第四項 いいんぢゅうぉおおぉおおおーーー!
「いいんぢゅうぉおおぉおおおーーー! 遅いっすよーーーうっ。一体どうしたんすかあっ?! ふええええええんっ!」
診察室から出てきた委員長……に向かって理亞ちゃんは、両手を広げ半泣きでダイブした。嘘。本泣き、むしろ大泣きだった。
それはもう十年ぶりに生き別れの姉に出会ったかの如くフライングハグを委員長にブチかまそうとする理亞ちゃんだったのだ。
あ。
もう1つ嘘ついた。
――スッ
「ぐえっ!!」
「ケガ人に対して何をするのですか。それこそ重症になってしまいますわ。それに私の零様に触れるだなんて五百億年早いですわ。」
五百億年って何億年ですか。
まったく。
そう。
本当は理亞ちゃんがダイブをしようとしたその瞬間、生徒会長が委員長の前に立ちはだかり理亞ちゃんの特攻を華麗に阻止したのだった。見事な生徒会長のつよつよブロックに、理亞ちゃんの野望は脆くも崩れ去ったのだ。
なので、厳密に言えば理亞ちゃんは、委員長に向かってダイブしたのでは無く、委員長に向かってダイブ
……が、正解、大正解ピンポンピンポンなのだった。一文の中で2回も嘘をついちゃう私。どこかのポンコツアンドロイドみたいよね。てへぺろ。
……って、ん?
素朴な疑問が私の脳裏をかすめるのだった。
「重症になってしまう……ってことは、委員長、重傷ではなかったのですか?」
「ああ、幸い捻挫で、骨は折れていなかった。」
「ぐわああああっ! よ゛がだよおーーー。いいんじょーーーお! うわわわわーーーんっ!」
もはや何を言っているのか私には全く理解不能だ。理亞ちゃんって日本人って理解でおk?
ふむ。
理亞ちゃんってば、どちらにしても泣くのだね。本当にかわいい。まあ、これだけ感情をむき出しにできるのって、私にしたら至極羨ましくもあるのだけれど。
「理亞ちゃん、泣かないで。委員長大したことなくて良かったね。」
「う゛ん。う゛ん。ぐぅえ゛ーーーん……!」
もう、濁点盛り沢山に頷き泣きながら、頭をブンブン上下に振る理亞ちゃん。
はあ、何だか理亞ちゃんが羨ましいよ。
だってさ。
私の方は、どちらかと言えば、泣くのを我慢してしまうタイプだから。むしろ泣くのは悪だと思っているから。
――泣けば良いと思いやがって。
小さい頃、男の子からよく言われた言葉。
だから、私は
いわゆるトラウマと言うヤツである。
これはバグではありません。
仕様です。
――私にとって泣くことは悪なのです。
問い合わせ窓口からの常套句の如く脳内で繰り返される仕様。
これは、今までも、そしてこれからも、決して私の中で変わることの無く脳内で繰り返される思考なのである。
大事なことだから2回言おう。
――バグではありません、仕様です。
……えっと。華麗に話が逸れちゃったね。
くだらない私の昔話を聞かせてしまって申し訳ない。こんなつまらん話、誰も聞きたくないと思うから、話を元に戻そう。
機会があったら、また話すよ。どこかでね。
診断の結果、委員長の足は捻挫で骨は折れていなくて、入院の必要も無いとのことで、本当に良かった。本当に。
と言う訳で。
リア充爆ぜろ委員会の面々が揃って病院に来てしまったせいで、運動会の表彰式の優勝カップを受け取る人が誰も居なくなってしまったのでした。優勝者不在の閉会式。さぞしらけて、ポカーンな閉会式になってしまっていただろうことは想像に容易いことだ。
こんなことになるのだったら、リレーを陸上部に勝たせてあげたら良かったかな。なーんて上から物を言ってみる。
でもまあ、これもリア充爆ぜろ委員会らしいと言えばらしいのかな、とも思う。
それにしても、
普通なの私と理亞ちゃんだけじゃないか。
嘘。
嘘つきました。お詫びと訂正。
普通なのは私だけでした。
理亞ちゃんは違う意味で普通じゃないのでした。ぶっ飛んでいるのでした。
うん。私だって普通だよ?
速水先輩から400mで日本新記録やで!
