第3話



「読みたかったのはこれ?」

春輝が「スタンド・バイ・ミー」の背表紙を指して訊くと、「うん。この間、映画の再放送で観て、原作読みたいなって思って」と、沙耶は答えた。

「そっか、最近テレビでやってたんだ。俺も昔観たのを思い出して読んでみたいなと思ったんだ。でも、お先にどうぞ。俺、読むのすごく遅いから」

「いいの?ありがとう。……あの、1組の村上くんだよね、サッカー部のエースだし、作家の村上春樹と同じ名前だから覚えてるんだ」

そう言って彼女は少しはにかんだ様子だった。

「読み終わったら、報せるね」


その日から、春輝と沙耶の付き合いは始まった。

彼はスティーブン・キングに深く感謝した。


それから数日経ち、昼休みにキコが、「可愛い女の子が呼んでるよー」とニヤニヤしながら春輝の席に来た。

廊下に出てみると、沙耶が小説を持って彼を待っていた。

約束通り「スタンド・バイ・ミー」を読み終えて報せに来てくれたようだ。

「わざわざありがとう。面白かった?」

「うん。この作者の他の本も探して読んでみたい思った」

そう言ってにっこり笑う沙耶は、とても可愛くて魅力的だった。

春輝はそれから「グリーンマイル」とか「ショーシャンクの空に」の原作の「刑務所のリタ・ヘイワース」を読んで、たまに図書室で顔を合わす沙耶と感想を言い合った。

それから、ブラスバンド部の練習が終わった沙耶と待ち合わせて一緒に下校するようになった。

春輝たちは、スティーブン・キングに同じ先入観を持っていて、ひとつ意外だったことは、彼がメインで書いているのはホラー小説だということだった。




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