4

監禁生活一日目。

言い方に語弊はあるけど、気にしない気にしない。


今頃みんながどうしているのか、この完全防音の檻の中にいる以上は把握することができない。オスカーは多分、しばらく暴れてそうだなぁ。

「・・・。」

強く打った腰をおさえつつ立ち上がり、もう一度じっくりと檻の中を物色する。他に用事もないし。しかし、見事にトイレ以外は何もない・・・。

「ん?」

壁に小さな穴がいくつも密集している箇所があった。

「なんだろ、これ・・・おーい!」

もしかしたら、隣の壁に声が通ずるかと思って呼びかけてみたが、返事はない。穴が何を意味するかは知らないが、不明なままで終わった。

「はぁ・・・。」

ため息しか出ない。ここ最近いろんなことが一度にありすぎて、疲れがすぐに取れない。

固い床に仰向けで寝転ぶ。無機質な天井に小さな電球がぽつり。こんなところに、パンドラの先祖とやらは閉じ込められていたのかなぁ。・・・そのかつて閉じ込められていた側に、こんな目に遭わされるなんて。

パンドラの事は信じている。アマリリアと違い、スージー達と協力してくれているし、自ら体を張ったりもしている。待てよ?こうなることもスージーやマシューは知っていたのか?考えるより、聞いた方が早い。頭を空っぽにしよう。でないとおちおち休めない。次みんなが集まれるのを待ち遠しく思いながら。


「ピンポンパンポーン。リュドミール君、聖音、起きてるー?」

えっ!?

俺はいつの間にか、寝ていたようだ。そりゃもう夢も見ないほど爆睡といった感じで。そんなところに、どこからともなく、直接名前を呼ぶパンドラの声が部屋に響き渡って、それでやっと起きたぐらい。この聞こえ方は外から直接話しかけられているものではない。

