終歩

 瞬間、自信に満ちた勇者もどきが構えるコピー武器は吹き飛んだ。

 素早く踏み込んだ先代の斬撃で飛ばされたコピー武器を、俺の斬撃で刻む。


「聖剣と魔剣のコピーといえ、所詮は棒だな。すぐに斬れる」

「さ、トドメ! トドメ! 一瞬で済ましたるから安心しいや!」


 魔剣を大きく振りかぶり、狙いを定めている腕がかすかに震えている。そのことから先代は一撃に神経を集中させ、確実に仕留めにかかっていることがわかる。


「ま、待ってくれ! 見逃してくれ……頼む!」

「どこまでも偽物だな、お前は」


 俺の言葉に続き先代が言った。


「ほんっっま嫌い、生理的に無理や」


 震えていた腕の動きは止まり、魔剣はゆっくりと降りていく。だが、空気が斬れる音が聞こえることから、ある程度の力が加わっていることを察す。


「手加減しろよ」


 魔剣を振り落とすエリファに言うが、きっと先代は手加減はできないだろう。あんな性格だし。


「言うの遅いわ」

「みたいだな」


 勇者もどきのすぐそばの地面に亀裂が走っている。当ててはないものの、手加減はできてなかった。

 当の本人は、白目を剥いて気絶していた。理由は定かではないがあまりの力量差に絶望したのか、剣が当たったと錯覚したのか。


「こいつはもうほっといて大丈夫ちゃう? 棒切れは斬ったし」

「そうだな、ドーグを潰しに行こう」


 その場を立ち去る先代の歩幅に合わせるように、隣を歩く。足を向ける先は一択、ドーグとシズクの所。


「――おや? やはり本物には敵いませんでしか。崖から落ちて死んでればよかったのに、無駄に生き残ったから今から辛い目に遭いますよ?」


 そう言うドーグは、蒼炎に包まれていた。


「翔吾! 今近づいたらやばいぞぉ!」

「何があった? それにあいつはどうしてあんな堂々としてるんだ?」

「翔吾たちが戦ってる間、シズクが放ちまくったんだよぉ! あいつもう魔力切れ起こしちまうぞぉ」


 辺りの温度が上昇している。周りの魔力も揺らいでいる? これ聞くまでもなく絶対やばいよな。

 シズクの表情は、無表情。だけど、どこか苦しそう。無理して魔法を使ってるからか? 明らかに効いてないよな?


「翔吾さん、助けてあげて! 苦しそうだよ!」

「そうだな、先代! ドーグ頼むわ」


 言って聖剣を預ける。

 先代の力を引き出すには、きっと魔剣より聖剣が適任だろう。そして俺には魔剣が合うと思う、支配しあってるような感じだからな。


「これぞ二本持ちの特権だね! いくよ! クラウソラス!」


 真名を呼ばれ、それに応えるように姿を変えるクラウソラス。俺が使う時より輝いているように見える。


「こっちもいくぞ……って言いたいところだが、使う場面じゃないしな」


 手渡された魔剣を地面に突き刺し、ゆっくりとシズクに向かって歩き始める。

 シズクの視線の先には、ドーグと先代。きっとシズクは、自分自身で決着をつけたいなんて思ってるんだろう。


「先代! そいつから、シズクの母親の居場所聞き出してくれ」

「人質取られてる感じ? なら先言うてや!」


 ドーグから距離を取った先代は、聖剣を天高く投げ飛ばす。

 片膝をついて、天に放った聖剣を見上げ祈る先代。聖剣は落ちることなく、天に留まっている。太陽とは別の光が輝いている、あれは後光というやつか?


