男子校に入学したはずなのに、土曜に女子と遊びに行かないといけない件

 確認しよう。俺は、女子が嫌いだから男子校に入学したはずだ。


 なのに何故、男子3人、女子を二人(うち1人は幽霊)を連れて遊びに行かねばならないのだろうか。


 昨日の帰り、結局、駅に着くなり慌ててカオリに電話して、私服を何着か貰った。


 こいつはさぞ面白かったのだろう。貰う際に、わざわざウチの前に待機して、10着ほど着せ替え人形させられ、しかも写真まで撮られた。


 母親が買い物に行っていたのがせめてもの救い。


 そんなこんなで迎えた土曜日。冷静になれば、休日ぐらい女装しなくて済むんじゃ、とも思ったが、もう着替えちゃったし、せっかく恥ずかしい思いをしてもらった服を気ないのももったいない。


 ていうか、カオリのやつ香水まで置いていったのだが。イランイランとかいう甘ったるい匂いの。カオリは要らんってか。くだらん。


 そして何よりの問題は、恥ずかしいのだ。何がって?男子の姿でみんなに会うことだ。これは、女装の姿でしか会ったことがない弊害だろう。


 恐ろしや恐ろしや。


 恐ろしやと言えば、レイナとユウリ先輩はどうするんだろう。


 待ち合わせは、学校最寄りのいつもの駅。駅周辺のカラオケや服屋など、色々見て回るらしい。


 待ち合わせ場所に着いたのは、俺が最後だった。みんな当然のように女装だから、今更女装なのは気にしませんけどね。


 ユウキは、女の子らしいワンピース。水色が透き通るように綺麗で、麦わら帽子まで被っている。季節は少し早いかもしれないが、可憐で可愛い印象だ。靴もスニーカーと、今日の目的にあっている。


 だが、まともなラインはここまで。アオイ、何故そうなった。アオイの服装は、ラフな感じのタンクトップにダメージジーンズ。


 どうでもいいけど、胸の膨らみどうやって出しているんだろう。パッドかな?金髪を高い位置でポニーテールにしたアオイには似合うが、どう見ても夏用だろ。靴まで、ヒールっぽくてサンダルっぽい網のやつ。……名前はわからん。


 全体的にかっこいいけど、今じゃないだろ。駅の道行く人々がチラチラと見てきている。


 だが、それすらまともに思わせるのが、絶望的なレイナの服装だった。


 下半身は、いわゆるゴスロリのスカート。フリフリしていて、可愛らしいやつ。


 が。なぜ上半身がロックのTシャツに革ジャンなんだ?


「お、お姉さまぁ!見ないで、見ないでくださいましぃ!

 これは、このアホユーリが勝手に!

 誰がアホだ!アホはお前だ!ごちゃごちゃしていて女々しい!

 女子なんだから女々しくて当然ですわぁ!」


 一瞬、一人コントしているのかなとも思ったが、どうやら服は二人で半分ずつ決めたらしい。それで、何を血迷ったのか、こんなチグハグになったのだ。


 ていうか、ユウリさんは、憑依している間は声帯を共有するらしい。超聞き取りずらい。


「でも、お姉様に蔑みの目で見られるというのも乙なものですわぁ

 きっしょ!お前何言ってるんだ!?変態か!?

 変態でいいですわぁ!」


 声が同じで本当に分かりずらい。


「カヅキ、監督責任者だろ?」


 とアオイには言われたが、俺は監督する気も、責任を負う気もない。もちろん、会話の内容なんて全く聞いていないし、聞こえていない。


 そう、聞こえていないなら何が起きても知らないのだ。


 どんちゃん騒ぎの中でもゆっくりと、のんべんだらりと移動して、カラオケへと向かう。


 カラオケにつくと、皆で入れるパーティールームを取り、レイナ(の体のユウリ)が歌い始める。


 ずっと幽霊として引きこもっていたからなのか、俺たちが生まれた頃に流行った曲や、さらに前の曲ばかり……なんとも言えない気持ちになって、ドリンクバーに立った。


 ドリンクバーでは、ショートの髪を紫に染めた小学生位の女の子が頑張って手を伸ばしていた。いくら女嫌いの俺でも、これを放置するほど腐ってはいない。


「これが飲みたいの?」


 怖がらせないように、上の方のボタンを指しながら優しく聞いてあげる。


 女の子は、顔を真っ赤にして、コクン、と頷いた。


「これ、烏龍茶、少し苦いけど大丈夫?」


 と確認まで取ってあげると、それには怒って、


「……。」


 とジト目で睨んでくる。わかった分かった。悪かったって!


