男子校に入学したはずなのに、女子と登山イベントな件
山小屋って、結構快適だなぁ。まぁここ、洞窟って言うらしいんだけどさ。
「カヅキ?さっきから遠い目をしてどうしたの?具合でも悪くなった?」
隣に座っているのはユウキだ。黒髪に月明かりを反射させている彼女は、こんな状況ですら楽しんでいる節がある。
「なぁ、今の状況分かってる?」
「えぇわかっているわよ。山でカヅキが私を助けてくれて、そのせいで遭難させてしまったのよね?」
そう。いや、そうなんだけど、俺が言いたいのはそこじゃない。なんで抱きしめられているのかなぁって所なんだが。まぁ、心地はいいから別にいいんだけどさ。
こんな状況になったのは、転校生が来た日に、あることに気がついたのが原因だ。
「この、女子の体になる薬、いつ切れるんですか!?」
家に帰るなりシオリさんの研究所に突撃した俺は、素手で叶わないのは分かっているのでカオリお手製の焼夷弾をジャラジャラとぶら下げて、シオリさんに詰め寄った。
「おーおー、お嬢さん、物騒なものをお持ちですなぁ。」
そう言いながらシオリさんは指1本で俺の動きを止めると、爆発物を次々に無力化していく。
「可愛いお嬢さんにはこれがいいよ。」
そう言って(恐らく)人工ダイヤのネックレスをかけてくる。今それ、スボンの文字通り中から取り出しませんでした?
「そうじゃなくて!治らないと、困るでしょう!」
「治った方が困ること多くない?例えば宇宙かぶれの少女に追いかけられるとかさ。」
まさかだけど、この人もあれを本物の宇宙人とか言うんじゃないだろうか。
「それに、解毒薬作りたくても、今は材料が足りないし。」
いや、そのぐらい何とかして取りに行きますけどさぁ。……今、毒って言いました?
「分かりました。何とかしてその解毒薬とやらを探しに行くんで、今すぐ場所を教えてください。」
「金の力で抑える。」
そう。こんなことがあろうかと、ユミコを連れてきている。カオリだと力負けするが、ユミコなら他の、例えば超能力などで力になってくれるだろうからだ。ここに来てまさかの財力の方が出てくるとは思わなかったけど。
「仕方ないなぁ、でも、場所はブチコロ山だよ?年間20万人が遭難すると言われている世界で最も多くの人が遭難した山。漢字は『渕』に『転』ね。」
山の名前からして殺しに来ている気がする。
「狙うのはオトコニナルダケっていうキノコね。青い傘に白い斑点があるやつ。傘が赤いのはオンナニナルダケだから、気をつけてね。」
つまり、今回のミッションはこれを持って帰ってくることか。てかキノコのネーミングセンス皆無。
「山は予約した。」
たぶん人生でそう何回も聞かないであろうワードだが、ここはユミコに感謝だ。
「そういえばお前、TDLの予約とった時もお金使っていたろ?お財布大丈夫なのか?」
「おじい様に頼めばいつでも貰える。」
額は心臓に悪そうだし聞かないでおこう。
「200億。」
……俺は何も聞いていない。恐るべし西園寺財閥。
ここまでが、月曜日にあった話である。次の出来事は水曜日。
「旦那様、事件発生。」
「ユミコ、学校で旦那様はなしだ。」
「奥様、事件発生。」
「おいおい……まぁいいや。どうしたの?」
「財閥の職員に次の職場を告げたら逃げた。」
どんだけ恐ろしい山なんだよ。そこに行くより、西園寺財閥に背を向けた方が生存できるってさ……。
「その話、聞かせてもらいましたわぁ!
またウチらの天才的頭脳を使う時が来たな!」
隣のクラスからレイナが乱入してきた。この距離で聞かせてもらうって、耳よすぎて怖いけど。それに、俺の後ろにはいつものふたりが立っている。このふたりがいる時の安心感は半端ない。
「カヅキ、まさかアタシたちを仲間外れになんてしないよな?」
「なにするかはわからないけど、助けならいつでも呼んでね、カヅキ。」
ガバンッ!
