閑話1-5. 瑞希ちゃんのお正月
「あけましておめでとう、瑞希ちゃん」
「柚葉さん、あけましておめでとうございます」
新しい年になりました。
南森家では、元日は南御殿に集まって、新年会をすることになっています。
私も、両親とともに南御殿にやって来ました。せっかくのお正月なので、着物を着せて貰いました。柚葉さんも着物姿です。髪型はいつものように後ろで丸めて簪を挿しているのですが、今日は簪を1本ではなくて、3本挿していて、着物姿に良く似合っています。私も簪を挿せたら良かったのですけれど、生憎と髪をショートにしているので、簪使えないのです。残念です。
柚葉さんの他にも本家の人たちが既に来ていて、新年会の準備を進めていました。
「紅葉さん、真治叔父さん、新年あけましておめでとうございます」
両親が紅葉さんたちに新年の挨拶をしていたので、その後から出ていって、紅葉さんたちにご挨拶しました。
「あけましておめでとう、瑞希ちゃん。今年もよろしくね」
「はい、よろしくお願いいたします」
きちんとご挨拶ができました。
「あ、そうそう、瑞希ちゃん。これ、ライセンス証。年末に来ていたのだけど、渡せていなくてごめんなさいね」
「ありがとうございます。嬉しいです」
そうです。柚葉さんに特訓していただいたおかげで、私も12月にダンジョン探索ライセンスのA級昇格資格を得ました。それで、申請書を出していたのですが、年末ぎりぎりに、ライセンス証が届いていたようです。柚葉さんと同じA級になって、ちょっと誇らしい気分です。
「あ、それと、こっちはお年玉ね。はい、どうぞ」
「わぁ、ありがとうございます」
お年玉です。何に使いましょうか。
あー、でも、お年玉はもちろん嬉しいのですけれど、A級ライセンスが取れたのはもっと嬉しいです。なので、柚葉さんのところに見せに行きます。
「柚葉さん、私のA級ライセンス証が届きました」
「どれどれ。おお、A級だね。瑞希ちゃんも立派になったねぇ」
「えへへ」
柚葉さんに褒められると、頬が緩みます。
そんな風に喜んでいたら、恭也くんがやってきました。恭也くんは普通の洋服ですね。
「恭也くん、あけましておめでとう」
「あ、瑞希ちゃん、おめでとう。今年もよろしくね」
「はい、こちらこそよろしくです」
「瑞希ちゃん、何持っているの?」
「私のA級のライセンス証です。さきほど紅葉さんに渡していただいたのです」
「A級かぁ。凄いね。流石は、柚姉のお弟子さんって感じ?」
「ええ、柚葉さんには、色々なことを教わりました。だから、A級が取れて柚葉さんに感謝です」
「そうだね」
それから恭也くんは私の両親に挨拶に行って、私と同じようにお年玉をいただいていたみたいです。
皆と色々話をしているうちに、火、風、土の分家の人たちもやってきました。私もそれぞれの方々とお話しして、しっかりお年玉をいただきました。
そうして皆が揃ったので、会食が始まりました。御殿の畳の上に、机が並べられ、お料理のお皿が置いてあります。お刺身の船盛や、チャンプルーやホルモン焼き、テンプラ、ラフテー、から揚げ、お刺身のカルパッチョやサラダ、お寿司など美味しそうなものが並んでいます。これらは、それぞれの家で分担して作って、持ち寄っています。
まだ昼間ですが、大人たちはビールを飲んだり、泡盛を飲んだりして、早々と酔っぱらっています。私たちはもちろん、ソフトドリンクです。シークワーサージュースや、ウーロン茶などを飲んでいます。
でも、一通り食べたら、お腹いっぱいになってしまいました。
「ふぅ、瑞希ちゃん、もうお腹いっぱいだね」
「そうですね、柚葉さん。十分食べました」
大人たちは飲みながらなので、まだまだ食べたり飲んだりしてそうです。
「私たちだけで、何かしていようか」
「そうですね。お正月なので、カルタしましょうか」
「あ、うん、いいね、それで」
