第三十話 迫る魔族、そして……
「オズバルド〜、まだ街には着かないの?」
遥か上空を
そんな黒竜の背には、二人の魔族の姿がある。
「まだ一時間も経ってないだろう。こいつの翼を休ませる必要もある、最低でも二日は掛かるだろうな」
「えぇ〜……。だったら僕もう帰るぅ〜」
「貴様……前にも似たような事を言って逃げただろう。今回は最後まで付き合ってもらうからな、モーティル」
二人のうち、小柄な少年はモーティル、細身の男はオズバルドという名前のようだ。
逃げ出そうとするモーティルの襟元を掴みつつ、オズバルドは小さくため息を吐いた。
「むぅ……って、何か考え事?」
一点を見つめたまま黙り込むオズバルドに、モーティルは首を傾げて問いかける。
「……いや、例の召喚者が少しばかり気がかりでな」
「召喚者!」
召喚者についての話題になると、モーティルは興味津々といった様子で顔を上げた。
「テレサの件もある、奴の行動には警戒しておいた方がいいだろう」
「じゃあさ、ちょっと見に行ってみようよ! 行先の途中で召喚者が居る街の近くを通る訳だし、一回ぐらい寄り道してもいいでしょ?」
そんなモーティルの提案に、オズバルドはしばらく頭を悩ませたあと、やれやれと言った様子で口を開いた。
「騒ぎだけは起こすなよ」
「うんっ! なるべく気をつけるよ!」
不安の残る返答に、オズバルドは頭を抱えながら大きくため息をついた。
「ともあれ、
オズバルドは不敵な笑みを浮かべながら、シーダガルドへと向かうのだった。
◆
「う〜ん……」
自室に戻った俺は、首を傾げて唸っていた。かれこれ十分以上はこの状態だ。
昨日の一件のあと、俺は自室のベッドで眠ったはずなのだが……目を覚ますとダイニングルームで座っていた。更には大量の料理がテーブルに並べられており、俺の隣で座っていたレナに聞いてみても、ノーラさまが作ったのでは? と不思議そうに聞き返された。
「まったく身に覚えがないんだよなぁ、それに俺は料理なんてした事ないし……」
テレサが準備してくれたのだろうと考えたりもしたが、どうやら二日酔いでダウン中とのこと。
「となると、いったい誰が……」
『私が作ったのよ』
突如として、俺が発言したものではないノーラの声が脳内に響いた。
「あぁ、ノーラが作ってくれたのか。それなら納得…………って、ノーラ!?」
俺は咄嗟に辺りを見回したが、当然ノーラの姿はなかった。
『何を驚いているの? 私の存在はあなたの中にあるんだから、こうして意思の疎通ができてもおかしくは無いでしょう?』
「いや、初耳なんですけど!? じゃあ……あの真っ白な空間に行かなくても、いつでもこうして話せたってこと?」
『そうね。意識空間と違って姿は見せられないけど、会話する程度なら可能よ』
それならそうと言ってくれれば良かったのに。ともあれ、それを聞いて俺は内心ほっとする。つまりはいつでもノーラと話ができる訳だ。しかし、同時に俺は一つの疑問を抱いた。
「いつでも話ができるなら、なんで今までずっと黙ってたんだ?」
『それは……』
ノーラは言いづらそうに口ごもる。やはり何か理由があるのだろうか?
『その……あなたの反応は見ていて面白いし、案外一人でも上手くやっていたから。しばらくの間は眺めていようかなと……』
大した理由ではなかった。そのうえ、俺の行動は全て見られていたらしい。
「だったら尚更声かけて!? 思いっきりプライベート全開で行動してたんだけど!!」
『大丈夫よ、私は気にしないから』
「そういう問題じゃ───」
その時、扉をノックする音を耳にして、俺は咄嗟に口を閉じた。
「ノーラさま……? 何だか話し声が聞こえてきたんですけど、誰か居らっしゃるんですか?」
すると、ゆっくりと扉が開き、隙間からレナが顔を覗かせた。
「あっ、いや。えっと……まだ寝起きで声が出にくいから、ちょっと発声練習でもしようかな〜と思って!」
「発声練習……ですか? それならいいんですけど、テレサさんの頭に響いてないか少し心配ですね……」
( そういや寝込んでるんだったな。すまんテレサ )
「でも、あまり喉に負担をかけちゃだめですよ? 少し待っててください、お水を持ってくるので」
「あぁ、うん……ありがとう、レナ」
扉が閉まるまで、俺は笑顔を保ち続ける。レナの足音が聞こえなくなったところで、俺は大きなため息を吐いた。
『ちなみに、私にはあなたの思考も読み取れるから。声に出して話さなくてもいいのよ?』
( もっと早く言って欲しかったなぁ…… )
『ふふ、つい意地悪したくなっちゃって。それよりも、準備しなくていいの?』
『え? 準備って、なんの……?』
俺の内心の呟きを読み取ったのだろう。ノーラの言葉に対し、俺は心の中で返答した。
『出掛けるんでしょう? あまりゆっくりしてると時間無くなっちゃうわよ』
「……あっ!」
そこで俺は、昨夜レナを外へ連れ出そうと考えていた事を思い出した。
『まったく……あの子の事を大事に思ってるのなら、今度はちゃんと守るのよ』
『……わかってる。俺が傍に居る以上は、レナを傷付けさせたりはしない』
もうレナが傷だらけになる姿は見たくない。次こそは必ず守り抜く、俺はそう強く心に決めていた。
「ノーラさま、お水もってきたですよっ」
部屋に戻ってきたレナに、俺は小さく微笑みながら口を開いた。
「ありがとうレナ。……ついでにもう一つ、わがまま聞いてもらってもいいかな?」
「はいっ! 私にできる事でしたら、何でも言ってください!」
レナは胸を張って答えつつ、俺の言葉を待っている。
「もし良かったら、今から私と一緒にお出掛けしない?」
そんな俺の言葉にレナは呆気に取られるも、後に今日一番の笑顔を浮かべるのだった。
100倍スキルでスローライフは無理でした ふれっく @fleck
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