「あ、ちょっと待って。そっちからは聞こえないんだった・・・。」

どこから声が!?と探っていると外から光が差し込んだ。壁が動いたのだ。そこにいたのは、出会った時の服に着替えていたパンドラで、手には鍵を何個か持っていた。

「リュドミール君は起きてるね。あとは聖音かぁ、さすがに起こすか。」

「待って!!」

やっと会えたから呼び止めたのに、なんて言葉をかけて良いかわからない。

「みんなは・・・。」

すると隣の檻の目の前で立ち止まり。

「もうみんなシャワー浴びたあとだよ。君と聖音は起こしても起きないぐらい爆睡してたから、放置しちゃった。」

あっそう・・・。としか言えなかった。

多分、みんなは無事なんだろう。そう信じよう。それと、聖音はやはり俺の隣の檻にいた。

「起きてるー?」

呼びかけると。

「今起きたよ。」

と呑気な声が返ってきた。そして俺に対してしたのと似たような説明の後、聖音のいる檻の鍵を開けた。出てきたのはいつもの調子の、至って変わった様子のない聖音だった。

「えー、ついて行かなきゃダメ?」

「一応。やだなぁ、僕は外で待ってるだけだから。」

ついて行かなくてはいけないのは不服だが、まあ、そこまで監視されたらたまったもんじゃない。

「みんなはどうしてた?」

「特に問題ないよ。オスカーて奴とスージーにはボロクソ言われたけどね。」

聖音の質問に返した時の声は疲れ切ったもので弱々しかった。とうとう、奴呼ばわりしてしまったし。

「スージー達にはこの事は話してなかったんだな。」

同時に明らかになった。スージーも聞いていれば渋々ながらも黙って従うはず。

「そりゃあ話しておきたかったけど、話してこんな事、協力してくれると思う?・・・悪いとは思ってるよ。でも仕方ないんだ。」

そうだな。まず反対しそうだ。仲間を裏切る、強硬手段に出たみたい。

「なあ、お前を信じていいんだよな?」

今聞いていいかわからないが、俺の中のモヤモヤを少しでも拭いたかった。・・・ん?なんかデジャヴな気がしなくもない。

「信じるなら、僕を信じてほしいなぁ。なんて・・・。え?」

ちょうどシャワー室の前の、着替え室とやらの前にたどり着く。女性用と男性用とわかれている、が。なぜか聖音は俺の隣に並んでいる。

「聖音、女性用はあっちだよ?」

パンドラが女性用の方を指差すと、聖音はなにを急に、俺の腕と組んで、潤んだ瞳をさらに上目遣いで乞うのだった。

「一緒がいいの・・・。」

一瞬頭が真っ白になる。しかしパンドラは容赦ない。

「えーっ!?二人ってそんな仲だったの!?」

小声のくせにやかましい。手で口元を押さえる仕草もわざとらしい。

「アホか!!俺もびっくりだっつーの!!」

同じく小声で反論する。こんなところで騒いでは何事かと他のみんなに思われても嫌だし。

「え・・・えーっと、そこらへんについては僕、反対とかしないけど・・・責任は当社は一切負い兼ねますので・・・。」

なんだそれ、ふざけてるのか?

「何言ってんだお前。」

「どうぞ、ごゆっくり・・・。檻は別々だからね!」

「うるさいうるさい!!」

何を考えての注意だ、それは!

「わあっ!!」

ツッコミが脳内と言葉で分裂してしまうほど焦っているとそんなのお構いなしに聖音は腕を掴んで、引っ張って、男性用の着替え室へと無理やり連れていった。棚の隣の隙間の壁際にいたのが最後、頭上の位置に強い衝撃と音と共に叩きつけられる手。身長差があるので見上げると、かつてないほど真剣な表情の聖音が目の前にいた。

これはどういう状況だ・・・?

体を直接おさえられているわけでもないのに、動けない。

視線の位置だって困る。だって・・・。

「ねえリュドミール君。」

声も、さっきとはうって変わって冷淡とさえ思えるほど落ち着いた声。まるで別人だった。何が起きるんだ?


「単刀直入に言うね。リュドミール君、夢の中でヘルベチカって女の子と出会ったことある?」

・・・ん?

情けないけど全く違う状況を頭の中に浮かべていただけに、思考が追いつかなかった。

「え、な、なに?」

「あるの?ないの?あるんでしょ答えてよ。」

もう一つの返事以外許してくれなさそうにないほどの威圧がある。隠しても仕方ない。話すことにしよう。

「あ、ああ・・・あるよ。あるけど、それがどうした?」

すると、聖音の様子は元に戻り、壁についていた手も離し、距離自体をとった。息が詰まる感覚から解き放たれてほっと一息だ。

「そうなんだ。実は、私もなの・・・。」

どうやら、姿を現していたのは俺の夢にだけではなかった。どのようなやりとりだったのか気になる。

「不思議な夢だなって思ったけど、おかしなことがあって。夢であの子からもらったものが、起きてもそばにあったの。ありえないよね。信じてくれる?」

滑稽なことを言う自分を自虐めいて笑って見みせる。何もなければ、ここで真っ当なツッコミを入れるかフォローするかのどっちかだが、夢が現実に干渉した、なんてそれこそ「ありえない」現象が俺にも起こったから、他人事でもないのだ。

