十八歩目 料理
「威力やばくないかぁ……?」
唖然とするボスゴリが言葉をこぼす。同感だわ。
「けど、これで勝てる!」
「いいぞ、翔吾よ! その調子で挑むが良い!」
リルの声援を背に、一気に駆け込む。聖剣を右後ろに構え、左腕を斬り落とす。
長い柄の斧と共に、鮮血が滴り落ちる。
「ボスゴリ! それ使え!」
「デカ過ぎんだろぉ……だが! やるしかねえなぁ!」
ボスゴリの背より、少し大きい斧。明らかに普通の人間なら扱えないだろう。だがこいつなら。
「倒れろぉ!」
ボスゴリが地面に突き刺さった斧を引き抜き、その勢いでストーンコングの足を斬る。崩れ落ちるストーンコング。
「チビ! やれぇ!」
「じゃあな! ストーンコング!」
地を蹴り、高く飛ぶ。力が湧き、気が付けばストーンコングの頭より高い位置にいた。
首元に視線を向け、聖剣の斬撃を放つ。頭部が地面に、砂煙をたて転がり落ちる。その数秒後に体も倒れ、斧二本と結晶を残し消えていく。
「お疲れ様! 役に立てなくてごめんね」
「シズクもお疲れ、充分活躍してたよ! 最後、ボスゴリと俺に強化魔法かけてくれてただろ?」
「やっぱ、かけてくれてたよなぁ! ありがとな、助かったぜぇ!」
実際、シズクに助けられた。強化魔法が無かったら火力不足だったかもしれない。シズクに続き、リルとガンテツも後ろから近付いてくる。
「我らが出るまでもなかったようじゃのう」
「その様だな。儂らは指導に専念する方が良いかもしれんな」
これからの方針を決める二人に、話しかける。
「よろしくな。リル、ガンテツ!」
「よろしくね~! リルちゃん! ガンテツさん!」
「よろしく頼むぜぇ! リル、じいさん!」
「根をあげても知らんぞ? 小僧共」
「望む所だ!」
意気込む俺達を押しのけ、リルがウズウズとした雰囲気で口を開く。
「早く飯にせぬか?」
「そうだね! お腹ぺこぺこ!」
リルの言葉に同調するよに、シズクは手をお腹に添え、言う。そのまま、二人でてくてくと歩いていく。設営しかけのテントを、男顔負けの速度とパワーで仕上げていく。ほんとこの世界の女性は凄すぎる。
取り残された俺は、ストーンコングが装備していた斧に視線を向ける。魔物が使っていた物とは思えない程に綺麗に、手入れされた斧。
「なぁ、ボスゴリ。これお前が使えば?」
「たまたま使えただけで、常に装備するのは厳しいだろぉ」
「脳筋小僧の意見も、一理ある。聖剣程ではないが武器はある程度、所有者を選ぶ」
俺の提案に、後ろ向きな意見を発するボスゴリを見兼ねたのか、黙って話を聞いていたガンテツが横から口を挟む。
そして、言葉の意味をまだ把握しきれていない俺たちは困惑する。お構いなしで話を続けるガンテツ。
「だが、今回に限っては不可能な話ではないと思うがな」
「どういうことだぁ?」
「斧を取れ、意識を集中させろ」
ガンテツは何かを知っている。そんな様子でボスゴリを諭すように指示を出す。
指示に従い柄の長い斧を、がっしりとした右手で掴む。十秒ほど無言の空気が続いた頃、ボスゴリが零すように言葉を吐く。
「戦斧ガイア……?」
「どうした? ボスゴリ」
「ふん、選ばれた様だな」
ガンテツが言った『選ばれた』という言葉。これはどういう意味だ? 武器に選ばれたって言うのか? そんな事あるか?
