喧嘩のその後

 我が家の小さなバルコニー。室外機しか置けないような、小さな小さなバルコニー。カラスの羽毛ですっかり汚れて、ようやく綺麗に片付けた、小さな小さなバルコニー。

 ほっと一息吐いた頃、窓の向こうでガサガサと、何やら小さな物音が、確かにかすかに響いてる。


「今度は何だ、一体何だ」


 恐る恐ると眺めてみると、カラスに散々突つかれた、開きっぱなしのサンシェード。その物陰でゴソゴソと、何やら小さな塊が、出たり引っ込んだりしてる。


「そこにいるのは、どちらさん?」

 そっと窓開け覗き込む。


 すると小さな黒頭、室外機横からぴょっこりと、出てきて、こちらに、こんにちは。

「……」

 おやおや、これは。どうしましょう。


 喧嘩カラスの片割れが、片足引きり、ちょこちょこと、我が家のシェードと室外機、隙間にできた物陰を、シェルター代わりに避難中。

「……」

「……」

 じっと見つめるつぶらな瞳。


「追い出したりとか、しませんよね?」と、言わんばかりに凝視する。ふっと見上げる屋外の、アンテナ上にはカラスが一羽。見張りよろしくまってる。


「……」

 やれやれ、困った。どうしましょう。


 溜息混じりに肩を落として、静かにそっと窓閉める。

 わたしは何も見なかった。


 しばらくそのまま放置して、小一時間後に様子見る。そっと窓開け覗き込んだら、やっぱり小さな黒頭、待ってましたと言わんばかりに、ぴょこぴょこ陰から、こんにちは。

「そろそろ昼食まだですか?」そんな感じで、小さく小さく「カー」と鳴く。


「……」

「……」

 やれやれ、困った。どうしましょう。

 餌付えづけは条例違反だと、カラスにいても聞きゃしない。


 少し休んで回復したのか、足の具合はマシな様子だ。折れていなくて何よりだ。

「……」

「……」


 悩んだ挙句に根負けし、ポールウィンナー取り出して、二切れちぎって、トレーに乗せて、一度、外でて共有の、廊下の端の防火壁、下の隙間にそっと昼食差し入れる。

 後々に、学習されても困るので、さすがに姿は見せられぬ。

 そのまま様子を伺うと、ぴょこぴょこ足音響かせて、トレーを突っつく音がする。


 そのまましばらく放置して、小一時間後に様子見る。

 すると昼食完食し、どうやらそのまま飛んでった。

 ぷりっと一つ、フンだけ残して去ってった。


「……」

 やれやれ、もっかい掃除せにゃ。


 も一度、シェードをえ直す。二度とカラスが突っ込まないよう、隙間をぴっちり閉ざしておいて、ふっと見上げた屋上に、相も変わらず陣取っている、見張りカラスが「カー」と鳴く。


「……」

 カラスの喧嘩は御免だと、つくづく思った昼下がり。

 外はにわかに騒がしい。元気なカラスで騒がしい。


——————

いやあ、参った、参った。

あのまま、もし気付かずにあの隙間で息絶えられでもしたら、保健所を呼ばないといけないところでした(野生動物との適切な距離感は大事)。

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