「俺もだ!俺も、セドリックを撃ったアレ、実はヘルベチカから貰ったものなんだ。魔物にのみ効果があるっていう・・・。」

とにかく自分も誰かに信じてもらいたかったから、ちゃんと聞いてほしいのに、焦ってつい言葉が早口になる。

「そうなんだ・・・。リュドミール君は、セドリック君を撃つんじゃなくて、効果を活かして後ろのあいつを撃とうとしたんだよね。」

そう言って微笑んだあと。

「最初はびっくりしちゃったけど、誰よりも誰かを助けるために頑張ってるリュドミール君だから、何かあるって考えてたんだよ。」

そうだろうか・・・。少なくとも、聖音にはそういう風に見えていた。

「あっ、そうそう。チカちゃんがね、私に・・・「リュドミール君が魔法陣の書いてあった紙を持っているはずだからそれを貰ってきて」て言ったんだけど・・・そうなの?」

本当に俺たちのこと、見ているんだなぁ。なんて心で呟きつつ、便利な帽子の中から取り出した。「切り取って持ち歩く」、あの時の判断は正しかった気がした。

「これ・・・。」

聖音は紙切れを手に取ると、「うーん」と唸りながら、寄り目で凝視する。

「・・・これが何を意味するかわからないけど、とりあえず貰ってきてって言われたから・・・貰っていい?」

少しの間見つめただけでどっと疲れたような聖音。

「ヘルベチカがそういうなら、何か意味があるんだと思う。いいよ、あげる。」

服のポケットに折りたたんでしまい込む。ポケットのある服が、羨ましい。

「ありがと。・・・・・・え?なに?」

特に話すことがなくなって、黙っていただけなのだが。そういや、今はシャワーの時間で呼ばれたのだった。同じ空間で男女二人、ということは・・・。

「は、話したかっただけだし!いい、一緒って一緒・・・無理ー!!」

急に我に帰った、自分がした行為を思い出したというか、顔を瞬時に真っ赤にして慌てて出ていってしまった。

「・・・・・・。」

うん。まあ。別に、何も期待してなかったけど。それよりさっさとシャワー浴びて寝よう。起きたばかりですぐに寝れるとは思えないが、戻ったところでやることもないし。電気をつけると中はタイルで囲まれた、リラックスできそうな雰囲気のシャワー室だったが残念ながら浴槽はない。タオルはある代わり、シャンプーなどもない。洗えるだけで十分と言い聞かせながら蛇口をひねる。確かに、お湯はちゃんと出た。

「・・・さっき俺が寝ている間に聖音のところに現れたのか?それとも、パンドラ達が突っ込んでくる前にも寝てたみたいだから、その時か?」

考えていることがつい口から全部漏れてしまった。誰も聞いていないからいちいち気にしなくて済むので良かった。

「何者なんだ・・・?」

その問いは、ここにはいないヘルベチカに向けてのものだった。しかし、今はそこに聖音が加わりそうでもあった。この世界に来る前は、客としての聖音しか知らなかった。オスカー同様、いつもより長い時間接してみると知らない一面が見えたりするもんなんだなぁ。さっきも、少しだけ、怖かったし。着替え室には、入る前にはなかったカゴが置いてあり、「着替え」と大きな字で書かれた紙が貼ってあった。脱いだ服は棚に入ったままなのを確認し、カゴの中を見ると無地のパジャマがあった。まさか、用意してくれたのか?

「サイズもぴったりとは・・・。」

着心地もいい。一応、それなりに用意はしてくれるんだなと感心する。着替え室を出ると、扉の横で待っていたパンドラが哀れみの目を向けてくる。

「どんまい。・・・聖音って子、ちょっと変わってるね?」

余計な気遣いはいらないけども。

「俺もそう思う・・・。」

ちょっと、というか、だいぶ。連れ込まれた時はわりと大変だったんだからな、色々な意味で。聖音が後から出てくる。なぜか服を着ているのに大きなタオルで全身にまとっていたが特に気にせず、パンドラに連れられて檻へと再び収容された。

「なんだこれ。」

中に、紙コップと歯ブラシとペットボトルの水があった。檻の中にいる分にはまるで罪人の気分だったが、パンドラ自身は親切心で色々と用意してくれるので、贅沢は言わないでおこう、これにもきっと何かわけがあるんだと思い込んで、簡素な歯磨きを終えてから意識が眠りに落ちるまでひたすらぼーっとした。


