03.ヒロインって馬鹿なの?

 私を支え損ねたお兄様には、しっかりお仕置きしました。頭が痛いと言って、お姫様抱っこで移動していただきます。なぜか嬉しそうに横抱きにしていましたわ。


 宮廷医師になったアルバート兄様は、治療と称して私の部屋に入り浸り。その際に興味深いお話を聞きました。私と入れ替わりに入学した、平民出身の男爵令嬢についてです。


 第二王子アーサー様と仲良くなり、不躾にもお名前で呼んだとか。王族に対しては、公爵令嬢の私でさえ敬称付きなのに……当然、身分制度を叩き込まれた貴族令息や令嬢から苦情が出ました。それを私の元婚約者が庇ったので、各貴族家が第二王子から離れたそうです。


 乙女ゲームなら、それでも第二王子が王位についたりしますが、現実にあり得ません。だって王太子殿下と他の王子殿下の教育は違いますもの。統治者になる方と、その臣下に下る方が同じ教育を受けるわけがありません。


 物語だと第一王子派、第二王子派があるのでしょうけれど、我が国は長子継承の仕組みが染み込んでおりますの。次男が長男を押しのけて王位に就くなど、クーデターでも成功させないと無理でした。あの方にそれほどの才覚はないし、今回の男爵令嬢の件でほとんどの貴族にそっぽ向かれてしまったはず。


 失態を犯しても切り捨てられるのがオチですわ。私が婚約解消を受け入れたのも、これが原因です。前世の記憶を辿ってあれこれ考えてみた結果、婚約者が浮気して『婚約破棄だ』と叫ぶことは確実でした。その時にすぐ見限るつもりで、あれこれと身の処し方も考えておりましたのよ。


 まず王妃様とは良好な関係を築きます。折々にプレゼントを贈り、頻繁にお茶会をして娘のような位置を得ました。そこから国王陛下もご一緒するようになり、お名前で呼ばせていただくほどに親しくしております。今の私に死角はありません。


「その男爵令嬢はどうなさいましたの?」


「ああ、あのピンクなら退学になった」


「……ピンク、ですか?」


 やはり、スチル通りのピンクブロンドという髪色なのかしら。一度この目で見てみたかったわ。いくら異世界といえど、あまり非常識な髪色の方は見かけたことがありません。緑や青はもちろん、ピンクも。


「頭の中身も外見もね。珍しい色だから目立つだろ? でもってわけだ」


 アル兄様は顔を顰めた。彼は上級生で生徒代表会に所属していたから、騒動も処罰もすべて知ってるわよね。今回は攻略しても、悪役令嬢の私が学院を卒業済みだから、別の御令嬢に対して何かしたはず。


 乙女ゲームでは、卒業のダンスパーティーで悪役令嬢が断罪される。攻略対象に応じて、悪役令嬢は変わった。第二王子アーサー様、リチャードお兄様、従兄弟アルバートなら私。隣国の王太子イアン様ならガーランド侯爵令嬢、第一王子ヘンリー様は婚約者のソフィア様。


 フラグが偏ってたのよ。つまり『満開の花が咲く丘』で一番の悪役令嬢がこの私だった。そのフラグを折ったんだから、断罪は起きない。


「何がありましたの?」


 わくわくしながら尋ねた私に、アル兄様は苦笑いした。


「昔からこういう噂好きだよね。ペンフォード公爵令嬢にマナーを注意されて突き飛ばし、ケガをさせたのさ」


「はい?」


 私と同じ公爵令嬢といえば、貴族家の中でも最上の肩書きを持つお方……男爵令嬢が直接口を利くのも失礼にあたるのに? ヒロインって、転生したゲーム脳の痛い子なの??

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