⑤
白い部屋で、俺はふっと肩の力を抜いて腕を下ろした。戒さんはうまくやってくれたみたいだ。良かった。
今回取り憑いていたのは生き霊だったから、取り込むのは無理だった。残念。まぁ、戒さんに憑いてたやつもらえたから良かったけど。
さてと。水野さんを起こさなきゃ。何か変なところとかあったら大変だしね。
俺は眠る彼女の体を軽く揺さぶった。少しして、瞼を震わせて目を覚ます。
「あ、起きましたか?すみません、先程は説明せずに眠らせてしまって」
にっこり笑って俺が声をかけると、水野さんはまだぼぅっとする頭を振り払うように緩く首を振った。
「平気です」
「ありがとうございます。一応払い終えましたので、立ち上がって体に異変がないかだけ確認してもらってもいいですか?」
そう言うと、彼女は言われた通りに立ち上がって体を動かし始める。そして、一つうなずいた。
「ついさっきまで重かった肩が嘘みたいに軽い。ありがとうございました」
丁寧に頭を下げてくれた水野さんに、俺は笑ってうなずいた。
相談所に戻ると、自然と緑の膜が消えた。俺は美穂さんを見て、笑う。
「ありがとうございました」
それに微笑み返して、美穂さんはソファーに座っていた卯木さんの元へ戻っていった。
カチャリと音を立てて、あの白い部屋のドアが開いた。中からスッキリした顔をした水野さんと少し疲れた様子の綾斗が出てきた。
「おつかれ」
「あ、協力してくれたんですよね?ありがとうございました」
俺の顔を見ると、水野さんが頭を下げた。
「いや…俺は大したことしてないんで」
今回の事は綾斗がいなければそもそも何もできなかった。
「まぁ、何かしたのは事実なんだから素直にお礼言われとけば?」
肩を竦めて、綾斗は俺の横を通り過ぎてソファーに身を委ねる。
「…じゃあ、どういたしまして」
「はい」
少し照れくさいが、素直に嬉しい。
そして、ポケットの中に入っていた先程綾斗から預かった黒い札を取り出して、手渡した。
受け取って、綾斗は何かをぼそりとつぶやく。すると、札が燃えた。すぐに灰になっていく。どういうわけか、その灰も消えてしまった。一体どういう原理なんだろうか。
「これでよし。じゃ、俺は寝るね」
「え」
自分だけやり切った感を出して、綾斗はそのまま目を閉じた。
「おい、ちょっと待て!」
声をかけてみるが、なんの反応がない。帰ってきたのは、健やかな寝息だった。
「えぇ…なんの説明もなし?ていうか、俺はどうすりゃいいんだ」
肩を落としていると、美穂さんが綾斗にブランケットをかけてやりながら、俺を励ますように微笑みかけてきてくれた。うぅ、その優しさが心に染みるぜ。
「ふふ…夏紀くん、今日はもう家に帰ってゆっくりするといいよ。綾斗も疲れて眠ってしまったし、細かい説明とかは明日またここにきてくれればきちんとしてあげる。ね?」
そこはかとなく胡散臭い笑顔で言われて、俺はひとまずうなずいた。とにかくなんにせよ、綾斗が眠っているんじゃどうすることもできないしな。
そうして俺は水野さんと共に、相談所を後にするのだった。
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