第37話 襲撃

 警鐘が鳴り響く。

 兵士の叫び声が響き渡る。

「エルフの襲撃だ!」

 シーウェを追ってやって来たのだろうか。

 傷ついた彼女に対して俺に出来ることはもう無い。


 テントを出ると目の前にエルフが居た。

 エルフはこちらに気づき弓を構える。

「裏切り者の首さえ持って帰れば良い。

渡してくれればここは引く」

「断る。

俺のところに来た客人だ」


 牽制だったのか放たれた矢が地面に刺さる。

 狙われていたら避けるまもなかっただろう。

 直ぐに杖を構え魔法の準備をする。

「水よ泡となり守る壁となり攻撃を阻め!」

 周囲にシャポン玉みたいなのがふわふわと浮かび上がる。

 エルフは更に矢を放つがそれに当たり矢が弾かれ地面に落ちた。


 攻防一体というわけには行かないよな。

 俺は杖を振り回し水弾を放った。


 それに合わせるようにエルフは魔法を放つ。


 俺の水弾はシャボン玉で弾かれ軌道が複雑で予測は不可能だった。

 エルフの後頭部に直撃したおれる。

 死んでないような……。

 

 水弾は加減が出来るがそれでも当たりどころが悪いと致命傷になる。


 矢が飛んでくる。

 まだ他にも居るのか。


 ラーレッケが背後から言う。

「ユウキ君、奴らの狙いは魔導鎧よ。

早く行って」

「解った。

ここは任せる」

 俺は急いで格納庫に向かった。

 改良さればかりの猫型鎧が置いてあるのだ。


 鎧の扉が開き既に侵入されているようだ。

「水よ這い寄り巻きつけ!」

 井戸の水を魔法で大蛇のような姿に変え内部に放った。

 エルフは水の大蛇に飲み込まれ外に放り出された。


 エルフは女のようで濡れてピッタリと肌に入り付いた布からすこし透けて見える。

「とりあえず縛っておくか……」

 近くに有った縄に魔法を掛け巻き付かせた。

 一気に3人も捕まえることが出来るなんて。


 エルフは見かけは少女みたいに小柄だが胸が大きくて何処と無く色ぽっさがあるんだよな。

 ん? ……息をしてない。

 軽く頬を叩いても反応がない。

「どうしょう、こういう時は人工呼吸か?」

 気道を確保してから鼻を摘んで息を入れれば良かったんだっけ。

 免許取る時の実習で少しやったぐらいしか経験ないしな。

 昔過ぎてよく覚えてない。

 顔を上向けて口から息を……。

 

 エルフは咳き込み水を吐き出す。

「くっ、殺せ!」

「はいはい、後で」

 全員水飲んで窒息したのか、結構やばい魔法だったな。

 どんな武器を持っているかもわからない所に乗り込んで行くのは流石に怖くて出来ない。

 二人目を助けるか。

 息を入れていると最初に助けたエルフが暴れ始めた。

 縛られているというのに体全体を使って跳ねている。

 陸に上がった魚みたいだ。

「貴様、殺してやる!」

「黙っていてくれ。

気が散るだろう」

 水を吐き二人目が目覚める。

「……どうして助けた?」

「殺すつもりはない」

「あんな恐ろしい罠を仕掛けておいてよく言う」

 勘違いしているようだが本当の事を言う必要もないだろう。

「大人しくしていれば帰してやる。

争うよりも共に生きる道を考えたらどうなんだ?」

 静かになった所で3人目を助けた。

 うっかり帰すと言ってしまったな。

 逃したら問題に成るんだろうか。

「……故郷で穏便に暮らすことすら許さなかった人間達が今更和平だとか。

何の冗談?

私達は人間が滅ぶまで戦う」

「住む土地を返せば考えてくれるか?」

「いいえ、もう一度放った矢は戻ってこない」

 

 相手している場合じゃない。

 まだ潜んでいるかも知れない。

 鎧の内部を確認するがエルフはいなかった。

 とは言え侵入されることに成るなんて。

 鍵ぐらいは必要かもしれない。

 

 操縦席に座り動かそうとしたがレバーが固定されていて全く動かない。

「どうなってるんだ?

まさか動かないように破壊されたのか」

 これなら盗まれる心配はないが、魔獣が襲ってきたら何も出来ない。

 後ろの席に座り反応を確かめ魔獣の反応はない事に安堵した。

「エルフには反応しないのか。

目視でこの暗闇の中を探すのは無理ゲーだな」

 捕まえたエルフから情報を聞き出す為に鎧から下りた。

 

 エルフ達は転がり泥だらけに成りながらも逃げようとしていた。

 それを捕まえ引きずり戻す。

「くっ……」

 困った奴らだ。


 井戸から汲んだ水をぶっかけて泥を落とす。

「冷たい……、拷問に屈したりはしない」

「いや泥だけだったから汚れを落としたんだ」

「そんな建前なんて信用しない」

「まあいいや、とりあえず来てもらおう」

 

 エルフをテントに連れて行く。

 シーウェは吊床ハンモックで寝ている。

「大丈夫なのか?」

 側で様子をみるパロマの表情は暗い。

「解らない、出来ることはしました。

後は本人の生命力だけです」

「そうか、このエルフを着替えさせてくれ。

ズボ濡れで風邪をひいてしまうかも知れない」


 その日、エルフの襲撃による被害は殆どなかった。

 騎士団の方に潜入したエルフは全滅し死体が門の前に野ざらしにされている。


 残酷な事をするものだ。

「……止められないのか?」

 パロマは頷く。

「既に止められる次期は過ぎています。

このままどちらかが滅びるまで戦うことになります」

「エルフが皆戦いたがっているとは信じたくない」

「エルフだけの問題ではないです。

騎士団の方もエルフを憎んでいる。

仮にエルフが折れたとしても騎士団の虐殺が待っているだけです」


 ああ、それで姫様は魔獣を撃退することだけしか望まなかったんだ。

 無理だと解っていたからか。

 何か方法があるはずだ。

 周りが憎しみを持っていようと保護するには……。

「使い魔ってどれぐらい持てるんだ?」

「まさかエルフを?

使い魔は奴隷よりも身分が下になります。

それを高貴なエルフが受け入れるはずがないです」

「そうなのか」

 確かにある程度の成約があって自由に魔法を使えことも出来なく無くらしい。

 カルメラと相談したいけど、危険に晒すわけには行かないし呼ぶことは出来ない。

 寮で待っているんだろうか。

 そろそろ会いたい。


「それより捕虜にしたエルフを、

このままにしておけば騎士団がうるさく言ってきますよ」

「そうだな、さっさと開放して帰すことにしよう」

 エルフ達を馬車に乗せて森に運ぶ。

 森の近くで彼らを下ろしていると、矢が飛んできた。

「危ない!」

 矢はエルフの肩に突き刺さった。

「私達は裏切っていません」


 森の奥から声が聞こえる。

「どうして生きて帰ってこれた?

他者は死んで野ざらしにされているというのに」

「それは解りません」

「ではどうして人間の服装をしている!」

「これは服が濡れたからと、交換してくれたのです」

 大量の矢が飛んでくる。

 咄嗟に壁と成るように泡の魔法で矢をはじく。


「聞く耳を持たないようだ。

一緒に来るか?」

 返事はなかったがエルフの手を掴み馬車に引き込む。

「……これも貴様の策略か」

「君達が選んだことだ。

仲間を信じ無いのが悪い」

 

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