2/15『誕生日×処刑×リボン』
お題『誕生日×処刑×リボン』
プロット
序:誕生日に始まる残虐処刑ショー
破:リボン使いの処刑人と生存を賭けて戦うも、及ばず
急: 死の瞬間、頭にそれまでの人生がよぎって死ねないと決意して逆転
「ふははははは! 誕生日おめでとう! そして今日が貴様の命日だ!」
モヒカンの処刑人の放ったリボンが一瞬にして硬化し、カミソリのような形状へ変化。硬質化したリボンがあっという間に家の門を裁断した。
「うそぉっ!」
私はびっくり仰天しつつ、自宅から飛び出した。
「なんで処刑人なんかが私の家に!」
私、家野麻衣子。ごく普通の日本の女子高生。
今日は十六歳の誕生日でスキップして家に帰ったところだったのだけど、突如として現れたモヒカンの処刑人の操るリボンに玄関を破壊されてしまった! 意味分からない! 助けて!
「はぁぁぁっはっはっ! 分からねぇのか! これは貴様が生まれた時から定められた運命なんだよ!」
「なに!? どういうこと? さっぱり分からないので説明して?」
家の裏口から逃亡した私の後ろを処刑人がリボンをふりふりと振り回しながら追いかけてくる。
「お前はよぉ、予備なんだよ! とある金持ちのなあ!」
「予備ってどういうことなのぉぉぉ!」
「とある金持ちが、自分の娘が将来病気になった時に代わりの臓器を移植するために育てられたクローン人間なのさぁ!」
「なっなんだってー!」
必死で逃げ回り、助けを求めようとするが、不思議とどこにも人が居ない。
まさか、その金持ちとやらが手を回してこの区画一帯から人払いをしたのか。
「というか、私え? クーロン人間だったの??? 信じられないんだけど、それが実用化されてたなんて!」
「さあな! 俺は依頼人からそう聞いてる。嘘かもしれんがな!」
「なんでまたそんなこと教えてくれるのよ!」
「冥土の土産ってやつだ!」
「うがががーん! 絶対殺す気じゃんそれ!」
「だから殺すと言ってるだろうがぁぁぁ!」
しかし叫びながら走っていたのですぐ体力が切れて私はふらふらになり、ついには走れなくなる。
「ぜぇ……はぁ……だめだ……早く……逃げないと……」
「くくくくく……ぜぇ……はぁ……追い詰め……ぜぇ……はぁ……たぜ……ぜぇ……はぁ……」
「私より息を切らしてるー!」
「ふふふふふふふふふ……言っとくけど……オジサン……結構な歳だからね……16歳と……ぜぇ……はぁ……かけっことか……無理……な……とし……ぜぇ……はぁ……だから……」
なんというか、処刑人さんの方が早くも死にそうである。
「休憩、休憩しましょう」
「そう……だなぁ」
私達は向かい合い、十メートル近くの距離を取りつつ、その場にしゃがみ込んだ。
アスファルトが無駄に冷たい。
「おじさん、なんで処刑人なんかを……というか、すごい格好ですね。肩にそんなたくさんのトゲのついたアーマーとか」
「へへへ、爺さんの代からのコスチュームだからな」
「受け継がれてるんですね。そのアーマー」
「ああ、処刑こそが我が一族の宿命だからな。とはいえ、縛りはあるが」
「しばり?」
「俺たちの一族はそいつの命が満ちた時――すなわち、生まれた日にしか処刑しない。人呼んでバースデー・エクスキュショナー」
――うわ、だっさ。
しかし、それを言ったら殺されてしまうので内心に抑えつつ、愛想笑いをする。
「それは素敵なお仕事ですねー」
「だろう。だから、俺はじいちゃん達の意志を受け継ぎ、果たすんだ。最も美しい命の終わりをリボンで飾るために」
「あ、そのリボンの武器に意味があったんですね」
――意外と由緒のあるものだったらしい。てっきり趣味でリボンを鞭として武器にしてるかと思った。
「さて、息も整ってきた。そろそろ処刑の再開といこう」
「待ってください! クローン人間だからって殺すのおかしくないですか?
むしろ、臓器のスペアとしてのこすなら生きてた方がいいのでは」
「若いうちにバラバラに分解して冷凍保存するらしいぞ」
「うげぇ」
「安心しろ、リボンでラッピングしてやる」
「いや、別に保管方法が嫌って訳じゃないです」
――殺されるのが嫌なだけですよ!
