ボゾン生命体のひめゴト

QCビット

    駆け落ち

惑星フォボス、ここいらでは病院惑星として知られている星だが、異世界転移やらダンジョン攻略の際に受けた傷や毒、もしくはヘンテコな病原体やらウイルス

なんかに感染して、当該世界では直しきれない患者が運ばれてくる。病院惑星の運営は、統合次元体のコアと呼ばれるある種の量子結晶AIの集団の様な組織がたずさわり

ているが、ここの所の患者の急増と資金難もあり十分な医療体制が整っているとは言い難い状況なのだ。

そんな惑星の中でも、とりわけやばいと言われる医療地域に僕は投入された。僕ことクイはテラ種(天の川銀河の太陽系にある地球起源とする生命体)で、兄ケイは、サルベージャーで統合世界では、けっこう名の知れた紛争解決集団の一員で、あっちこっちの異世界やら異次元やらを飛び回り、難題を解決しているヒローなのだが、僕は、生命再生(ヒール)に興味を持ったばっかりに、とてつもなく地味な仕事につく事になってしまった。次元統合体で一通りのカリキュラムをこなしたあと、暫く研修医のような仕事をしてから、フォボスへの赴任が決まり、身の回りの準備をしていたころに、上司から出頭命令が来て、そこで、フォボスでの赴任場所が告げられた。

「ここは、どん詰まりの谷と言われている場所だ。いわゆる終末施設だ。現状での色々な復活、再生措置を施したが、手に負えない病状をもった生命体が収容されている場所だ。

医療施設は、一応あるが、もっぱら、自然治癒を目的とする地域で、惑星のヒールスポットとなっている。」そう言って、上司はプロジェクションを見せてくれた。

それは、僕の起源惑星でいえば、いわゆる湯治場のようなところで、近くの火山から湧き出る温泉とそれに含まれている放射線、そして惑星からの生命エネルギーが谷全体に満ちている場所だった。そんな赴任先で、少しは仕事に慣れた頃に事件は起きた。

まあ、何時の時代でもそうなのかもしれないが、男女(オスとメス)の機微は他人からは計り知れない事情がある様で、体の一部が崩壊しかかっているボゾン生命体のカップルが病院を抜け出してしまっていた。

「まあ、本人たちの自由意志だから、わしらにどうこうする権利は無いのじゃが、あやつらが完全崩壊するとなると一寸厄介なのじゃよ。一人なら、大丈夫じゃが、二人が同時に

崩壊した場合、ボゾン共鳴を引き起こす可能性が有るんじゃ。」と病院長が説明した。

「ボゾン共鳴?」

{うむ、下手な所で、ボゾン共鳴が起こると、新しい宇宙が誕生してしまうのじゃ。」

「新しい宇宙?」

「そうじゃ、ボゾンが無限共鳴すると、空間を無限に広げてしまうのじゃ、つまり、インフレーションが始まってしまうからの。」

「ええ、じゃーこの世界(統合次元体)で起こったら!」

「まあ、この世界なら、抑制システムが働き食い止められるがのう、他の所では、宇宙の中にもう一つの宇宙ができてしまうか、元の宇宙を丸呑みしてしまうかもしれないのう。」

