第35話 戦略会議
ダンジョン内部、ヴェルディの間。
置物のヴェルディ、ライラにエイス、マサムネにゴブリンたち。
主要メンバーが全員集まって、魔王に対する戦略会議と情報交換を行うことになった。
無駄に大きな円卓テーブルを用意して、皆が円卓を囲むように着席する。
ムダなことな気がするが、全員で立って話すのも微妙だったのでこうなった。
「じゃあ対魔王会議を行う。マサムネ、まずは魔王の基本的な情報を教えてくれ」
マサムネは腕を組みながらうなずく。
「基本的な情報か。ならば魔王の場所とダンジョンの作り、そして魔王本人の戦闘能力を語ろう」
今まで不明だった魔王の情報が判明するようだ。
マサムネが色々と魔王のことを俺達に説明し始めた。
3行にまとめるとこうだ。
1.魔王は異次元の空間で、魔王城と呼ばれる場所に住んでいる。
2.魔王城は陰気な……闇とか夜とかを連想する魔物ばかり。
3.魔王の種族はヴァンパイア。山を粉々にし、片足で大地を割る。再生能力など特殊能力もある。
典型的な面倒くさいラスボス魔王って感じだな。
なお勇者の力がなければ異次元への扉を開けない。勇者が必要とマサムネが説明した時にヴェルディが。
『我の力でも簡単に開くが?』
「…………」
マサムネを完全に黙らせた時、場の空気が一瞬で凍り付いた。
決して勇者がムダになったわけではないんだけどな。ヴェルディは一秒たりともムダにできない。
異次元への扉を開くのに時間を使わせては、魔王と戦うのに残らない。
ちなみに魔王の強さを語っている時もライラが。
「山を粉々にして片足を大地で割るんですか? 私もできます!」
「…………そうか」
マサムネ二度目の絶句。大丈夫だ、ライラは攻撃力だけで当てる手段がほぼないから……。
相手が動かないなら化け物レベルのパワーを活かせるんだがなぁ。
当たらなければどんな威力でも攻撃力ゼロなんだよ。
「魔王配下に強い奴はいるのか?」
「四天王がいる。奴らはそこらの迷宮主を凌駕する実力だと聞く」
「……スグルを凌駕していても大したことない」
マサムネは俺を可哀そうな目で見てくる。
やめろ、俺の強さが低いほうに例外なだけだ。仕方ないだろ、元々一般人なんだから。
むしろ神龍装備とはいえ前線で戦ってるのはおかしいと思う。俺は頭脳担当なんだよ。
「残念ながらスグル殿とは比べ物にならぬ強さだ。神龍装備をしていたとしてもな」
そんなマサムネに抗議するように、ライラが円卓に手を叩きつけた。
その衝撃で円卓にヒビが割れてしまう。俺達が囲んでいる円卓がひび割れるとか、不吉な未来を表しているようで嫌だ。
「そんなことはありません! 主様のずる賢さと神龍装備があれば、四天王よりも強いです!」
ライラから褒めてるのかけなしてるのか分からないフォローが入った。
本人は真剣な目をしているので、褒めているつもりなのだろう。
マサムネは俺にチラリと視線を向けて。
「……スグル殿は単体の強さはともかく、面倒なので四天王よりも相手に回したくはないな」
「お褒めいただきどうもな!」
畜生。こうなりゃあっと言わせるような作戦考えてやる。
マサムネをにらみつけながら、闘志を燃やしているとエイスが口を開いた。
「……魔王の不死魔術を斬るのに、魔法陣の貼られている部屋に行く必要がある」
「そうなのか。その部屋の場所は知ってるのか?」
エイスは俺の問いにうなずき、鞘に入ったままの剣に手を添える。
「……魔力で繋がってるから、陣の場所もわかる」
エイスが俺達のダンジョンに来た目的。魔王にかけられた不死魔術を斬ること。
それが叶いそうなところまで来ているのだ、彼女がずっと待っていた機会だ。
ルフトによると二百年ほど待っていたとも聞く。
不老不死って求められるけど、手に入れたらそれはそれで大変なんだろうな。
隣の庭の芝は青く見えると言うし。自分の持ってないものは欲しくなるんだろう。
手に入れたら実は微妙だったのもよくある話だ。
エイスの場合は望んで手に入れたのかは知らないが。
「魔王は偉そうに玉座の間に座ってるよな? 最上階の」
「知っているのか? そうだ、魔王は城最上部の玉座にいる」
知っているというかなんというか。最上階もしくは地下の最下層にラスボスは基本である。
「ここまでテンプレだと心配なのは、裏ボスが出現することだな」
「裏ボス? 何だそれは?」
「こちらの話だ」
更にマサムネは魔王城の内部構造を話していく。
基本的にどうでもいいので聞き流していたのだが。
「城の北には宝物庫がある。ここはどうでもいいな」
「よくない! 最重要だろうが!」
宝物庫を無視するバカがどこにいる!? ラスボスダンジョンの宝物庫なんて文字通り宝の山だろうが!