「ご、ごめんね、じゃあ、こぼさないように持つんだよ?

 お姉ちゃんだから、できるよね?」


 と聞くと、真っ赤な顔に、今度は怒りマークを額に貼っつけて頷く。


「……失礼。」


 無口な小学生だなぁ、と思いつつ自分用のオレンジジュースを入れていると、膝を後ろから蹴ってきた。膝カックンのようになったと思うと、次の瞬間には地面に叩きつけられている。


「ユミコさま!?こんな所で何してるんですか!?」


 顔を上げると、ユウキがいた。どうやら、同じようにユウリ先輩のリサイタルにいたたまれなくなり出てきたのだろう。


「……お師匠様。」


 沸点が高いのか、単なる無口なのか、相変わらずのジト目で視線をユウキに移した。


「も、申し訳ありませんお師匠様!」


 ユウキがひれ伏している。もしや、この人がユウキにとっての女装のお師匠様なのだろうか。


「……許す。」


 ジト目で少しの空白をとってから、ユミコちゃんは答えた。


 俺のところのカオリと違って割とスパルタなんだな。……違って、ではないな。みたいに、だな。


「この子、小学生だろ?なんでひれ伏してるのさ。」


 俺がそう聞くと、やっぱりジト目のままこちらを見て返してきた。


「……高3。」


 へぇー……ふぁっ!?


「ま、またまたぁ。

 年上をからかっちゃダメだぞ?」


「高3。」


「いやだって、しんちょ……。」


「高3。」


「人の話は……。」


「高3。」


「あーもー、分かったよ!」


「お師匠様は、いつも私に栞を下さる人でもあるのよ。」


 とユウキが付け足す。ユウキの栞って言うと、あのよくわかんない言葉が書いてあるやつか。


「よくわかんなくない。芸術。」


 ソーダコンソメのどこがだろう。


「ソーダのシュワシュワ感に、コンソメの深いコクがぎゅっとつまっている。それでいて、天然由来のソーダの深い味も楽しめる。これぞ至高。」


 こいつ、くだらないことにはよく喋るな……。


「これ、一枚上げる。」


 もらった栞には、「大腿四頭筋破壊光線」と、相変わらず謎いことが書いてある。超いらねぇ……。無駄に達筆だし。


「そういえば、お師匠様は人の心を読めるから気をつけてね?」


「ユウキ、そういうのは早く言おう。」


「ところで、お師匠様はなんでこんな所に?」


「……幽霊。」


 幽霊退治でもしているのかね。こんなカラオケに出てくる明るい幽霊なんているのかね。


 絶対に、絶対にユウリ先輩のことは考えちゃあかん奴だ。


「無意味。」


「はいごめんなさい。」


 でも、ユウリ先輩は先輩と言うより友達だし、友達を消されても困る。


「安心。いい幽霊討伐しない。」


 片言なのかコミュ障なのか……。


「お前は悪い。」


 うへぇ。


「とにかく、ユウリのことは退治しないんだろ?それなら、一緒に遊ぶか?」


 俺の誘いに、こくりと頷く……。なんで俺女子なんて誘ってるんだ?自分でやってしまったと頭を抱えるも、時すでにお寿司。


「お、お師匠様!?」


 相当珍しいことなのか、ユウキが珍しく焦った声を出している。


「この人に興味がわいた。」


 レイナのトラウマがあるのでぜひやめていただきたいが、それを含めての興味なんだろう。


「うへぇ。」


 俺がそうつぶやくと、恐らく、出会って初めて、にかぁ、と笑った。


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