。言葉を濁したことから、その欲求が何を指しているのか何となく理解させられる。やっぱ怖いわこの山。
「でも……奥に行くことでも増大するなら、あのキノコを取りに行くのもまずいんじゃないか?」
「……私が行くわ。私なら、カヅキにキスされれば元に戻るもの。」
そしてユウキは、目をきゅっとつぶって、走ってキノコを取りに行き、地面からいくつか引き抜くと、今度は目を開け、走って戻ってきた。
「か、カジュキィ、は、早くキシュしてぇ……。」
何この生き物くっそ可愛い。瞳をうるませ、顔を真っ赤にしているし、唇はプルプルとツヤがある。顔を近づけ、キスをすると、口の中に柔らかい舌の感覚まで入ってきた。
しかし、すぐにユウキが目を見開く。
「プハッ。か、カヅキ!やりすぎよ!」
か、可愛すぎて少し長くやりすぎた。また洞窟の影響だろうか。
「カヅキ、早くこの洞窟を出るわよ!」
全力で同意だ。いくら呪いにやられたとはいえ、1人の親友に女子と付き合う気はないとか言いながら、もう1人に手を出すなんて有り得なさすぎる。
「出口は確かこっちよ!」
ユウキに手を引かれ、キノコがあったのとは反対方向に走る……が、走れど走れど出口は見えてこない。これはマズくないか?
「カヅキ!明かりよ!」
なんだろう、嫌な予感しかしない。走っている距離と出口らしきあかりとの長さが、最初に比べて明らかに長くなっている。
「おい、ここって……。」
「間違いないわ。最初の苔ベットよ。」
つまり、今この洞窟は勝手に動いて円状になっていると。しかも、進む方向を間違えたらジ・エンド。難易度高すぎだろ。
試しにもう何周かしてみるが、全く変わらない。同じところをぐるぐる回り続けているはずだ。ここがn周回れば出口、みたいな生易しい仕組みだとは思えないし、何より自分たちの足跡さえ既に何度か目にしている。
「なぁユウキ、多分ないと思うけど、その情報の中には脱出方法とかなかったのか?」
「高かった割には、その情報は詳細がはっきりしなくて……。ごめんなさい。」
「ユウキが謝ることじゃない。」
くそ、せめて壁を透ける能力とかあればなぁ。
その時、ユウキの足元に影を見つけた。今まではこんなもの出来ていなかったのに。
「ユウキ、足元!」
ユウキの足の下から、ニューっとなにかが出てくる。この状況でこちらに危害を加えるやつなら詰みだ。
「待て待て待て待て、話せばわかる!……あれ?」
出てきたのはユウリだった。
「やーっと見つけたぜ!この山洞窟多すぎ!」
「どうしてここに……?」
「えーえー、やさしーいユウリちゃんは、空まで飛び上がって、ずっと地上を見ていたツンデレ青二才にお前らが洞窟にしけこんだことを聞いて、一つ一つ探してたんだよ!」
誰がしけこんだって?、と言いたいところだが、誠に遺憾ながら助けてもらう側なので偉そうなことは言えない。ていうか、ツンデレ青二才ってルナの事だろうか。
「でも、俺らはどうやって脱出するんだよ。」
「今からここの真上をパイオツカイデー姉ちゃんが爆破するから、ちょっと洞窟のここから遠いところに行ってろよ。」
今度はシオリさんか。ユウリは本当に怖いもの知らずだな。
こうして何とか脱出できた。どうやら、他のみんなは、西園寺財閥の精鋭部隊に助けられたらしい。全てにおいて自衛隊を軽く凌駕する、一人一人が凄腕の私兵なんだとか。関わらないのが吉だね。くわばらくわばら。
「で、問題のキノコは?」
脱出後、カオリが真っ先にそれを聞いてきた。少しは俺達の心配をしろよ。
「ゲットしたよ。」
俺はポーチごとカオリに渡す……と、なくされるリスクがあるので見せてやる。
「シュガー!私も見つけたよ!見て見て!」
しゃがんでいたヒカル先輩も 見せびらかしてくれた。うん、ありがとうございますだけど、あなたさっきそっちの方にお花摘みに行くって言ってなかったっけ?
「発見。」
ユミコも同じものを手に持っている。でもあなたもさっき、そっちの方に以下略。
「キノコだけなら見つけたけど、これはミワクダケとかいう別物らしい。」
アオイもまた物騒なキノコを持っている。使うなよ?俺には絶対。
「さすがアオイちゃん!」
そう言えばスタートの時シオリさんいなかったような……これ以上考えてはいけないと本能が警告をしたので、考えるのはもうやめだ。
逆に、スタメンが1人足りない気がするのだが……。
「あぁ、レイナなら、拾い食いしたキノコに当たったらしい。先に帰っているぞ。」
相変わらずあいつは馬鹿なのだろうか。
「何食ったの?」
「ウルトラドクドクダイテングダケ」
ユミコがたんたんとおどろおどろしい名前を告げる。名前から殺意がヒシヒシと伝わってくる。
「命に別状はない。」
あいつはあいつで丈夫だよなぁ。
「それじゃあ帰るかぁ。」
こうして俺は、体は無事に男に戻ることになった。
さきほどユウリとかいうお化け少女が来てから、かれこれ2時間ほど経つ。そろそろ成層圏を出そうなのだが、いつになったら助けは来るのだろうか。
「う、うぅ、怖くなんて、ないんだからぁ。」
たしかに、こんなに飛ぶのは珍しいが、ないことでは無い。だが、いい加減寒すぎる。こないだ入れられた氷プールなんて目じゃない。
「そうか、スイッチを切ればいいんだわ。」
私ってば、なんて簡単なことに気が付かなかったのだろう。これじゃあ、金星人地球探索本部副長としての立場が台無しだわ。
スイッチを切ると、ゆっくりと降り始める。安全対策と言うやつだ。
「それにしても、カヅキがもし男になったら、滅さなくちゃいけないのに……。私、出来るかしら?」
ゆっくりした下降の中、そんなことを考えて言った。
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