13. 過去への違和感

 

 荷解きを終えて、就寝時間となった為にお嬢様の部屋を後にする。

 何かあれば叫んでもらうよう言ったが、魔法発動があれぱ瞬時に気づけるため問題はない。


 自身の就寝準備を始めると同時に考え事も始める。


 ベアトリーチェ嬢の魔力についてだ。

 魔力量の少なさは、目の当たりにして現実だと実感した。


 受け入れがたいものではあったが、考えさせられることもあった。

 教えられてきたことは、魔力量が少ない魔法使いは絶対に生まれないということだ。


「…………裏が、ある」


 今更確かめようのない事である上に、事実を知ったところで特に世界としては何の影響もない。何故ならばエルフィールドは滅びた国で、関する事柄は全て終わったことだから。


 それでも、知るべきだ。知る権利……いや、義務が私にはあるのではないか。


 疑問は何も晴れないまま、どう追求するかを考えることしかできなかった。大きなベッドに横になりながら、自問自答する。


 自分はエルフィールドについて、実際は何も知らないのではないか。


 7年経って、別の人生を歩み始めたはずなのに引きずり込まれるように過去に溺れていく感覚を感じ始める。


 目を閉じながら、過去を思い出すのであった。






ーーーーーー


 「“優秀な魔法使いをつくるには他国の血を入れてはならない”そう言われてますが、私は他国の王子であるウィリアード殿下と結婚してもよいのですか」


 これは、まだウィリアード殿下との婚約が決まったばかりの時のこと。教えられてきたものに反していた為、不安になって父に聞いたのだ。


「そう不安な顔をするな、ロゼルヴィア。ロゼは優秀な魔法使いをの中でも、格段に魔力と才能があるからね。加えて王族の加護もある。心配することは何もないよ」


 朗らかに笑う姿は印象的で、その言葉に絶対嘘偽りはないと思えた。王である父が言うのだから、何も問題はないと。


「現に、世界には優秀な魔法使いしかいない。教えは正しいのだよ」


「はい、お父様」


 優しく諭すように、落ち着かせてくれた言葉。当時はどこも気にならず、それが当たり前だと思っていた。


「ロゼは心配性なのね。大丈夫よ、貴女なら血が混ざったところで力が消えることはないのだから」


「だと、良いのですが」


 父の隣で、優しげに見守る母も教えを否定することはなかった。


「万が一、魔力の持たない子が生まれてきても私は大切に育てようと思います」


「……………………そうね」


「……………………まぁ、そんなことは起きないだろうけどな」


 この時の二人の表情が、上手く思い出せない……。


ーーーーーー





「どんな顔、してたっけ…………」


 私の決意を受け止めてくれた……そう思い込んでいた。だが、実際は言葉を濁していたのではないか。そんな気がしてしまう。あの時二人は、本当に言いたいことを呑み込んだ……そう思わずにはいられなかった。


「もしも、仮説が成立したとしたら……」


 教えが嘘だった。

 その仮説が成立すれば、疑問の数は膨れ上がるのみだ。


 今更、掘り返すことに意味がないとわかっていながらも考えることを止めるのはできなかった。知る義務と意味のなさが自分の中で対立する中、ライナックからもらったあの石を、自然と握りしめていた。


「…………手紙」


 そう言えば、まだ侍女として働き出してから一度もアトリスタ家の方に手紙を出していなかったと思い、起き上がる。


 レターセットを荷物の中から取り出して、ライナックへの手紙とアルバートさんへの手紙を書き始める。


「…………恋愛が進んでますように」


 アルバートさんには、ライナックの現在の恋愛状況を尋ねておいた。


 ライナックには、近況報告だ。誰が読むかわからないので魔法については何一つ書かなかった。


 何枚も書き連ねて満足すると、今度こそベッドに横になって眠りにつくのだった。

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