2/19『怠惰×雑巾×減らない』
お題『怠惰×雑巾×減らない』
プロット
序:めんどくさがりなので雑巾が増えていき、ついには山積みになる女の子
破:とっとと雑巾をなくすためにひたすら掃除をし続けるが、あまりにも汚い部屋なので掃除が終わらない
急:そして面倒くさくなったので引っ越すことにした。
「なにこの雑巾の山」
久々に知り合いの家に踏み込んだ私は呆れた声を出した。
「ちょっと! トト子! トト子! 中家トト子! 起きろ! かわいい幼なじみが来てあげたんだから起きなさい!」
げしげしとベッドで寝ている幼なじみのトト子を蹴りつける私。
「んにゅぅ……おかーさん、今日は日曜日だよぅ」
「お母さんじゃないでしょ! あんたの可愛い幼なじみこと凄井綺麗子よ!」
「あー、キレイコちゃんだー。おはよー」
「おはようじゃないでしょっ! あんたいい加減このキッタナイ部屋を掃除するんでしょっ! 女子寮の他の部屋からも苦情出てるんだからっ!」
「むーりー」
「無理じゃない! 今日は大学の講義もないんだからっ! とっとと起きて! きりきり掃除するのよ!」
「ぐーすかぴぃ」
「ぐーすかぴぃじゃなーい!」
トト子を強引にベッドから引きずり出し、床の上にどすんっと落とす。
「いったぁい! キレイコちゃんてばお転婆!」
「汚部屋系女子に言われたくないわね! ともかく掃除よ掃除!
ていうか、何? 部屋の半分が雑巾で埋まってるけど、どういうことなの?」
私の言葉にトト子はよくぞ聞いてくれました、と言わんばかりにぱぁっと顔を明るくさせる。
「あのね、私だって、部屋を掃除しようと何度も思ったの」
「ふむふむ」
「でもね、なんというか、せっかくやるなら本格的にしようと思って」
「ふむふむ。そうね。あんたの部屋汚いもんね」
「で、『どこから始めようか』『まずは掃除道具を作るところからかな』って」
「ん? んんん?」
トト子のとんちんかんな回答に私は眉をひそめる。
「言っている意味がよく分からないわね」
「つまり、よし、掃除を始めよう!てなって」
「うん」
「じゃあまずは雑巾を作ろうと思って」
「ふむふむ」
「雑巾を作ったところで飽きて遊びに行く」
「いやいやいや」
「で、別の日にまた思い立って掃除しようと思って」
「んー」
「雑巾を作るところから初めて」
「なんでよ」
「雑巾を三つ作ったくらいで飽きて遊びに行く」
「三つも四つも雑巾いらんでしょうがぁ! このスカタンがぁ!
だからってそれを繰り返して部屋の半分が雑巾で埋まるなんて本末転倒でしょうがぁ!
普通は雑巾作るところから始めないし、仮にそうだとしても、次からは最初からリスタートせずに雑巾を作ったところから始めるのよっ!
あんたはセーブなしにえんえんマリオブラザーズを最初からえんえんやり直して行くタイプかっ!」
「うん、そうだよ」
「そうだよ、じゃねぇんだよぉ!」
思わずトト子の頬をぺちんっと叩く
「いったぁい!」
「うるさい! 甘ったれた声を出すんじゃあない! まずはこの雑巾全部捨てる!」
「えー」
「いらないでしょ! こんなに!」
「せっかく作ったし、まだ未使用なのに」
「使う前から既に埃被って歴戦の雑巾みたいにきったない感じになってるでしょうがぁ!」
「んもう、キレイコちゃんはきれい好きだなぁ。名前の通りに」
「何も上手く言えてない! というか、きれい好き以前に普通の衛生感覚よっ!」
「そっかー」
何を言っても立て板に水言わんばかりにほわほわした返答しかしない幼なじみに私は色々とうんざりする。なんで私の方が息切れするほど怒鳴らなければならないのか。
幼稚園からこの大学生になるまで、私はずっとこの幼なじみを怒鳴り散らしてきたが、まったくこの子は堪えた様子がない。というか、慣れすぎてまったく怒られてる感じになってない。
「よし、まずは着替えなさい」
「え?」
「なに? パジャマで掃除するつもり?」
「いや、ホントに掃除するんだなって」
「すーるーんーだーよぉ! 掃除を!