とか言われたけれど、あれはマグレだからね。まーぐーれ。
いやほんとに私 (と理亞ちゃん)を除く皆さん、文字通り宝の持ち腐れでしょ。カビ生えちゃってるでしょ。こんな凄い人たち (しつこいほどに私と理亞ちゃんを除く)が、何故に集まったのか理解できない。委員長の人徳なのか何なのかわからないけれども。
「いいんちょー! 捻挫の割には診察の時間長かったじゃなっすかーっ! 捻挫って本当なんですかっ?! 実はもっと重病なんじゃないですかー? 僕たちに気を使ってるんですか? 僕たちの間に秘密は無しっすよーっ!」
理亞ちゃんが委員長に向かって、のべつ幕無しに噛みつくのだった。子犬のように。わんわんわおん。
あ、ところで子犬と言えば、私の好きな犬種はパピヨンです。お耳大きくてお尻フリフリモフモフかわいいたまらん。
あ、私の好きな犬種なんてどうでも良いですかそうですか。
はいはい。
話を戻しますよ。
確かに。
確かにそうだ。
こほん。
だってだって!
診察時間は、
だがしかし、理亞ちゃんから発せられた教科書通りの素朴な疑問「捻挫にしては診察時間が長いじゃないっすか。」は、委員長の隣に寄り添う生徒会長によって、いとも簡単に覆されたのであった。
「ホント散々でしたわ。零様と私が診察室に入りましたら、虫けらが偉そうに座っておりましたので、零様に虫けら菌が感染する前に最速で駆除して差し上げましたわ。」
なるほど。
全ての謎は解けた。
じっちゃんの名をかけなくても謎は解けたのである。
ああー。
だから、さっき私たちの目の前を看護師たちがバタバタと行きかっていたのか。スッキリと腑に落ちましたよ。はい。
主治医が虫け……いや、男性であったことを生徒会長 (と委員長)が嫌った訳だ。そして、激怒した生徒会長は、口から火を吐いて吹いて (比喩ですよ……たぶん)猛抗議した。結果、看護師さん達は、慌てふためいて、血相を変えて、女性の医師を呼びに行ったのだろう。
「あ、えっと。ちなみにその虫けらさんはどうなったんですか?」
「虫けらにさんなんていりませんわ! それに何を分かり切ったことを言っているのですか? もちろん私直々に直ちに駆除しましたわ。」
「あー……ですよねー。」
駆除。
つまり男性の医師を女子高生がクビにしたってことか。
可哀想に。
きっとこの病院で働いているってことは、それなりのキャリアを積んだ人材が揃っていのだろう。学歴もハイスペックに違いない。それこそ当然のようにベンツとかBMWに乗っているような人たちが集結している。
なのに、女子高生の一言でクビにされてしまう。
今までの苦労が水の泡って奴だよね。男性と言うだけで職歴に傷がついてしまうのだから。
もし、このあと別病院の採用試験を受ける際、これだけのキャリアがあって、しかも一流の鬼龍院総合病院に勤めていて、何故、転院したのか一番に聞かれることだろう。しかも自己都合ではなく病院都合での離職。
むしろ、キャリアからは見えない何かしらの欠陥があって、病院を辞めることになったと勘ぐられても何ら不思議はない。
――何故、前の病院を辞めたのですか?
――男だからです。
わからねぇ。
意味が分からねぇ。理解が出来ねぇ。
――は?
十中八九聞き直されるに違いない。
――男だからです。
――私にも理解できません。
としか言えないだろう。
その人、どうなっちゃうんだろうね。
まあ、他人事だけれども。
さてさて、顔も知らない医師への同情はこれくらいにしてと。
それにしても、これでまた軽音部の入部から、また一歩遠ざかってしまった訳で……もう諦めるしかないのかなあ。諦めたくないなあ。
うーん。
でもこの委員会にも迂闊にも情が湧いてきてしまったことも否定はできない。
まあ、なるようになるか。
うん。でも、これからのことを思うとワクワクが止まらないのも事実なのです。私も委員長 (と理亞ちゃん)に影響されちゃったのかな。
新メンバーの速水先輩も加わって、更に賑やかになりそうです。
前途多難なリア充爆ぜろ委員会なのでした!
あ、でも……うん。
前途多難を楽しめそうな私なのでした!
おしまい。
――
あ、おしまいだけど、まだエピローグに続きます!
そんなに簡単に皆のこと離してあげないんだからね!
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