男子校に入学したはずなのに、二連続女子イベントな件
どうしてこうなったんだっけ。俺はサイドステップを踏みながら、いつもの公園まで歩いていた。
隣りには、俺をフクロウ君にした原因ことカオリさんがいる。
「カオリさ……。」
「話はとりあえず公園でって言っただろ!」
と、話しかけることすら許されないらしい。もしや、今日あいつがいたのが男子校だってバレたのだろうか。
公園につくと、俺の首は右を向いているのに、左側に座る。
バキッ。
夕方、いや、ほぼ夜の公園になってはいけない音が鳴り響く。
「治したよ。」
「反対側に向かせただけだよね。」
「移動が面倒だったから。」
この、二歩にも満たない距離よりも俺の首を曲げる方が楽だったらしい。なんちゅう奴だ。
「それで、か、カオリ様お話とはいかな内容でございましょうか?」
「カヅキお前、自分が何しでかしてるかわかってる?」
「なにって、女装して学校に通ってるだけですけど……。」
「はぁ。まあいい。カヅキ、落ち着いて聞けよ?あそこは、女子校だ。」
……。何言ってるんだこいつ。
「昼休み、お前に謝りに行ったよな?あれはカヅキだったはずだ。違うとは言わせないぞ。」
「はぁ。」
「濃い化粧をしてごまかしたつもりかもしれないが、あれは紛れもなく、いや、まぎれてるけど、そうじゃなくて、お前だった!」
こいつはどうやら、自分が男子校に来ていたという事実を理解していないらしい。あと、化粧はほぼしてない。
「いいか、カヅキ、今日、いつもの友達とかいなかったろ?」
いや、いましたけど。
「カヅキのことだから、一日ぐらい間違えてもおかしくないかと思っていたが、本当に間違えるとは思わなかった。」
こいつ、自分がミスしたことを認めたくなくて、頭がおかしくなってしまったに違いない。
「いいか、お前が今日行ったのは、まぎれもなく女子こ……って、なんでそんなにかわいそうな奴を見る目で見るんだ!」
そりゃ、現実を受け止めきれなかったお前がかわいそうだからに決まっているだろ。
「カオリ、ひとついいか?」
「なんだ。」
「カオリは悪くない。世界が悪いんだ。」
「悪いのはどう見てもカヅキだろう!」
「いいんだ。もう、いいんだっ!」
「離せ!なぜ抱き着く!夜の公園でこれはまずいっ!」
仕方がないだろう。カオリがかわいそうで仕方なくなっちまったんだから。
「ゆっくり、落ち着くんだ、カオリ。」
「それはお前だ!本当にどうした?」
カオリは耳まで真っ赤だ。悪い頭を使いすぎてオーバーヒートしちまったのか。
「落ち着け。今日のうちの夜ご飯はカレーだったはずだ。カオリならいつ来てもうちの母親も大歓迎だろう。来いよ。」
「は、はぁ?こんな遅い時間に未婚の淑女を家に呼ぶなんて!」
「悪いが、お前に一度も女を感じたことなど……。」
「それ以上言ったら殺す。」
真っ赤に暑そうに染まっていたカオリの表情が氷点下まで下がる。
「すみませんでした!」
カオリがうちでご飯を食べるのは、よくあることだった。カオリの家は、いわゆる母子家庭で、お母さんは遅くまで仕事をしているらしい。だからカオリもうちにもよく遊んだり、ご飯を食べに来ていたりしていた。
玄関から帰ると問題がありそうだったので、最近お世話になっている、部屋直通のロープを使い、1度部屋で着替えてから玄関のチャイムを鳴らす。
カオリのお母さんはとてもやさしく、おっとりした人で……。
「こんな遅くまでどこをほっつき歩いていたんだい!しかもカオリちゃんまで連れて!
ミンチにするよ!」
などというどっかの妖怪首ネジ男の母親とはちがう。
「すみませんお義母さん。今日は部活見学があって……。」
「あらあら、いいんだよ。若いうちは部活も含めてなんぼだしね!でも、少し時間が遅いからねぇ。お母さんも心配しちゃうから、次からは気をつけるんだよ!」
「もちろんですお義母さん!」
この、お義母さんというのはウチの母親を1発で上機嫌にさせる特効薬だ。麻薬よりも効果があると俺の中で噂になっている。
「カヅキ!手洗いうがい食事の用意!こんばんはカレーだよ!食器と飲み物!カレーをよそう!」
「サー、イエス、サー!」
父親が家に居ないこともあり、うちは完全な女尊男卑だ。序列は、母親、妹、ルンバ、俺だ。
というか、なんで機械より扱い悪いんだろう。
以前質問したら、
「仕事をしているかいないかだよ!」
と言われた。妹は?
手を洗ってうがいして……
「お兄ちゃん?さっき部屋に泥棒入ってたよ?」
うちの妹は馬鹿なので、着替えてた時の音を聞かれてもこう考えるらしい。全く、誰に似たのだろうか。
「いただきまーす!」
「おう!たーんと食いな!」
この、女傑をも思わせる母親の言葉から夕飯は始まる。
聞こえの通りみんな大食いなので、業務用の鍋で作るウチのカレーは母親の腕の良さを感じさせる大味にならない繊細さだ。
「そういえば、二人は部活、どうしたの?」
来年ウチの女子校を志望するらしい妹は興味深そうに聞いてきた。
「俺はまだ決めてないよ。」
「うちはやっぱり陸部かな。」
やっぱりというかなんというか、受理されたんだ。ザルだな……。
「おいおいカヅキ、なんか運動系の部活に入ったほうがいいぞ!カオリちゃんだって続けてるんだし、バスケとかは?」
「それで幽霊だったのは知ってるでしょ。」
「じゃあ、一転して野球?」
「なかったよそんな部活。」
「そんなことはないだろうに。じゃあ、バレー部は?」
「あるけど、苦手だから嫌だ。」
「文句が多いねぇ。こっそりどっかに入れちゃおうか。」
「いいと思いますよ、お義母さん。」
うちの母親の機嫌が悪くなった時の面倒くささはカオリも知っているので、フォローに入ってきた。
爆発物処理班と書いて、うちの母親対応係だ。妹のユイもほっとした顔をしている。何この山賊のより殺伐とした夕飯。
「ごちそうさまでした!おいしかったです!」
相変わらずに猫を被るカオリに、母が、
「カヅキ!もう遅いんだ。送って行ってあげな!」
と上機嫌。てか、酒臭っ。
カオリは俺より強いが、生物学上は女子……らしいので、送ることにする。
いつもの公園を通り過ぎ、十分もかからずにカオリの家へ。
「ありがと。あと、さっきの話、本気だから、明日は学校に行くときにきちんと道が間違ってないか、よく確認するんだぞ?」
相変わらず俺が女子校と男子校を間違えているのだと勘違いしているらしいが、さすがにかわいそうなので、無理に事実を告げることはしない。
「はいはい、じゃあ、またな。」
「また明日、にならないことを祈っているよ。」
なんだろう。俺もそんな予感がするが、これ以上カオリは現実に耐えきれないだろうから、黙っててやることにした。
そういや、明日部活決めないとなぁ。
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