「斧が話しかけてきやがった。長い柄の両刃斧、短い柄の片刃斧。こいつらの真名が何たら」
状況を把握しきれていない様子で、ボスゴリが混乱しつつも説明を続ける。両刃斧、片刃斧が二つで一組の武具。という事はなんとか理解が出来た。
そんな理解を壊すかの様に、更なる謎が俺達を襲う。
「おいボスゴリ、いつの間に斧を仕まったんだ?」
「あぁ? 何言って……まじかよ! 消えたぁ!?」
「完全に認められた様だ。やるではないか脳筋小僧」
斧が二本とも消える謎。この件も、ガンテツは知っている様だ。
「真名を聞いたんだ。その斧はもう体の一部。必要な時に具現化出来る。力の出力と同じ様なものだな」
「認められたってそういう事かぁ」
「なぁガンテツ、俺はそんな事出来ねぇんだけど認められてないのか?」
「小僧は聖剣を持つに値する器ではあるが、まだ認めるには至らないという事だろう。元勇者も真名を把握していなかった様だしな」
嘲笑する様な、挑発するような口調。どうやら発破をかけられている様だ。
「ボスゴリができた事ができねぇってのは悔しいな」
「悔しいのなら鍛錬に励む事だな」
ガンテツの言う通りだな。
「ご飯だよ~!」
そう言いながら、ザクザクと進んでくるシズク。この数分でぱぱっとシズクが作ったらしい。
リルが海で釣った魚をすり潰し作った、さかなバーグ。生臭さは無く、魚特有の香ばしい匂いが鼻を通り、食欲を刺激する。
「いただきます!」
全員にさかなバーグが行き渡り、食べ始める。フォークを入れると、ほろりと崩れ、一面に芳醇な香りが漂う。
一口頬張り、それぞれが驚愕する。
「な、なかなか、び、美味じゃの……」
「そ、そう、だな」
「美味いぜぇ……」
「個性が、で、出ていて、儂はいいと思うぞ……」
見た目からは想像がつかない程の粗悪な味。さかなバーグにかかっているソースは塩辛く、さかなバーグ自体はすごく甘い。絶対間違えたよな。
「自信作なんだ~! 特にソースが甘辛くいい感じに出来てるはず……あれ? 塩辛い!? ご、ごめん! お塩とお砂糖入れ間違えたみたい……」
「全然気にしなくていいよ。これはこれであり……かも?」
「そうだぜぇ……うまい料理はいつだって失敗から生まれるもんだぁ……」
「ありがとう……」
シズクの料理下手な一面を話題にしつつ、完食した俺達は男女に分かれ、しっかりとした作りのテントに入って、眠ることにする。
眠りについて数刻が経った頃、脳に直接声が届く。鮮明に聞き取れた訳では無かったが、『早く来い』と、そう聞こえた。激しい威圧感で胸が圧迫される。あまりの息苦しさに眠りから覚めた。
夜風にあたって気持ち切り替えるか。
テントを出て海辺まで歩く。潮の香りを乗せた柔らかな風が頬を撫でる。月光を反射させ、燦然と煌めく水面を眺めていると、夜空の下に黄昏れるシズクを見つける。そよそよと揺れる赤髪。海に反射した光に当てられた髪は、日に当てられた時と違い大人びた印象を与える。
「あれ? シズクも寝れないのか?」
「うん、寝苦しくて……」
「そっか。でもたまにはこんな時間もいいかもな」
静寂の中で流れる、二人だけの時間。少しロマンチックなのもたまにはいいよな?
シズクがこちらを振り返る。波の音を背に、シズクが口を開く。
「私、今日ほんとダメダメだ。ストーンコングの時、攻撃に参加出来たはず。ご飯の時も……美味しくなかったのに、みんなに気を遣わせちゃって」
「そんな事ないぞ。ストーンコングの時は強化魔法が無いと本当にきつかったと思うし、飯はまぁ……"味は"美味しく無かった」
笑顔で言っているものの、無理をしている様に思う。そんなシズクの後悔を聞き、全て肯定するのはシズクの為にならないと思った。だから俺は素直な意見を伝えたい。
砂浜に座り込み、俺は話を続ける。
「でも! 料理ってのは、気持ちが大事! シズクの料理は、みんなの為にって気持ちが感じれた。俺は、あれも”美味しさ"だと思うぞ」
「翔吾、ほんとに優しいね! ありがとう!」
シズクの表情が明るくなる。それを、背に映る夜景が幻想的に演出している。
「メリダさんにお料理、習おうかな~」
「いいなそれ、俺も習おうかな」
砂浜に座り、二人で会話をする。シズクが笑う時に揺れる髪が、チラリとうなじを露出させる。その光景がとても艶やかで見入ってしまう。
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