南森家では、お正月に皆でカルタをやる習慣があるのです。大人たちは、まだ飲み食いしていますが、それが終わって一息つくと、カルタを始める筈です。なので、カルタも準備されていますし、それで先に遊んでいれば良いでしょう。
「俺も混ぜてよ」
「いいよ、じゃあ、瑞希ちゃんと恭也が一緒にやって、私と2対1でやろう」
「え、いいけど、柚姉は大丈夫なのか?」
「たぶん、大丈夫」
私たちは、競技カルタと同じように、取り札を50枚だけ取って、良く混ぜてから25枚ずつに分けました。
それの25枚を、それぞれの前に並べます。並べ終わったら、札の場所を一所懸命覚えます。
「じゃあ、そろそろ始めよっか」
柚葉さんが、スマホを取り出して、読み上げアプリを起動しました。
『難波津(なにわず)に咲くやこの花冬ごもりー』
序歌の読み上げが始まりました。次からが、本番です。
『おほけなくー』
「はい!」
うわ、柚葉さん、早いです。私たちも負けてはいられません。
『朝ぼらけー、有明の月と見るまでに―』
「はい!」
あ、恭也くん、偉い。1枚取ってくれました。
『瀬を早みー』
「はい!」
今度は私が取りました。一字決まりは、ちゃんと場所を覚えていましたから。
取ったりお手付きをしたりを繰り返し、最初の回は、5枚差で、恭也くんと私のペアの勝ちになりました。
「うーん、二人相手ではちょっと辛かったかぁ」
その後も、ペアを変えたり、一対一でやったりと、何度かカルタの試合をやりました。総合的には、やはり柚葉さんが強いのですが、二人相手だと二人ペアの方が勝ってしまう感じでした。
「そろそろ一休みしようか」
柚葉さんが言ってきました。大人たちも飲み食いが一段落したのかデザートタイムになっているようだったので、私たちも一緒にデザートを食べました。
「柚葉さん、東京の学校は決まったのですか?」
「うん、決まったよ。希望通りのところに行けることになったの」
「なら、春の巫女と一緒の高校になるのですね?」
「そうそう」
「春の巫女って、どんな人なのですか?」
「えーと、私もこの前東京に行ったときに一度会ったっきりだから、まだ良く分かっていないのだけど、おしとやかで優しそうな人だったよ」
「手合わせはしていないのですよね?どちらが強いかとかは?」
「そうね。巫女の力を使っているのは見ていないから、強さは全然分からないかな」
流石に、会っていきなり戦ったりはしていないようです。
「仲良くなれると良いですね」
「そうだねぇ」
「それで、住む場所は決まったのですか?」
「いや、まだ。だけど、そろそろ大学受験のシーズンに入るし、その前に一度向こうに行って、家探しをしないといけないかなって両親とは話してる」
そうですか。柚葉さんの転校の準備が着々と進んでいるようで、寂しい限りです。
「柚葉さん、私も東京に一度は行ってみたいです」
「うん、チャンスがあれば、遊びに来てよ。一人くらいなら私のところに泊まれると思うし」
「そうですよね。私、チャンス見つけて行きますね。いまから楽しみです」
「じゃあ、瑞希ちゃんが来るまでに、美味しい食べもの屋さんとか、楽しい遊びスポットとか見つけておくことにするよ」
「柚葉さんは、ダンジョン巡りしているのではないかと思うのですけど」
「そうだね、そうかも知れない。そしたら、手頃なダンジョン見つけておくよ」
「何か、柚葉さんらしくて良いですね。私、いまよりもっと強くなって行きますね」
「おう、瑞希ちゃんの成長を、楽しみにしてるよ」
こうして柚葉さんと一緒にいられる時間もあと数か月しかないと思うと寂しいです。
「東京に行ったら、きっと柚葉さんなら沢山お友達できると思うのですけど、たまには様子を教えてくださいね」
「うん、瑞希ちゃんには連絡を欠かさないようにするよ」
「はい、待っています」
柚葉さん、私たちのこと忘れないでくださいね。約束ですから。
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