第28話 はじめてのきし
まず、会ったのは、馬久兵衛さんだった。翌日昼少し前になる。
「馬久兵衛君、ありがとう。自分の友龍一君を、今まで助けてくれた事感謝する。」
「もったいなき、お言葉に御座います。」
俺、馬久兵衛さん、親紅の3人共が、頭を下げる。こう言う所は、和風なんだよ……
「今後は、自分が、龍一君を預かる。そこで、今までの君の行動に、お礼をしたい。」
「お礼ですか。」
「これだ。」
一枚の書類を取り出す親紅。
「……これは! 『三村家御用商人免状』! 確かに、これがあれば、三村様に、直接商品をお売りする事も可能。……しかし、宜しいのでしょうか。一介の行商人ごときに。」
逆に言えば、『三村家御用商人免状』が、なければ三村家と、直接商売できない。無い者は、持ってる奴に頼む事になる。当然、仲介手数料を、ぼったくられるのが、普通だ。
「それだけ、君が龍一君に、施した意味は大きいんだよ。時に、君、鹿を扱って無いかい。父上が、好物なんだ。特に脳と肝臓がね。」
「! それでしたら、下蒸し後、武曽漬けにしたものが、御座います。」
「売って欲しい。後で、使いの者を寄こす。くれぐれも、他の者に売らないでくれたまえ。」
「ははぁーっ。」
馬久兵衛さんが、平身低頭したことで、交渉成立。俺は、トレードされた。
* * *
「龍一様、ありがとうございます。」
「どーいたしまして。こちらこそ、お世話になりました。」
トレード成立してから、最後にお別れの挨拶をした。
「龍一様、お体にお気を付けて。」
「馬久兵衛さんも、商売上手くいくとイイネ。」
こんな感じで、お別れだ。
この後、お昼にしてから、次の約束は、夕方になる。今日は、忙しい……
* * *
場所は、変わって三の丸、詰め所。
会議室みたいな部屋にいるのは、俺と今回俺がどうしても会いたい男だ。
細い……
いや、これは、鍛え上げた身体を、制服(爵都勤めの騎士団)に押し込めてるだけだ。
頭部は、前半6割くらいが、長い赤毛で、それ以外の毛髪は無い。眉毛も赤く碧眼だ。
諸事情により、親紅は部屋の外で、待機してもらっている。今回は、俺だけの為に、この場を設けてもらった。
「お初にお目にかかります。龍一殿。魔鬼文四郎重良橙爵です。」
赤毛碧眼の男……文四郎が、口を開いた。
「今日は、わざわざありがとう。どうしても聞きたい事……立ち入った事を聞きたい。君にとっては、嬉しくない事もあるかもしれない。が、聞かせて欲しい。」
「本日は、この後の予定、全てキャンセル済みです。時間は、十分にあります。」
「まず、俺の立場を、はっきりさせておきたい。そこで、これを食べて欲しい。」
ここで、取り出した陶器の小瓶を、文四郎に差し出す。いぶかしむ貌の文四郎だった。
「……! こ、これは!」
が、1つ口に入れて、よく噛みしめると、徐々に驚きへと変わっていった。
「これは、この『タニシの味噌漬け』は、間違いなく『お袋の味』。つまり、あなたは……。」
「漫画で読んだ事がある。
確か、科学解説漫画だ。
『タニシは、本水草等を食べる来益獣だが、数が増えすぎると、稲にかじりつく害獣にジョブチェンジする。よって、適度に間引く必要がある。』
だったな。間引いたタニシを、下蒸しして味噌に漬けた物が、小瓶の中身だ。」
尚も、質問しようとする文四郎を、皆まで言わせないよう、制した上で続けた。
「俺は、猪鹿村に滞在していた。そこでは、村長一家を始め村全体から、助けてもらった。だから、今度は俺から、村長一家と君に、手を差し伸べたい。いいな。」
「分かりました。」
こうして、俺は文四郎から騎士になった経緯を、聞きだした。
「確認するぞ。当時の担当者は、古里蔵人(ふるさと・くろうど)。彼が、『領主閣下の命令』と称して、君を魔鬼家の婿養子になるよう強制した。拒否すれば、騎士資格を剥奪とも。」
「はい。」
「更に、古里は、『領主閣下は体面を重視するからこの事は口外するな』とも言っていた。」
「はい。」
これだけ、聞ければ、十分だ。後は、こちらで秘密裏に、調査する事を約束し、今日の所は、お開きにした。
* * *
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