第15話 戦後の処理

 子ども達も慣れた様子でゴブリンを引きずっている。こういうは魔族特有なのかもしれない。


 「おい、おまえ!なんで俺たちを助けたんだよ」


 小生意気そうな赤髪の少年が俺を見上げながら言う。ナスカよりも背は低く、少年というよりは年少な感じがする。


 「もちろん、切り刻んでシチューの具材にするためだ」


 威圧込みで言うと、少年は地面を盛大に濡らした。す、すまん、やりすぎた。


 「というのは、冗談でぇ〜」


 うぅ、ナスカが俺のことをゴミみたいな目で見てる。


 「助けなかったら冗談抜きでゴブリンのご飯になってたのは理解できてるのか?」


 結果、他2名も盛大に地面を濡らす。こんなはずでは無かったのだが、ますますナスカの俺を見る視線が痛い。魔眼とか持ってるんじゃ無いだろうか。


 「ゲイン、良い加減にしろ」


 素晴らしい蹴りがこちらに飛んでくるのを柔らかく十字ブロックの要領で流す。


 「おぉ!!できた」


 「ちっ、いくぞ!!!」


 「いやいやいや、模擬戦じゃねぇ!!!ナスカ、他に言いたいことあったろ?」


 想像以上にうまく威力を流したのがナスカは気に入らないらしい、珍しく殺気まじりの圧力を感じる。


 「おい、テメェらか俺の仲間のやったの?」


 すぐ近くに知性を感じるゴブリンが立っている。背に盾をかけ、右手の片手剣の先はまだ地面に向いている。集落に戻ったばかりで頭の整理ができていないようだった。


 「あぁ、俺たちがやった」


 「ほぉ・・・アブリュート家、か?」


 ゴブリンの纏う空気が一気に変わる。質問に答える必要は無さそうで、すぐに始まるのがわかった。


 「ナスカ、子ども達を連れて待避所へ行け」

 「は?何言ってんだよ。ゲインで勝てるわけないだろ!!」


 ナスカがヒステリックに声をあげる。そう、俺たち二人じゃ敵わない可能性が高い。


 「作戦3だ。ナスカ、一生で10回中1回目のお願いだ。言うことを聞いてくれ」


 「あと、9回言ってくれるのか?」


 「いけ!!約束は守る」


 ナスカがすぐに反応し、子ども達3人を両腕と背中に乗せて退避する。心の底から安堵している自分に少しだけ驚く。少なくとも不義理はしたくないんだよな。


 「おいおいおい、簡単に逃すと思うのかよ」


 殺気立つゴブリンに対し、『鑑定』を使う。それだけで上位種は魔力に反応する、そういう傾向が強い魔物ほどある。


 名前:ダガッツ       

 性別:雄

 種族:ゴブリン・キング(亜種)

 職業:集落の王

 適性:火魔法、片手剣、体術、絶倫

 装備:ゴブリンの盾、ゴブリンの剣


 すぐに剣を両手で構え、ダガッツに対峙する。


 「俺はゲインだ」


 「ふん!!なにが魔物の名乗りだ!!俺の同胞を殺しておいて!!!」


 ダガッツは名乗りに応えず、俺に直線的に迫り片手で剣を振るう。両手で持つ剣で防ぐも勢いは止められず、後方へ弾かれる。体重差もあるがやっかいなのはスピードの方だ。


 「『光よあれライト』、『炎の矢ファイヤ・アロー』、『水の棺ウォーター・スクエア』」


 両手が塞がっていようとも魔法は使える。目眩し、火の矢、四角い水箱を空中に設置する。


 「詠唱破棄で3つも唱えられるとはな。おまえ、魔法使いなのか?」


 ゴブリン・マジシャンの眉間を貫通したファイア・アローをダガッツは簡単に剣の腹で受け流す。魔法まで受け流せるってどんな剣術なんだよ!!俺にナスカの『ファイヤ・ボム』を流せる日は来るのだろうか。


 すぐに間合いを消され、剣での撃ち合いに変わる。こちらは防戦一方だが、向こうは片手剣を笑いながら振るっている。完璧に舐められているが、いまは時間を稼ぎたい。できる限り本気を出させないようブロックを続ける。


