補色

独楽

第1話

「学校行きたくないんだよね」

蒼が両親にそう切り出したのは、高校1年生の6月だった。

このままだと出席日数が危ういです。と高校教師から家に電話があったために開かれた家族会議——それも3回目——で、蒼は何度言ったかわからない言葉をまた口にしたのだった。

入学したばかりの高校に行きたくないだなんて、と母親は半狂乱になった。

父親は何も言わなかった。


母親が半狂乱になるのは、ただそれだけではない理由があった。蒼はこの頃夜になると行方も告げず外出し、朝方に帰るのである。酷いときには翌々日まで家に帰らないこともあった。

母親が問い詰めても頑なに口を開かず、父親は無関心ゆえの沈黙を貫いた。本人は口を割らない。父親役は頼りにならない。そんな中我が子が今度は学校に行きたくないなどと言い出したのだ。半狂乱になるのも少し理解できる、と蒼は他人事のように思った。


蒼は努めて冷静に続けた。「虐められてるとかではないんだよ。ただ、毎日同じことの繰り返しなのが、しんどくて」


どうしてみんなと同じように出来ないの、と母親はさらに発狂した。父親は卓上の水を飲んだ。今日はもう話にならない。

1回目と2回目の家族会議の時もそうだった。蒼が一言話すと、母親は怒るか発狂していた。学校に行こうという言葉に、母親の望む返事が出来ないことが申し訳ないと蒼は感じていた。でもお母さんの目には私は身勝手な子供としか映っていないのだろう。


「外に出てくるね」


財布を掴み、発狂する母親を尻目に、蒼は玄関から夜の街に出ていった。

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補色 独楽 @kokoroharebare_

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