第13話 7月7日 水曜日 朝
もう5日連続で雨が降ったり止んだりしていて、少々頭が痛かった。商談スペースの周りを掃いたり電話を固く絞った雑巾で拭いたりして気を紛らわせていると、鼻歌を歌いながらドンさんが入って来た。理由を尋ねる述希にまだねとだけ答え、白板の赤居の欄に11頃帰社とだけ書いた。珍しい。鼻歌の理由だろうか?
朝礼が始まった。挨拶直後ラスさんが
「今夜は七夕ですが、もう願いが叶いました」
と、言った。述希以外が一斉に拍手し出した。
「レッド君、一回で合格です!」
ドンさんが誇らしげに叫んで、やっと述希にも事態が飲み込めた。慌てて拍手に加わる。
「俺、楽になるぜ」
クシさんのつぶやきにポッポさんがすかさず
「クシさん、塗装覚えるそうです」
と、言うと一段と拍手の音が大きくなる
「塗装覚えるそう…洒落かい!」
マッチさんのツッコミに笑いが起こり、拍手が止まった。
レッドさんは5月頭から板金の講習を受け、昨日午後受けた技能検定に合格したらしい。遅刻するのは、検定を主催した団体の事務所に寄って合格証書を受け取るからだそうだ。
講習は開成で行われていた。だから、レッドさんとは宴会まで会わなかったんだなと分かった。あの性格だとそれが一番しっくりきたかもと心の中で笑った。
雨が上がったから今の内にと、ポッポさんに頼まれ開成へ。今日運ぶのはローレルだ。
金太郎が描かれた看板手前の信号で止まっていると虹が出た。述希がいる位置からは、金太郎が虹を担いでいる様に見える!ふと、今事務所の壁に合格証書が掛かったと思った。
工場に着きフィジーさんに虹の話をすると
「良かったですね。いいことありますよ」
にこにこしながらミラを指した。鏡みたいに磨かれている。乗り込んで窓を開けて、外も中もピカピカだと褒めたら照れて手を振った。
事務所に戻ったら、やはり合格証書は額に入れられ掛かっていた。レッドさんに
「おめでとうございます」
と、言うと
「検定と同じ内容を講習でやったから」
赤くなって答えた。名前通りの顔になっていると思ったが、からかうのはやめた。
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