立て!!!! 大地に!」
「ここは女子寮の床だよ」
「じゃあ床に立て!!!!! このなまけものぉ!」
私の言葉にトト子はノロノロと身体を起こし、そしてあきらめて再びノロノロと身体を床に下ろした。
「こらぁっ!」
「うーん、まいっちんぐ」
「何も参ってない顔で困ったアピールをするんじゃあないよっ!」
「はいはい分かりましたよー。やればいいんでしょう? その? そうじ? とか言うやつ?」
「急に未開人みたいな仕草をして逃げようとするのもやめなさい。クリーニング。掃除よ」
「え? クリーク?」
「なに? あんた私と戦争<クリーク>したいの?」
「ふっふっふっ、いざ戦いとなれば体重の重い私の方が有利だよー」
「仮にも女の子がそういう勝ち誇り方をするのはダメ!」
「まあまあ、まずは食事でも食べてから」
「部屋の半分が雑巾で埋まってる汚部屋で食事なんて取れる訳ないでしょ!」
「とれますけど?」
「ダメなマウンティングやめなさい! 全然マウントとれてないからね! それ!」
「じゃあさー、じゃあさー」
「何よ」
「フリマアプリでこの雑巾売れないかしらん」
「売れません」
「殺生な」
「もういい! ほらほらっ! このゴミ袋に雑巾を片っ端から詰めて行きなさい!」
「えー、パジャマ着替えてからでいい?」
「最初からそう言ってたでしょうがぁ! とっとと脱げ!」
「やん」
「可愛い声出してもダメ!」
「あはーん」
「艶っぽい声もダメ!」
「はいはいはいはい、分かりましたよ」
「謎の芸人みたいなリズム口調もダメ」
「ダメダメづくしだねい」
「掃除を、しろと、言ってるのよ」
「ふわーい」
パジャマを脱いでブラして簡単な部屋着に着替えたトト子がしぶしぶながらゴミ袋に雑巾を入れていく。
「ううう、せっかく作った雑巾達、生まれてきたのにその性能を生かせぬままに捨てられていくなんて、あまりにもかわいそう」
「過剰生産したあんたの責任でしょ」
「しーかーしー?」
「何も逆節で出てきません」
「はぁ……キレイコちゃんはいつもツッコミがキレてるねぇ」
「変な文脈を付け足すのやめて貰えない?」
「……うぅん? んんんん?」
「どうしたの?」
「減らないねぇ」
「始めたばっかでしょ」
「うーん、なんというか、効率が悪いことをしている気がする」
「いや、他に方法とかないでしょ」
「あるよー」
「たとえば?」
「人を増やすとか」
「こんな汚くて狭い部屋に大人数は入れないでしょ」
「うーん、よしっ、とりあえず、ここの部分だけ雑巾どけられたし、掃除機かけてみる」
「はいはいどうぞ」
トト子は雑巾の山に埋もれていた掃除機をなんとか掘り起こし、コンセントケーブルをしゅるしゅるしゅるぅぅぅ、と引き出した。
「というか、掃除機あるなら雑巾こんなに作る必要なかったでしょ」
「……一理ある」
「百理あるよ!」
「そんなに?」
「……そんなにはなかったわね」
「いえーい、キレイコちゃんに勝った」
「これで千億勝一敗ね」
「そんなに勝負したっけ?」
「してないわね」
などと言いつつ掃除機のコンセントケーブルを壁のコンセントにプラグ・オン!
そして電源を入れる。
ばちっ
「ん? なんか今、変な音しなかった?」
「え? 何が」
「なんか、こう、ばちっ、て弾ける音が」
「なにそれ。赤い実とか弾けたの?」
「この状況で弾ける赤い実とかないでしょ? いや、なんか、掃除機の――」
と振り向いて気づく。
燃えていた。
綿埃まみれのコンセントから思いっきり引火してそこら中の雑巾に火が燃え移っていた。
「でぇぇぇぇぇえ!」
「もーえーてーるー!」
私は慌てふためき、思わずその光景を見つめてしまうが、見ている場合ではない。
「はっ! ぼけっとしてないで水! 水は!?」
「水道は止められてる!」
「嘘でしょ? 女子寮で水道止められてることってある?」
「いや、部屋が汚くて」
「共用スペースからバケツ組んでこなきゃぁああああああああああああ」
ばたばたしているウチに思いっきり火の手が大きくなり、いつの間にか部屋の大半が炎に包まれてしまう。
「ああもう! ずらかるわよっ!」
「それは泥棒の台詞だね!」
こんな時ばかりはトト子は素早いフットワークで私の脇を抜けて脱兎のごとく部屋から出て行った。
やがて――老朽化していた女子寮はあっけなく全焼してしまった。
燃えさかる女子寮へ必死で消火活動する消防士達に避難誘導され、私達はいつしか遠巻きに住宅街のど真ん中で巨大なたき火と化した女子寮の姿を眺めるのみ。
「……なんというか」
「うん」
「片付いちゃったね!」
「こんなのが片付いたうちに入るかぁ! このお馬鹿!」
「ひーん、もう掃除はこりごりだよぉ」
かくて、トト子は引っ越すことにしたのであった。
了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます