第12話:憧れ

「では以下の4名は前へ」



いよいよ抽選会、絢辻先輩と決勝で当たっても準決勝で当たってもきっと無傷では勝ち残れない。



「早乙女君、やっぱり君は勝ち残ったね」



「絢辻先輩こそ、さすがです」



残った2人、生徒会の矢崎さん、それに三年生がもう1人か。



「では、4名は一斉にクジを引いてください」



1人ずつじゃないのか、でもこれなら無駄なプレッシャーがない。



「せーのっ!!」



僕が引いた紙は青色、他の人は?!



「チッ、無能力者かよ」



僕の相手は生徒会の矢崎さん、てことは絢辻さんと戦うなら決勝か、蓮二は負けてしまって残念だったけどDブロックの夜咲さんもここまで勝ち上がったんだ、頑張らないと。




「私はね、早乙女くんと早く戦いたいんだっ、でも神様はいじわるみたいね、でも、きっと君なら決勝で私と戦ってくれるはずよね?」



「が、頑張ります...」



絢辻先輩、やっぱりすごい人だ....優しくて明るい雰囲気なのに、準決勝で自分が負けると全く思ってない....。



「だけど、私も後輩に負ける気はないわよ?」



声色は優しい、だけどその瞳の奥は負ける気なんてさらさらない、生まれながらの強者の風格、無能力者として生まれた僕とはやっぱりどこか違う、けど....




「僕も...誰が相手だろうと負ける気はありませんよ、絢辻先輩」



「おぉー、強いわけだっ」




イメージとは戦闘において大きな影響を与える物の一つ、戦う前に相手を恐れれば、戦闘が始まった時に上手く動けない、だから虚勢でも意地でも、気持ちで負けてはならない....



「つかさ!」



「はいっ?!」




ビックリした....



「なに、硬くなってんだよ」



「な、なんだ、師匠ですか」



僕、また思い詰めてたのか。




「そんなの奴にはバレてるよ、楽に行けって言っただろ〜?強がるんじゃない」



「すみません」



そうだ、相手の挑発に乗っちゃだめだ




「絢辻〜、戦う前からうちの弟子虐めんなよ」



「あらっ、そう言う七草さまだって私の叔父をコテンパンに虐めてくださったじゃない」



そ、そうだったのか....



「あれはフェスタでだ、お前の叔父弱いし」



「師匠、失礼ですよ!!」



どこへ行ってもすぐ喧嘩売るんだから...



「ふふっ、いいのよ早乙女くん、七草さまと叔父さまの仲はよく知っているから」



「そうですか、すみません....」



ひとまず、僕の次の相手は矢崎さんだ、でもまた情報がないな....



「ほら行くぞつかさ」



「は、はい...」



すごい睨まれてる...次の相手なのにずっと絢辻さんと話してたら怒るよな....



「で?次のやつの異能は?」



「分かりません....」



我妻さんの時も結局最後まで情報はなかったし...



「んー、私も調べたんだけどな、3年なのに過去の対戦成績がちょっとよく分からん」



「対戦成績を見ても分からない異能ですか」



それじゃ対策しようが無いような....



「お前、またぶっつけでやってみろよ?」



「えっ?!またですか?!」



相手を知る事、つまり情報収集は無能力者の僕にとって最重要なのに....



「根っこから強くなりたいんだろ?」



そうだ、僕はあの、小さな山小屋で小さなテレビで見たあの選手、名前は分からないけどあの人の純粋な、小細工のない強さに憧れたんだ



「まぁ、泣いても笑っても明日で決まるんだからこれまでのお前自身の技をぶつけてこいよ」



「は、はい?」



これまでと違って準決勝と決勝はその日に行われる、温存しなくちゃ...温存?僕は何を考えてるんだ?これまでも異能力を持った彼らを倒すのに全身全霊で戦ってきた、なのに....



「決まったみたいだな」



「はい、明日は僕の全力をぶつけます」



準決勝の相手に温存して勝てるだなんて最初から間違ってる、僕は弱い無能力者だ、だから出すなら全力しかない。



「全く世話の焼ける弟子だな〜」


・・・・



翌日、ついに学園対抗戦出場をかけた選抜戦Cブロックが開催されようとしていた。



「さぁー!始まってまいりました〜!選抜戦も遂に最終日!張り切って行きましょ〜!」



僕の試合は最初だ、ここで体力が削れても少しのインターバルがある、だけど出来るだけ傷を負うのは避けたい。



「つかさ、私はお前に教えてきたことを一度も間違ったとは思っていない、それはお前が私の教えを文句も言わず、ついてきたからだ、今日お前に言えることは、頑張れだ」



「なんですか師匠、急に改まって、確かに大事な日ですけど、ここがスタートですよ」



僕がなりたいものにはまだまだ遠い、だけど間違いなく近づいてる、そんな気はする。



「...分かった風にいいやがって行ってこい!」



今師匠、泣いて....



「さぁ!準決勝第一試合!開始ですっ!!」

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