「宇宙を丸吞みって、元の宇宙が書き換えられてしまうと言う事ですか?」

「うむ、まーそんな所じゃのう。」

僕が知っている、ボゾン生命体は兄と一緒に働いているサルベージャー(この世界の正義に味方)のアイだが、この病院にきて、他のボゾン生命体が居る事知ったのだが、

「もともと、ボゾン生命体は、めったにペアーを組まんのうじゃが、たまたま波長でも合ってしまったのか、あやつらは、どうも時々他の場所で密会をしていたらしいのう。」

「密会?」

「あやつらの密会は少々激しくてのう。特別な空間を作り出して燃え上がるんじゃ。それは一兆℃にもなるので、こんな所でやられたら大迷惑なのじゃが、それを知っておるから

どこか、迷惑のかからぬ所へでも行っておったんじゃろうが。次元の硲あたりかのう。」

「駆け落ち先もそんな所ですかね?」

「ふむ、そうであればまあ一安心なんじゃが、もしかしたら、故郷に帰ったかもしれないのが気がかりじゃのう。」

「それでは、僕の兄の仲間のボゾン生命体に聞いてみましょうか?たしか、老師(病院長)もブラックイーグルの騒動の時にお会いしてると思いますが。」

「ほー、確かアイと言った生命体かな?」

「ええ、あの時は、アバターの体でしたが。」

老師はカルテの様な、書類を映し出すと

「ボゾン生命体の故郷は、天の川銀河の硬直円盤の中じゃがな、まあ、色々ないきさつがあって、今は出入り禁止になっておるでな。今回の様な事を心配してじゃろうが。」

「ええ、銀河の中心で大爆発でも起こしたら大変な事になりますよ。」

「大変で済めばいいが、我々の母宇宙が無くなってしうまうかもしれんのう。」と例によって事も無さげに喋る老師だが、ばくはそれを聞いて慌てて兄に連絡を入れた。

アイからの情報だと、二人はウグナシア星系に向かっているらしいとの返事がかってきたので、老師に伝えると

「ウグナシア星系か・・・・これは、心中する気だな、うむ、困ったものじゃのう。」

「ええ、心中て、ウグナシア星系には、何があるんですか?」

「巨大ブラックホールじゃよ。そこにみを投げるつもりの様じゃ。まあ、銀河の中心で大爆発されるよりましかもしれないがのう。」

「そこまで、思い詰めちゃったのは、どうしてですか?」

「ふむ。」と言って老師は、映像を見せた。

「もともと、ボゾン生命体と言うのは、マスター波動と言うものを持っていての。」と言いながら示した映像には、綺麗な波形が示されていた。

「彼らの、波形がこれじゃよ。波形にノイズが有るじゃろう。」と示したものには、無数の棘のようなスパイクノイズが乗っていた。

「このノイズのせいで、本来、マスター波動を元に生成されるボゾン粒子にエラーが出てな、体の一部が崩壊しかかっているのじゃよ。」

「このノイズを除去できないんですか?」

「うんむ、色々試したんじゃがのう。今の所効果的は治療法が無いのう。」二人の暫くの沈黙の後

「その二人がブラックホールに身投げしたらどうなっちゃいますか?」

「ウム、これも前代未聞の事じゃが、ピコ(医療AI)を通して、統合次元体のAIに影響を推測してもらっておるがの。最悪、ウグナシア星系に巨大な穴が開くじゃろうて。その穴がどんな影響を及ぼすかまだわかんのう。」

ぼくは、老師から二人のカルテデータを貰い、これまでの治療の経緯を見ていた。

「このデジタル治療とは、どう言うモノですか?」

「まあ、ノイズ除去の一つでの、波形を一度デジタル情報に変換して、メイン波形とノイズを分離するものじゃが、波形の情報量が巨大すぎて、今ある量子結晶では処理出来なかっタンじゃ。」

「何かの治療の手段が見つかれば、心中を考え直してもらえますかね?」

「そうじゃなのう。何か当てでもあるのかな。」

「ええ、試してみないと分かりませんが、要はノイズ除去ですよね。老師の治療は、一種のデジタルフィルターでノイズを除去するやり方だと思いますが、それはある意味ハイテクなやり方なので、僕のやり方は逆にローテクなやりかです。」と言って、基本的な電子回路の映像を出してから

「起源惑星(地球)の大昔の技術ですが、惑星中を電波で覆い、その電波に必要な情報を載せて伝えていた時代がありました。その情報を得るためには、受信機が必要で一緒のローパスフィルタ、つまり高周波の電波から音声信号を取り出すやりかですが、それに使っていたのがダイオードと言うある種の鉱石なんですが、電波がこの鉱石を通ると高周波成分を除去できるんです。つまり、高周波に対しては、無限大の抵抗となるためですが、特にスパイクノイズの様なものにはかなり有効でした。」

「ふむ。じゃが、その大昔のダイオードやらは手にはいるのかな。ある意味古代技術の様にも思えるのじゃが。」

「はい、ダイオードはないですね、作ろうと思えば作れますが、要はそれと同じ性質をもつ物を使えばいいかと、ダイオードは本質的には鉱石ですので、ここにはドロドロに溶けた

鉱石が沢山ありますし、電気情報を通しそうな川もありますので。」

「ふむ、火山と温泉の川を使うというのじゃな。なるほど、面白そうじゃな。早速ためしてみようではないか。」

ぼくらは、ピコに頼んで、川の成分と電気特性、火山の溶岩の鉱物特性を調査してもらった。老師の治療法を試したとき時は、電力換算で1.2ギガワット(これは、小型原子炉並みの出力)ほどのエネルギーが流れるとの事だったので、ピコにシュミレーションをしてもらい、この谷にどれ程ダメージがでるか確認したが、ほとんど問題の無い範囲だった。

「さて、駆け落ちカップルを連れ戻しにいかねばならないのう。」と老師が言ったので

「今、アイが説得中です。」と僕が答えると、

「ほうー、なかなか手回しが良いのう。」と老師が嬉しそうに答えた。

アイによる説得が功を奏したのか、二つのボゾン生命体が病院へ戻って来たので、さっそく新しい治療法を試すことになった。ラプラスの導体球の様な物をつくり、ボゾン生命体を収納した。導体球を川に接続してから、老師が最初に試みたデジタルフィルタ方式のプロトコルにより、ボゾン生命体達をマスター波動に戻し、川に導通させた。途端に川が光りだしたかと思うと、火山の火口から、二つの色を持った光が、絡み合う蛇の様に立ち上り上空で一体の球となった。

この様子を見ていたアイが

「あれぇー、妊娠してるわ!」と言ったので

「えー。妊娠?」

「うん、赤ちゃんが出来たのよ。二人のマスター波動がコヒレンートして、完全にマッチングしたのよ。」

「うむ、其れじゃ、これからどうなるんですか?」

「そうね、お互いのマスター波動の合成波動が、赤ちゃんのマスター波動になるの。しばらくは、親と一緒に過ごしなら、そのマスター波動から自分の体を作って成長していくのよ。」

「と言うことは、治療が成功したんですね。」

「そう、ボゾン生命体は100年に一度ぐらいしか子供が出来ないし、完全な健康体でないと子供が作れないのよ。でも、私も初めて見たわ!セックスシーンを!」

「はあ、セックスシーン?」

「ヒューマノイドだって、セックスしなきゃ子供は出来ないでしょ?」

「ええー・・・て事は、公衆の目前でする行為ではないと言う事ですか。」

「そうだわね、普通は、誰にも探知されない、暗黒星雲の中とかでするらしいけど、私もよく知らないのよ。」とアイが恥ずかしそうに説明してくれた。

ともかく、めでたい副産物があったにせよ、治療が成功した事で、後の話となるが、この地はボゾン生命体の救世地の様な場所になり同時に、子宝に恵まれる場所として栄える事に

成って行くのである。

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