「ソラちゃん! 人質の救出の願いを叶えて!」

「叶えましょう。代償としてエリファの魔力を消費しますが大丈夫ですか?」

「問題なーし!!」


 ビシッと指をクラウソラスに向ける。


「先代、なにを?」

「魔力に余裕がある時じゃないとできない極秘技! 聖剣は願いを、魔剣は災いを実現させる!」


 なんだその能力は。いや、待て。魔力無くなるのはダメなんじゃ? 戦えなく……。

 いや、俺がいるから安心してるってことなのだろうか。


 ……と、何もない空間から、憔悴しきった一人の女性が現れる。頬は痩せこけ、背筋は曲がりっきっている。立つことすらままならず、ふらふらとその場を行き来している。


「大丈夫かぁ!?」

「……」


 咄嗟に駆け寄るハンツの呼びかけに、女性は答える気配がない。


「……た。どうやった! こいつをどこから連れ出した!」


 怒りをあらわにして、先代に迫り掛かるドーグ。何がこいつをここまでさせる? この人は流れ的に、シズク母だろ?


「こわっ! 豹変するやん!」

「当然だ! やつは魔王様復活に必要なんだ、だから返してもらうぞ」


 目を血走らせ、ハンツに向かって走り出すドーグ。


「シズク、正気に戻ってくれ! お母さんは助けたぞ! シズク!」

「…………」


 シズクも答える気配がない。放心状態ってやつか。どうしたら元に戻せる? 俺の言葉は届くか?


「俺に来んのかぁ! 上等だよぉ、さっきは活躍できなかったからなぁ!」


 意気込むハンツだが、リルとガンテツが守りを固めに行く。三人寄れば文殊の知恵というやつだろうか。全員平凡以上だけどな。


「どけ、端役ごときが!」


 三人を相手に全く怯むことのないドーグだが、三人も同じく怯まない。今はハンツ達に任せるべきだな。


「私……冷静じゃなかった……翔吾を、みんなを……危険な目に……」

「シズク!」


 譫言のように、悔いを漏らすシズク。無表情のその顔には、一筋の涙が流れている。俺が絶対に救う。いつも助けられてばっかりだから。


「シズク! 俺たちは気にしてないし、大丈夫だ! それに危険なことなんて慣れっこだろ」


 勇者パーティーだし、もう何度だって戦いも経験してる。危険なんて慣れた。


「仲間だっている、そんな落ち込むことなんてないぞ」


 俺の声はまだ届いていないのか、まだ悔やみ続けるシズク。どうすればいい、なにを言えばシズクに響く?


