第12話 親友の怒り
「本当になんなのかしら、あの子!」
「リーザ、ここ教室だから落ち着いて」
教室に着くなり大声を上げて地面を蹴るエリーザ。怒る気持ちも分かるが落ち着いてほしいと背中を摩って宥めた。周りを見渡せばクラスメイト全員がこちらを見て唖然とした表情をしている。驚かせてしまって申し訳ないと頭を下げて謝ると気を遣ってくれたのか見ないように顔を背けてくれた。
「リア、あれ本気で潰していいからね。手加減不要だから!」
「え、えぇ…」
両手を胸の前で握られる。闘争心に満ちた瞳と強く握られた手から感じる熱気に当てられて頷くしかなかった。ふんっと勢い良く鼻を鳴らす気迫ある姿は名門伯爵家の令嬢には到底見えない。
それにしてもエリーザはどうして急に怒り始めたのだろうか。悪く言われたのは私であって、彼女ではないのに。言葉が不愉快だったから?
「リーザが怒ることないのよ?悪く言われたのは私なのだから」
エリーザの動きが一瞬止まった。ぎこちなく振り向いた彼女は苦々しい表情を浮かべている様子。
「目の前で親友が馬鹿にされていたら怒るに決まってるでしょ?」
「そういうものかしら」
「じゃあリアは私が目の前で馬鹿にされてたらどう思うの?」
「怒るに決まっているわ」
目の前でエリーザが馬鹿にされていたらなんて幼い頃から何度もあった場面だ。
伯爵家の令嬢でありながらあまり令嬢らしくない彼女を馬鹿にする人はそれなりにいた。だから私はいつもそんな人たちに怒りを向けていたのだ。
「そうよね。リアはいつも私のために怒ってくれてたわ」
「それがどうかしたの?」
「わざと言ってるのか本当に分かっていないのか分からない反応やめてよ」
私がエリーザのために怒るのと彼女が私のために怒ることがいまいち繋がらない。
首を傾げると「頭良いくせに変なところ鈍感よね」と呆れたように言われてしまう。
「リアが私のために怒ってくれている理由と私があなたのために怒る理由は同じなの。大事な親友だから馬鹿にされて怒ってるのよ」
「あぁ、なるほど…」
「子どもでも分かりそうなのに」
エリーザのことを信用していないわけじゃないが令嬢が自分のために怒ってくれるというのは新鮮な体験すぎて気がつかなかったのだ。
「リアはもう少し柔軟性を持った方が良いわよ」
「それを言うならリーザはもう少し淑女らしくした方が良いと思うわ」
「痛いところ突かないでよ」
聞こえないふりをするエリーザは昔から変わらない。裏表が希薄な優しい子だ。
「ありがとう、私のために怒ってくれて」
「当然。今までのお返しもしないとね」
お返しなんて要らないのに。
エリーザも分かっていてそんなことを言うのだからおかしな子だ。
「なんかこういうの青春って感じがするね」
「青春ってなに…?」
「知らないの?ロマンス小説によく出てくる言葉だよ!」
「ロマンス小説は読まないのよ」
巷で流行っているらしいがその手のものに触れたことがなかった。というよりも触れる時間がなかったと言った方が正しい。
「知ってるわよ。今度貸すから読んでみて!」
「えぇ、そうするわ」
どうせこれからは好きなだけ自分のために時間を使えるのだから。親友の好きなものくらい把握しておかないとね。
楽しそうに笑って自分の好きな小説の話を始める彼女につられて笑った私の頭からは
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