「よし、決めよう。貴様の最後の瞬間を」
「あ、なんかそれっぽい台詞が来――うわぁぁぁぁぁぁあ」
とっさに横に飛んだあと、遅れてリボンが通過し、地面がスライスチーズのようにすぱっと切断される。
「ちょ、今更だけどリボンでその威力おかしいでしょ」
「ふふふ、誰もがそういう。リボンなんかが刃物のような殺傷力を持つのはありえないと」
「教えてください。処刑人さん。その殺傷能力の筆を!」
「企業秘密だ死ねぇい!」
「うぇーんですよねー!」
私は飛来するリボンを次々と交わしつつ、その場から飛び退いていく。
が、いつの間にやら丘の上の豪邸の横を過ぎ、崖の上に来ていた。
「くっくっくっくっ……どうやらもう逃げ場はないようだな」
「ああもう、どうしよう。ワンチャン崖の下に飛び込むべきかしら」
とはいえ、崖下の海まで五十メートル以上はある。
飛び降りれば待っているのは確実な死。
「さぁて、観念なさい」
――進むか、戻るか。
果たしてこの処刑人から逃げたとしてもクローン人間の私は指名手配とかされてしまうのかもしれない。何かの実罪があろうがなかろうが関係ない。ともかく待つのは死のみなのだ。
「さあ、これで終わらせてあげましょう! リボン・ファイナル・スライサー!」
――だっさい名前の必殺技来た!
私がそれを口に出してツッコむ前に硬質化したリボンが飛来する。
何もかもがゆっくり見えた。
ダメダメだった、小学生時代。
ダメダメだった、中学生時代。
そして、ダメダメだった高校生時代。
――思い出した、なにもかも、私は出来ないダメダメ人間だったんだ。
だったら、死ぬのなんて当然なのかも知れない。
私はせまりくる死のリボンを前に動くのをやめようとして――いや、ダメだ。そうじゃない。
とっさに、私は相手のリボンを飛び越え、踏みつけた。
「な、なにぃ!」
私の周囲を飛び交っていたリボンがぴたりと止まり、処刑人がつんのめる。
そう、さっきまで見てて気づいたのだが、敵のリボンはすべて一つ。それが角度を変えたり、変形したりして襲いかかってくるだけ。
「は、はなせ! 小娘!」
「残念ね。よく分からない処刑人さん。殺し方をこだわったのがあなたの敗因」
「馬鹿め! 俺の攻撃を封じたとして、ここからどうやって俺を攻撃する! ただの女子高生でしかないお前によぉ!」
処刑人の言葉に私は懐からマッチを取り出し、それをリボンに点火した。
「な、なにぃー!」
「誕生日プレゼント用に喫茶店で貰っておいたマッチ、意外と使えたわね」
「まさかぁ! マッチごときがこの俺の処刑を邪魔するだなんてぇぇぇぇぇぇ!」
伸縮自在のリボンは燃えやすい素材だったのかあっという間に炎に巻かれて消えてしまった。
後に残ったのは処刑道具をなくしたただのモヒカンのオジサンだけである。
「くっ……仕方ない。今年は撤退してやる」
「え? 来年まで待ってくれるの???」
「俺はな。だが、他の殺し屋達は別に殺し方と殺す日にこだわらない。
そいつらが手ぐすね引いて待っているだろうが、それまでせいぜい殺されないように逃げ続けることだな」
そう言ってリボン使いの処刑人は自らどぼーん、と崖に飛び降り消えていった。
「何故飛び込む……死んだのでは?」
私は意味が分からず首を傾げる。
なにはともあれ。
「ひとまず逃げるか」
よく分からないけど、私はクローン人間で殺される運命らしいし。
だが、自分の出自が分かったことで俄然生きる気力が湧いてきた。
今まで特徴のない平凡な女子高生だと自分のことを思っていたが、意外と面白い人生を送れそうだ。
なんだか色々と楽しくなってきた。
「ありがとう。ハッピーバースデー私。こいつはもう、楽しむしかない」
かくて私は無味乾燥の、ダメダメすぎる人生から一転、面白おかしい逃亡生活を始めるのだった。
了
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