国際会議 上

ベラルーシェ教国 ベラルーシェ大聖堂


年に一回開かれる列強国のみが参加することが許される会議。それは毎年同じ手順で進められる。


「偉大なる聖神ベラルーシェよ。なぜ、貴方はお隠れになったのか。ベラルーシェはまず、ヒトをお創りになった。しかし、その愚か者達は争いを始めた。自らの創造物同士の争いを御憂いになり、その者達を導くために、魔力を込めた特別なヒト、グラツィアをお創りになった。そして、…」まず、ベラルーシェ教典の暗唱でこの会議は始まる。司祭はもとより、ベラルーシェ教を信仰していない外交官も一言一句正確に暗唱することが求められる。どこの国でも教典の暗記は外交官登用試験に毎年出題される。アンゴラス帝国では鎖国政策の影響により、全国民に対するベラルーシェ教信者の割合は5%ほどに収まっているが、その他の国では、年々増加傾向にある。


「…ベラルーシェは巨大な歯車をグラツィアへお与えになった。神の力を持ったその歯車は回りだすと青白い光を出し…」ちなみに、ベラルーシェ教典は1日15時間読んだとしても8日かかる。この場にいる大半の外交官は、ベラルーシェ教国の機嫌を損ねないために詠んでいるだけで、内心うんざりしている。




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大聖堂のとある一室で


「ゴホッ、ゴホゴホ」喉を枯らしたアンゴラス帝国外交官ケニスが水を飲み干す。


「プハァー。疲れた。」あと7日同じ事を繰り返しなければならないと思うと、気持ちが憂鬱になる。ベッドで横になっていると、扉を叩く音が鳴る。


「修道士のエステルです。夕食のお時間になりました。食堂へ御案内いたします。」綺麗な澄んだ声だ。


「はぁ、もうそんな時間か。」窓からは、夕陽の光を反射し、黄金に輝く塔が見える。 ケニスは外套を取り歩き出す。


「どうされました?お元気がないようですが。」エスエルがケニスの疲れはてた顔を見て言う。


「ベラルーシェ教典の暗唱だよ。喉が痛くて仕方が…」ケニスはにこやかだった修道士の表情がまるで人形のように強張っていくことに気付く。廊下を歩いていた他の修道士達も、ケニスを見つめている。


「ベラルーシェ教典は魂、そしてこの世界の救済を指し示す物なのです。それを詠むと言うことはこの上ない名誉、そして幸福なのです。それをまるで苦痛のように言うとはいかがなものでしょう。」声音は冷たく、まるで殺意が秘められているようだ。いや、込められているのかもしれない。


「すまなかった。聖神ベラルーシェの前では、どのような苦行も幸福に変わる。適切な表現ではなかった。」ケニスは動揺しながらも、外見だけは落ち着きながら淡々と話す。動揺を悟らせないことは外交官の特技だ。その前に迂闊な発言をしないことも、外交官に必要な資質であるはずだが。


「そう、そうなのです。聖神ベラルーシェは…」食堂までの道中、永遠とベラルーシェ教の素晴らしさについて一方的な会話がなされる。ケニスはその時のエステルの弾けんばかりの笑顔に見とれたが、エステルはケニスが聖神ベラルーシェの素晴らしさを理解しようとしてくれているのだと勘違いしていた。

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