星降る夜に
「ぼくは違うと思う。ぼくたちが旅立ちの選択をしたことを覚えてる? あのとき,きっとライアンはぼくたちと共に来るシナリオにはなっていなかったと思う。あの場ではぼくたち三人だけが連れて行かれる予定だったはずだ。ライアンは行く段取りになっていなかったけど,急遽一緒に行く予定になったはずだ。その・・・・・・行く予定ではなかったのに結局行動を共にすることになる,というのが筋書きだったと言われたらそれまでだけど」
「そういえば,ライアンがついてくると決まったとき,女の人が言っていたわ。『こっちの方が辛い道だ』って。もしかしたら,道は選べるのかも知れない。私たちもだし,この世界にいる人たちも」
なるほど,と思った。でも,そのことでさらにぼくの胸が痛んだ。
『じゃあ,ライアンは死ななくても済んだかも知れないんだね。ぼくが鈍くさいから・・・・・・ぼくの代わりにライアンが死んじゃったよ』
『それを言うなら,救われたのはぼくだよ。あのとき、ライアンはぼくをかばっって死んだのだから。ぼくはライアンに生かされた』
だから,と雄大は続けた。
『もう過去のことでくよくよするのはもうやめよう。そんなことをライアンは絶対に臨んでいない。自分たちも,この世界の人たちの生き方もきっと一緒に選択できる。じゃあ,これからぼくたちは自分の頭で必死に考えて,その時に考えられるベストの選択をするしかないんだ。それがライアンの供養にも繋がるはずだよ』
ぼくの肩に手を置いた雄大は,まっすぐな目でぼくを見つめて力強くうなずいた。
初めて会ったときの頼りない顔が嘘のようだった。ぼくは雄大にうなずき返した。
三人でライアンに向けて手を合わせ,星降る夜が空けるまで身体を休めた。
翌朝,宿屋を出ようとすると受付で呼び止められた。
『おはようございます。しっかり休めたでしょうか? これ,昨晩預かったものです』
受付の女性の手には巻物の形をした紙があった。表面は土で汚れが目立っている。
『『ポケットに入っていた私物を渡しそびれた』といって,昨晩埋葬した者が持ってきました。お仲間が亡くなられたのですね。このたびはご愁傷様です』
そう言って受付の女性が差し出した巻物を両手で受け取った。これはきっとライアンが残したメモだ。受け取るべきかどうか迷ったけど,ライアンが残した何かを引き継ぎたい。中に何が記されているのかも気になるところだった。中身を読むのが少しだけ怖い。昨日は,運命は変えられる,という話をしたけれど,もしこの中身が遺書のような記述なら,ライアンは自分の死を予期していたことになる。自分の歩いて行く台本に殺されることが記されていて,その通りに生きていくなんて悲しすぎる。
「どうせ余計なこと考えているんでしょ? いいから,ライアンが残した何かを読んでみましょう。そしたら,なにか分かることがあるかも知れないじゃない」
受け取った巻物を広げた。リンナと雄大はぼくの左右に立って,顔を寄せ合うような形で文字を追った。そこには,地図と共にこれから向かうべき場所が記されていた。
「このバッテンの印がついているところに行けば良いのよね? それに,ここ読んで」
リンナが巻物の下の方に書かれた注意書きのようなところを指さした。そこには次のように記されていた。
勇者を志す三人と共に村を救うために尽くす
叶えば,最後の敵を共に討つ
「これって・・・・・・」
雄大の手は震えていた。
「雄大の言った通りだったのよ。ライアンは私たちと共に世界を救うつもりだったの。私たちの力不足でこんなことになってしまったけど,でも・・・・・・」
リンナはぼくを見つめた。ぼくは力強く頷いた。
「運命は変えられる」
自分に言い聞かせるように言った。
ライアンの分まで,ぼくたちは精一杯生きて運命を切り拓くことを誓った。
村を出てからの目的地までは一週間かかった。ライアンが残した地図はありがたかった。どこまで進むべきで,どこで休息を取るべきかという計画を立てることができ,見通しを持つことが出来た。
記号が付けられていた目的地に着くまでに多くの苦労があった。鉄で覆われたような固いサソリや,火を噴くプテラノドン,大型のニャンゴロンもいた。
肝を冷やしたのは,卍の形をしたサボテンに出くわしたことだ。
「あら,かわいいモンスターね」
「リンナ! 近づいたらだめだ!」
リンナは怪訝な顔をしてこちらを振りむいた。雄大は何事かと言った様子で飛び跳ねるようにして後退し,リンナの後ろに隠れている。
「何よ,おっきな声を出して。サボちゃんもおびえているじゃないのよ」
「そいつは臆病な生き物だけど,パニックになったら何をするか分からない。その針が皮膚に突き刺さったら,猛毒が駆け巡って死んでしまう。うかつに近づいたらだめだ。少々遠回りになっても,迂回して進もう」
なるほど,とリンナは腕組みをして呟いた。だが,腰にかけていた剣を引き抜いて十分に間合いを取って相手の様子を伺っている。まるで獲物を見つけたライオンが草むらに隠れて襲いかかろうとするみたいに。
「ちょっと,リンナ。何してるの。危ないよ」
声を潜めて雄大は言った。
だめだ! と叫んだときには遅かった。リンナは剣を右手に閃光のように飛び出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます