宇宙空手決死拳
おなかヒヱル
第1話
今から五千年前に地球は滅んだと聞いている。
私が生まれたのは宇宙、というかこの小型宇宙船ブラッドベリ号の中だ。
物心がついた時にはひとりだった。
身体にはすでに改造がほどこされており、脳みそ以外はすべて機械になっていた。
この身体改造は地球消滅後の人類の習わしであり、死期を遅らせるための工夫だった。
生身より機械のほうが圧倒的に寿命は長く、替えも容易だった。
脳も機械化できなくはないのだけれど、生身ほど性能の良いものは現時点ではできていない。
それほどまでに、人間の脳みそは精巧で神秘に満ちていた。
「はぁ、今日もひとりか」
見渡す限り何もない。
たまに惑星を見かけても着陸できる条件のそろったものはほとんどなかった。
雄大な自然と高度な文明、多様な生物。
伝え聞くかつての地球のような惑星は、もうこの宇宙には存在しないのかもしれない。
私が三百年近くもさまよって見つけられないのだからきっとそうなんだろう。
そして、私が三百年近くもさまよって見つけられないものといえばもうひとつある。
人間だ。いっさい出会わない。
地球消滅後、人類は宇宙のディアスポラとなった。
居住地を持たず、宇宙各地を転々としていた。
少なくとも、私の乗っているブラッドベリ号の書棚にあった歴史書にはそう書いてある。
さらに、その離散した人類が宇宙各地に張り巡らせたネットワーク回線でネットに接続して得た情報にも同じことが書いてあった。
にもかかわらず、である。
これだけ探し回ってなぜ誰にも出会わないのか。
可能性はみっつ。
一、どこかまだ私のたどり着いていない惑星に居住している。
二、単に宇宙が広すぎて出会わないだけ。
三、絶滅した。
どれもありそうだけど、いちばんヤだなぁと思うのは圧倒的に三だ。
もし仮に三だとしたら、私が人類最後のひとりということになる。
んー、名誉といえば名誉なことだけど、そんなの他にも大勢のひとがいてこそのことだ。
誰もいないのに名誉もへったくれもないではないか。
人類はカラダを機械化してほぼ死なない命を手に入れたものの、その先には孤独しかなかったというオチ。
三百年もの間、私が感じ続けた孤独が、その人類のたどった歴史の終着点になる可能性大。
うわぁ、なんかへんな汗が出てきた。
もう考えるのはよそう。
絶対にまだ誰か生き残っていると信じるのだ。
「さて」
気を紛らわすためにネットに潜る。
さいきんの私のお気に入りはツイッターだ。
西暦二千六年にサービスを開始したこのツールには膨大な書き込みが残されていた。
まだサービスは続いているらしく書き込みはできるものの、ツイートしてもなんの反応もない。
登録者数は百億を超えるが、動いているアカウントに出会ったことは今のところ一度もない。
ここでもやっぱり、私はひとりだった。
いつものようにツイッターを徘徊していると、第十一回本物川小説大賞なる投稿を見つけた。
日付は二千二十年の十二月になっていた。
今からちょうど一万年前か。
「なるほど、ハッシュタグを付けて小説を投稿するわけね。どれどれ、ちょっと読んでみますか」
ふ〜ん、みんないろんなことを書いてるなぁ。
食べ物のこととか仕事のこととか、あと家族のこととか。
当時の風俗がわかってすごくおもしろい。
「ん、へんな名前のひとがいる。ひとりだけRTが一とか、ぷぷっ、少なっ。でもまぁ、参加してよかったじゃん? こうして一万年後も読まれてるんだからさ」
(ザッ……わたしは……ザザッ……本……かわ……聞こえる……ザザッ……ねぇ……ザッ……ザザッ)
突然、備え付けのスピーカーから音が聞こえた。
雑音まじりだけど間違いない、ひとの声だ。
私は通信マイクにむかって全力で声を張り上げた。
「こちらブラッドベリ号、応答願います。こちらブラッドベリ号、応答願います!」
もしかして私、ひとりじゃないのかもしれない。
「本、なんですか?! 雑音がひどくてよく聞こえないんです。もう一度お願いします! 声を、もう一度声を聞かせてください!」
(あー……ザッザザッ……これはダメね……ザッ……ではかいつまんで……ザッ……あなた以外にも……ザッ……ひとは……存在して……いるよ……あきらめないで……ザザッ……どこかでめぐり逢うでしょう……ザッ……この広大なネットの……もしくは……宇宙のどこかで……きっと……ザッ)
声は聞こえなくなった。
いったい誰だったんだろう。
でもよかった。
今日は記念すべき日だ。
生まれてはじめて、誰かと会話をしたのだから。
ずっとひとりだった私が、この宇宙で存在しているであろう誰かと。
ブーブー!
緊急アラートが作動した。
けたたましいサイレンが響きわたる。
正面の巨大モニターには黒頭巾の男たちが映し出された。
忍者だ!
艦内に侵入した忍者たちはいっせいに襲いかかってきた。
「やぁ! たぁ! ほぁ! よぉ! ぱぁ!」
私は得意の宇宙空手で五十人の忍者たちを一瞬にして血祭りにあげた。
「この忍者たちはいったいどこからきたのかしら。そういえばむかし本で読んだことがある。かつて日本という国が地球にあったことを。この宇宙のどこかに、その日本の文明を受け継いだ惑星がきっとあるはずだわ」
私は自動操縦装置を停止させてブラッドベリ号の中央に位置する操舵輪に手をかけた。
「さて、行きますか」
私は操縦席から宇宙の彼方を見つめた。
その視線の先に、日本はあるはずだった。
宇宙空手決死拳 おなかヒヱル @onakahieru
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