天井のタイルが吹き飛んだ。
「おいカヅキ、ウチももちろん誘うよな?」
カオリも最近態度が「モンスター」から「かなり乱暴な女子」ぐらいは軟化してきている。このまま軟体動物にでもなってくれないかな。
「キャンプ具は支給。」
「キャンプ!?楽しそう!」
ヒカル先輩は楽しそうに乱入してきた。何しに行くか分かってるんすか。ていうか、1年フロアで何してたんすか。
「じゃあ、みんなで行こー!」
なんでヒカル先輩が指揮取ってるんですか……。
次の事件は、金曜日に起きた。
「カヅキ、あんたこの私を置いて遊びに行く予定を立てているそうじゃない。」
あー、1番見つかったらいけなさそうなのに見つかった。
「何よその顔!私も行ってあげてもいいって言ってるのよ、文句ある?」
いや、言ってないよね……?なんなら、来ないで欲しいとか言いたいけど、この子こんなんだからクラスにいつまでも馴染めてないし、それを来るなと言うのはさすがに酷すぎるだろう。
「とは言っても、とある目的のキノコを取りに行くだけだよ?」
「い、いいわよ。仕方ないわね。付き合ってあげるわ。」
あーわかった。この子、世に言うツンデレか。
土曜日は土砂降りの雨だったので、山に行くのは日曜日になった。
「みんな、準備はいいなー?」
カオリ、なぜお前が指揮を執る。
「今回は金がかかってるから、山菜とか単なるキノコも取り尽くせよー?」
カオリ、なぜお前が金の話をする。
「じゃあ、バカを男に戻すために、頑張るぞー!」
「「おー!!」」
あんまり変な発言をされると、ルナに余計なこと気が付かれるからやめて欲しいんだが。
こうして始まった山菜採りもとい、キノコ探しは……開始5秒で地獄を見ることになる。
「足が沈んでいきますわぁ!」
「きゃっ!ぬかるみが!」
「ユ、ユウキ!足を掴むなっ!うわっ!」
昨日の雨のせいでかなり地面がぬかるんでいたのだ。それも、気を抜けば全身まるっと沈みそうなレベルだ。
ユミコは既に肩まで浸かっている。仕方が無いので、右腕だけ出してロープに結んでやる。元気そうなのはカオリとルナとヒカル先輩だけだ。ちなみにこのうちヒカル先輩は沈んでいるのに元気なだけだ。ルナはこの前の浮遊板に捕まり、カオリは木にぶらさがっている。
他は俺を含めて沈んでいくばかりだ。というか、この辺地盤緩すぎないか?
「呪いを感じる。」
そういえばここってそういう山だっけ!そういうのは早く言おう!いつも言ってるけど!
「ユウキの家系は呪い耐性がある。」
そういえばあいつの家も名家でしたっけ。ユウキだけは少しずつだが抜けてきている。
「あとは、旦那様とユウキに任せる……!」
カオリはいつの間にかつたに絡み取られてるし、ルナはなにかミスったのか、米粒ぐらいに見えるほど高くに飛ばされている。
「あれ?なんか取れてきたぞ。」
「使えるだけの能力。助けは不要。行って……!」
俺とユウキだけで、これだけの山からキノコを探せと?でも、おそらく本当にこれ以上超能力は使えないのだろう。沈まないように少しづつもがくので精一杯そうだ。
「ありがとうユミコ!行ってくる!」
「シュガー!帰ってきたら一緒に泥浴びしようねー!」
「お姉様ぁ!出来ればそのキノコ、ワタクシの分も残しておいてくださいましぃ!」
ネタ枠ふたりがしっかり浸かっ……応援してくれている中、ユウキとはぐれないよう、手を繋いで走り出した。
どうでもいいけど、この先本当に大丈夫なんだろうな?
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