 「ほぅ、やるじゃねぇか!!っとぉお!!」

 「クッ!!」


 剣を防ぐと腹部へ前蹴りをしてきた。蹴られる瞬間、腹へ魔力を集中し自ら後ろへ飛ぶ。


 「『水の棺ウォーター・スクエア』、『水の棺ウォーター・スクエア』、『水の矢ウォーター・アロー』」


 「なんだ、その魔法!?目眩しにもならんぞ」


 自分たちの戦闘区域に設置した水の塊を水の矢ウォーター・アローで打ち抜く。


 「『風よあれウィンド』、『風よあれウィンド』、『風よあれウィンド』、『風の刃ウィンド・カッター』」


 水を霧状にすると視界はほぼ効かなくなった。


 「見えないくらいで逃げれると思ってるのか?」


 「やっぱダメ?」


 惚けながら仕込みを何とか終える。あとはいつ、だけだ。


 「そろそろ片付けないと逃げて嬢ちゃんに追いつけないな」


 ダガッツが小さな声で呟くのが聞こえる。追わせる気は無い!!


 「『水の棺ウォーター・スクエア』、『風の刃ウィンド・カッター』」


 ダガッツが風の刃を簡単に躱す。


 「それ、もう飽きたな」


 ギアを上げた速度で急接近したダガッツが片手剣を振るう。俺はそれを何とか全力で受け止める。


 『光の矢ライト・アロウ』『光の矢ライト・アロウ』『光の矢ライト・アロウ


 光の矢を3本、ダガッツの背後から発動させ、背中に攻撃が刺さる。俺はすぐにバックステップで距離を取り構え直す。両腕がジンジンと痺れている。


 「グハァアア」


 ダガッツの口から血が吐き出た。


 「『風の刃ウィンド・カッター』『炎の矢ファイヤ・アロー』、『炎の矢ファイヤ・アロー』」


 躊躇せず、追い討ちをかける。相手は格上で、ダメージが通ったのなら一気に叩き込まないとこちらが死ぬ。


 「くっ、そ。む、無詠唱でき、たのか・・・」


 無防備にダガッツは魔法を体に受け、周囲の霧ごと朱く染まり、崩れ落ちる。


 「『炎の蹂躙ファイヤ・ボム』」


 近づく気はさらさら無い。魔力を多めに注ぎ込み、ダガッツの首周りを一瞬で焦がす。魔力欠乏が近く、頭痛が始まった。ここで気を失うことも許されない。



 「ふっーーーー、やばかったぁ〜」


 剣の構えは解かず、視界が晴れるまで待った。自分の勝ちに酔いしれてはいけない、そう思っていても生き残った高揚感を簡単に消すことはできない。呼吸を浅く、意識的にカウントを取りながら繰り返す。


 「うし!!これで帰れるな」


 ゴブリンの死体処理も終わっていないが、魔法をさらに使う気にはとてもならない。ただ、一般教養で習ったが強い個体は死体を放置するとアンデットになる可能性がある。ダガッツだけでも処理をしておくか。



 「・・・すまないが装備一式は頂く」


 祈りをしてから断りを入れ、装備品を剥ぐ。完璧に自分の気持ちの中だけの問題だ。装備を剥ぎながら、かなりの確率で俺が剥がされる側であったことを自覚する。ほんとうに、たまたま運が良かっただけだろう。


 剣が良かった。

 相手が油断してくれた。

 ナスカが逃げてくれた。

 無詠唱を警戒しなかった。

 視覚だけで戦ってくれた。


 上げたらキリがない。俺は自分の実力以下のものに負けないよう、絶対に油断などしないと心に誓う。そもそも油断できるほどの実力もないのだが。


 ダガッツの装備一式

 ・ゴブリンの盾

 ・ゴブリンの剣

 ・皮の財布(金貨2枚、銀貨12枚、銅貨4枚)


 合掌し少し回復した魔力を使い『炎の玉ファイヤ・ボール』で火葬する。ここだけちょっとした広場になっており煙が合図になったのか、しばらくダガッツを見送っていると、ナスカがバームに乗り、アントとともに現れた。



 ナスカの目は真っ赤になっていた。

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