マサムネは俺に対してあきれるような視線を向けてくる。
「泥棒するつもりか? それはよくないと思うが」
「バカか! 城に殴り込んだ時点でよいも悪いもあるか! 奪える物は根こそぎ奪うに決まってんだろ!」
「魔王よりも魔王らしいな」
『これが我が主じゃからのう』
皆から微妙な目を向けられ、反論するように俺は勢いよく立ち上がる。
宝物庫を無視するなどあり得ないだろ! ゲームによっては最強武器が落ちてそうなところだぞ!
「いいか? 魔王城の宝物庫ともなれば、強力なアイテムも眠っている。それを取れば俺達が有利になるんだ!」
俺の言葉になお納得しないようで、マサムネは首を横に振ってため息をつく。
「相手の物を盗んで利用とは、発想がすでに卑劣な……」
「だまらっしゃい! 勝つための戦略と言ってもらおう!」
こいつやる気あるのか!? 勝つためなら手段を選ばぬくらいの気概を持てよ!
そもそも魔王城の宝物庫なんぞ漁るに決まってるだろ!
その証拠に俺の仲間たちは皆うなずいている。
「それでこそ主様です! このライラ、地獄の果てまでお供します!」
「……スグル、今回は私も鬼畜に落ちる」
『我が主らしい戦術じゃな。せこいのはいつものことよ』
ほれみろ! みな納得しているだろう!
これが日頃から積み重ねた信頼ってやつよ! このクセしかない戦力でやりくりしたのは伊達ではない!
「魔王は正々堂々を好む奴だ。俺達もそれに合わせたほうがいいのでは?」
甘っちょろいことを言いだすマサムネ。こいつは何を言ってるんだ?
「バカを言うな。正々堂々挑んでくるバカに、わざわざ正面から戦う必要ないだろ。搦め手使いまくって有利に立つぞ」
俺の言葉を聞いてゴブリン勇者たちが。
「我が主は強い。俺達も色々と教わった。勝つためには姑息な手も有効だと」
「勇者まで卑劣に染めるとは……」
マサムネが非難してくるが無視である。そもそもこいつの発想が生ぬるいのである。
勇者を探して保護するって言ってたからな。どんなことをしてでも魔王を倒す気概がないのだ。
宝物庫を荒らすのは卑怯だとか、正々堂々相手に搦め手はどうなのだとか。
俺から言わせれば勝つ気ないだろとしか。
盗賊が戦士相手に真正面から挑まないから卑怯なのかと。
「マサムネ、お前も俺の指示に従ってもらうぞ」
「できればごめん被りたいが……致し方ない。ちなみにどんな指示だ?」
「まずはその剣に毒をぬれ」
俺の言葉にマサムネは勢いよく立ち上がった。
「ごめん被る! 私にも剣士としての矜持がある!」
「だまらっしゃい! そんな矜持捨てちまえ!」
こいつは超面倒なやつだな! 最初に出会った時は強キャラ感出してたくせに!
実際は堅物じゃねーか! ライラやゴブリンたちなら笑って指示に従うぞ!
「そもそも毒を武器に塗るなんて基本だろうが!」
「それは盗賊などの卑屈な者がやることだ! 我ら誇り高いハイオーガには不要だ!」
「誇りで魔王倒せるかよ!」
俺とマサムネの激しい討論はしばらく続いたのだった。
最終的に毒はなし。互いに戦い方には不干渉ということに。
これだから正々堂々とか言ってる奴は……。
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