監禁生活二日目。

今日はちゃんと起きていたのでシャワーのお知らせに一回で応じることができた。

「リュドミール君!!」

ジェニファー、ハーヴェイが駆け寄ってくる。見た感じ、変わった様子はなくて一安心だ。

「久しぶり。」

「久しぶりって、数時間会ってないだけだろ。」

たわいない会話の途中だ、いきなりオスカーが横から割り込んできてすごい形相で俺の胸ぐらを掴んだ。

「テメェなめてっとブチ殺すぞッ!!」

「は、はぁあ!?」

あまりに突然すぎて反論の声も出ない。しかし、すぐに舌打ちと共に乱暴に突き放して一人先にシャワー室に向かった。

「な、なんなの?ビックリしたじゃない。」

「禁断症状じゃない?いろいろたまってるしね。」

ハーヴェイが止めなかったのは、今のが本気の怒りではなかったことに気付いていたからなのだろうか。にしても。

「人に当たるのは勘弁してほしいんだが。」

見えなくなった背中にそうぼやいたあとだった。

「ね、ねえ!聖音と一緒にシャワー浴びたって本当?」

ジェニファーからとんでもない質問された。どこからその誤った情報網が!?

「いや・・・。」

「本当!?」

自分は何も悪くないのに誰かに罪を被せられてそれを責め立てられている気分になってくる。ノーと、言いたいんだけど、ていうかなんでそんな青ざめた悲愴感漂う顔で詰め寄ってくるんだ!?

「何かあった奴の顔に見える?」

ハーヴェイが遠巻きにフォローする。やましいことは何一つない。だから今の俺はきっと冷や汗一つで済んでいる。

ふと横目でパンドラの方を睨んだ。このことを知っているのは俺と聖音とコイツだけ。

「僕はなにも喋ってないってば!」

勢いよく首を横に振る。

「だってあとは男女二人って・・・なにも起きないわけないよね?」

ハーヴェイはまた助けてくれると思ったら今度はそうじゃなかった。もう、強く言い返す気もなくなる。

「なにも起きなかったんだけどなぁ。」

どうにでもなれという気持ちだ。そこに・・・。

「あーみんなぁ、大丈夫?」

心配しているのかどうかわからない間延びした様子で背後から現れる。ジェニファー、ハーヴェイの視線が一気に俺の頭上に集まった。

「ん?私の顔にトゲがついてる?」

「トゲがついてたらやばいでしょ。」

至極真っ当なツッコミ。お互い、何事もない様子を見てハーヴェイもいじるのを諦め、ジェニファーもだんだんと落ち着きを取り戻していった。

「リュドミール君、聖音さん、調子はどう?」

続いてマシューとスージーが現れる。スージーは寝起きなのか、目がちゃんと開いてないし猫背気味で腕がだらんと下がっている。

「なんとかかんとか。」

「体の疲れは取れたかな。」

昨日別れたばかりだが、納得いかないまま隔離されたので、とりあえずみんなのいつもの顔が見られてほっとした。

「みんな集まったね。それだけでホッとするなんて。」

「ほんとほんと・・・。」

たわいのない会話をしていたが、スージーが一人苛立ちをあらわにした表情で詰め寄る。

「ねえ、一体いつまでこんな事続けんのよ。」

和気藹々とした空気が一変した。お構いなく続ける。

「ガキンチョ共はいいけど、アタシは仕事があんのよ!?ここ、電波繋がんないから連絡もとれないじゃない!!」

「職場には僕が話をしておいたから一週間ぐらい大丈夫だよ。」

パンドラは即答した。彼女の威圧に全く動じず、余裕すら見て取れる。

「・・・え?マジ?・・・いやいやいや、こっわ。えっ?ほんとに・・・?」

引きつってる。ドン引きといった具合で言葉を失ったスージーはマシューに後ろに引き戻された。大人の事情はよくわからないが、他人の職場にそんな頼み、通じるんだ・・・。

「それより、一週間って・・・?まさかそんな長い間私たちはここで過ごさなきゃいけないわけ!?」

今度はジェニファーが責め始めた。でも、こればかりはみんなが感じている不満だろう。いくら生活に必要なものを揃えてくれるからといって、そういう問題じゃない。一週間もろくに何もできないまま、無駄に過ごせというのか!?