「翔吾に嫌われちゃう、短気な女だって……。まだちゃんと翔吾の気持ち知れてないし……失いたくないよ……」


 俺は馬鹿か。ダンジョンで好きって言われて、抱きしめて、満足してた。俺の気持ち伝えてないじゃないか。


 シズクはきっと、俺が気持ちを伝えてないことで悩んで、追い討ちのように母親のことを聞かされて。

 俺は崖から落ちるし、それを追いかけてマリアも。感情が壊れるのも無理ないな。


「嫌われててもいい……だから、無事でいて……翔吾」


 無表情のまま、泣き崩れたシズク。


「大丈夫、もう大丈夫だよ。嫌いじゃない。それに、無事だよ。ほら、抱きしめることができるくらいに」


 膝をついて涙をこぼすシズクに、近寄り強く抱きしめる。シズクの体がピクリと動く。


「それにキスだって」


 これはどうかと思ったけど、衝撃にはなるかなって。それに言うだろ? 真実の愛がこもったキスはお姫様を悪夢から解き放てるって


「…………翔吾!?」


 またピクリと動く体、ゆっくりと開かれた瞼から現れる瞳は俺を捉える。


「好きだよ、シズク」


 脱力されていた腕は、次第に力を増し、俺とシズクの距離はもう既に無くなっている。


「はっはっは! やることが派手だなぁ翔吾! 見たか? あんたの娘は勇者をたぶらかせる程美人に、それに優しく育ってんぞぉ。早く回復して、元気なつら見せてやんなぁ」


 ドーグの相手をすっかりリル達に任せて、ガンテツお手製の回復薬をシズク母に飲ませ続けるハンツ。あいつ面白がってやがる。こんな状況で余裕かよ。


「最近の若い子ってあんな大胆なん!?」

「いいや、彼らは特別だね」

「おい大河! 今までどこいたんだ!」


 魔力不足でヘタっているエリファの横にしれっと現れる大河。


「翔吾が魔剣使いに斬りかかった時飛ばされてた。さっきやっと戻ったんだよ! マジ焦った」

「もうなんでもいいや、こいつ倒したらたんまり報酬貰えるかな? 城が欲しいんだ」


 言う俺にハンツが。


「やっぱ城建てる気じゃねぇかぁ! 安心しろぉ。こいつを倒せば、幹部を倒した報酬プラス魔王復活阻止の報酬も貰えんだろぉ」

「よっしゃ! んじゃ二人の新居のため、ケリつけてくるわシズク」


 シズクから腕を離して、ハンツのところに行く。

 俺を真ん中に配置するようにハンツ、リル、ガンテツ、大河が並ぶ。


「シズクは母親のそばにいてやんなぁ」

「うん!」


 お母さんのところへ駆け寄るシズク。

 それを見送り、俺たちはそれぞれ武器を構える。魔剣の真名を呼び、力を最大限引き出す。


「なぁ魔剣使えるなら翔吾一人で片付くんじゃない?」

 

 いざ総力戦、の前に言った大河。どういうことだ?


「あれ? もしかして知らないの? 聖剣は願いを、魔剣は災いを実現させる。魔力を消費して願うんだよ」

「なるほど、さっき先代がやってたやつか」


 確か先代はぶん投げてたな。なら俺も投げればいいんだろうな。


『だめ……空、力出ない。地面……刺す』


 親切に語りかけてきたティルヴィー。


「ティルヴィー! ドーグを封印してくれ!」


 そういえば今更だけどこれって災いなのか? そりゃドーグにとっては災いだろうけど、俺にとっては願い叶ってるからなぁ。まあ細かいことはいいか。


「この程度の封印! いずれ解きますよ……魔王様と共に復活するのを楽しみにしていろ俗物どもが!!」


 ドーグの体がじわじわと闇に侵食され、捨て台詞を吐いて姿を完全に消す。


「雑魚の三下みてぇな捨て台詞だったなぁ」

「なぁこれで終わり? なんかあんなに意気込んだりカッコつけたりしたのにあっけなかったな」


 王に刃向かって拠点変えたりもしたけど、単に引っ越しただけじゃない? 


「小僧、これから魔族が増えることはないが、今までにいたやつはのさばり続ける」

「つまりそれを討伐するまで俺らを鍛えてくれるんだな?」


 そっぽむくガンテツ。ツンデレめ。


「とりあえずここのギルドに顔出そうぜぇ。報酬もらって城建てんだろぉ?」

「シズク、どでかいの建てよう。ダメ……かな?」

「ううん! 嬉しいよ! 大好き翔吾!」


 まだまだ前途多難だろうけど、一難は去ったかな。


「俺も大好きだよ」




――――――――




 ご愛読ありがとうございました。真白です。


 以前から読んで頂いていた方はご存知だと思うのですが、当作品は長い期間更新していませんでした。理由は単純で、真白自体が作品内容を思いつけなくなったのが原因です。今となっては、プロットを書いておけば……と後悔しています笑


 やはり未完のまま放置はダメだと感じ、強引すぎますが本話で完結とさせていただきました。


 今回の失敗を真摯に受け止め、次回作はしっかりとプロットを考え、現在公開している『魔王に転生してもうたし、ちょっくら世界征服にでも行きまっか!』では、綺麗に終われるよう善処いたします。


 まだまだ未熟ではありますが、今後とも真白よぞらの世界観をお楽しみいただければ幸いです。

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異世界で踏み出す新たな一歩 真白よぞら @siro44

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