「長く見積もって一週間。大丈夫、なるべく早く出してあげるからね。」

だから、そうじゃなくてー・・・。

「・・・パンドラ君、あなたは何をしようとしているの?」

聖音が軽い質問を投げる感覚でたずねた。

「・・・・・・みんなを助けるためにいろいろな準備をしているんだよ。その間、君たちを危険な目に合わせないために安全な所に避難させているのさ。」

やれやれと首を横に振る。

「だーかーら、外へは出るのはダメ。許可しないから。少しの間の辛抱だから、我慢して。」

その声色には疲労が混じっていた。「何度も言わせるな」、声には出さない言葉を感じる。

「ここらへん魔物がいないなら、ちょっとぐらい外へ出てもいいんじゃない?」

そこにハーヴェイからの質問だ。

「・・・・・・。」

黙り込む。ただ、パンドラは小さい目を丸く開いたあと視線はしばらく泳いでいた。

「何もないよ?魔物もいないけど、ここらへんは。そんな所うろついても仕方ないじゃん。」

パンドラのいう事はごもっともでもある。何か手探りになりそうな場所に出ると、そこからは魔物がいつどこかに潜んでいる。

「ほしいものや足りないものがあったら、僕が用意できる範囲で持ってくるから、言ってね!」

ダメだ。パンドラには何を言っても通じそうにない。いい感じに論破されそうだ。埒があかない、時間だけすぎる。シャワーをさっさと浴びよう。


監禁生活三日目


今日は特に、いつも見る感じの夢を見た。朝、昼、晩とご飯が配られる。・・・これはこの世界では当たり前なのか知らないが、朝食にアイス二個という発想は全くなくて目を白黒させた。しかも一つはチョコミント。なんともまあ、未知の扉を開いた。嫌いではないが、暑い時にいただきたいものだ。ここは少し肌寒い。

「ピンポンパンポーン。今日はみなさんにーえー、僕から頼みたいことがありまーす。」

またも檻の中に声が響き渡る。あれから檻をくまなく探し回ってみたが、あの小さな穴から聞こえた。無線放送みたいなものでどこかで話しているんだろう。別に直接外で話しかけてくれたらいいのに。それと、頼みたい事ってなんだろう。

「今から一人ずつ、檻から出します。詳しい内容は、その時に話すのでご安心ください。」

檻から出すって・・・。

少し腑に落ちないけど、従うしかないので大人しく待った。足音が近づき、壁が動く。

「俺が一番?」

「だって一番近いじゃん。」

パンドラの後をついていく。連れて行かれたのは、ここに来た時に最初に見た、会議室みたいな部屋。その奥に扉がある。「関係者以外立ち入り禁止」とプレートがかけてあったが、今は誰も利用していないのなら意味がない。その、かつて目的があって使われていただろう部屋に入る。暗くてよく見えない。足音どころか息遣いまで聞こえるほど静か。自分の呼吸音がここまで不安を煽るなんてあるだろうか。

「何をするんだ?」

「詳しい内容はって言ったけど、まあ何もしなくていいし、何も考えなくていいよ。」

いやいや、説明してくれないと怖いって!

「ここで待っててね。」

「・・・。」

ひたすら待つのも怖いが、うかつに動くのもよくない。従うしかないのだ。多分、嫌な事はしないと思う。嫌な事・・・例えば、なんだろう。そんなのされる覚えは何もないし、思いつかない。

「・・・あれ?」

急に目眩がした。しかも強い目眩だ。視界がぐるりと回る。おかしい、と思ったすぐに目の前が本当に真っ暗になって、頭がぼーっとして・・・。


ーーー・・・


「・・・!!」

目眩がしてその後、突然意識を失った。感覚的には短い時間だった。でも、時間の感覚もここではとても曖昧なので、実は感じていたよりもっと長い時間気絶していたのかもしれない。

「く・・・ない・・・んで?初めて・・・こんなの・・・。」

遠くで声がする。ぼやけていた視界がだんだんクリアになって、見えてきたのはこっちに背中を向けて椅子に座っているパンドラの姿だった。

「うぅ・・・。」

名前を呼びたかったのに、口から出たのは寝ぼけたような呻き声だ。でも大きな耳にはしっかり届いたようだ、

「ひゃあ!!びび、びっくりしたぁ。」

驚かせるつもりはなかった。

「なんだか急に、意識が・・・。」

「大丈夫?立てる?」

椅子から飛び降り、早歩きで駆けつけてくれる。大きな腕に支えられて、なんとか立ち上がった。

「うーん、リュドミール君。まだ疲れが十分取れてないのかもしれないね。ま、それはそれとして、終わりだよ。お疲れ様。」

「えっ?えっ・・・。」

気絶している間に終わった、だと?

・・・・・・。

咄嗟に自分の体を触ったり、服の中からのぞいたりする。別にパンドラを疑っているわけではないが何もしていないのに終わったって、体が嫌な予感を訴えてざわついたんだから仕方がない。

「やだなぁ、何もしてないよ!」

「・・・。」

自分が確認できる限り、異変はない。

本当になんだったんだ?

「さ、戻るよ。・・・ついていくよ?だって次の人を連れてこなくちゃいけないからね。」

きっと俺は用済みなので檻に閉じ込められる。次は順番でいうなら聖音。他のみんなはどうなのか、俺は何をされたのか確かめるためについていきたいが・・・。今日のシャワーの時間にでも聞くか。


そして、シャワーの時間。みんなと今日のことで話題になったが、全員が俺と同じ、気を失っている間に事が終わったそうな。

「僕は呼ばれませんでした。」

「アタシもよ。」

マシューとスージーは呼ばれなかったと言う。人間だけが連れて行かれたのに、意味があるのか?パンドラの方を見る。何事もなかったように、入り口の近くの壁に突っ立っていた。

「ねえパンドラ君、お願いがあるんだけど。」

聖音が手をあげる。あげる必要はない。

「なに?」

「シャワー以外に、みんなが集まれる時間が欲しいの。だって、みんなで話す時間がないって・・・。」

みんなの視線が聖音に集まる。若干の期待の眼差しで。

「外でへ出たいわけじゃないの。時間制限を設けてもらっていい、だから・・・。」

すると、腕を組んで数秒ほど悩んだ後。

「それもそうだね・・・よし、1時間の話し合いを二回に分けて設定しよう。」

数人はどこか納得いっていない様子だが、外に出られない限り不満は続くだろう。他のみんな、ジェニファーと聖音とマシューは大いに喜んでいた。ハーヴェイも反応は薄いものの表情が緩んでいるように見える。

「ありがとう!!」

女の子に笑顔でお礼を言われてパンドラも悪い気はしないようで、聖音の提案のおかげもあり雰囲気が明るくなってよかった。

「えへへ・・・。あ、お菓子持ってるの忘れてた。好きなだけ持っていって。」

腹部から例の力で、次々と市販のお菓子が出てくる。お前の腹は冷蔵庫か。

「アマリリアの家から拝借しました☆お菓子だけじゃなく食べ物もね。あんな金持ちの家にレトルト食品がたくさんあるだなんて、意外な一面だね。」

あっ・・・。

見たことあるぞ、これ。

マシューが俺たちのために持ってきてくれたものだ。アマリリアの家を出ていったもんだから結局あそこに残したままになると思っていたが、あの騒動の中ちゃっかり盗んだのか。

「めぐりめぐって、かえってきたって感じね。」

「そうですね・・・無駄にならなくてよかったです。」

みんながさらに大喜びする中、スージーとマシューは真顔でお互いの顔を見ていた。




監禁生活四日目、五日目。

特に何もなし。退屈で仕方ない、何か娯楽が欲しいというハーヴェイの希望に応じてパンドラがパズルと、漫画と、知恵の輪を用意してくれた。漫画はハーヴェイとオスカーにソッコーでとられたから俺は仕方なく知恵の輪を選んだ。しかし、これがなかなか解けなくて、意外と時間を消費した。結局解けず、ふて寝・・・諦めて寝ることにした。

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