第6話 出かけると山賊に襲われるのはお約束なのか
ジュリエンヌは馬車を3台用意ししていた。
黒塗りの2人乗りの馬車と、幌を付けた荷物を運ぶための馬車が2台だ。
「ユウキさんは、私と同じ馬車に乗ってください。
お付きの者は後ろの馬車へ」
「随分と綺麗な格好をしているんだな」
「ありがとう」
彼女は派手なヒラヒラの付いたドレスを着ている。
水を想像して作られたのかそういう色合いと飾り付けがされている。
俺は制服で来てしまった。
正装として認められているために不自然な格好ではないが、ちゃんとよそ行き用の服を用意したほうが良さそうだ。
ぞろぞろと武器を持った男達がカルメラの乗った馬車に乗り込んでいく。
「あの人達は?」
「護衛です、最近山賊が出るらしくて雇ったのですわ」
彼女も異世界から来たのか?
随分と金を持っているのは神様に貰ったからなんだろうな。
あの場所に来ていたのは殆どが男だったから、彼女の中身は……。
考えるのは止めておこう。
「そんなに危険な場所を通る必要があるんだ。
近くで済ませないのか?」
「隣街は港があって、海外からの輸入が盛んで色々な物が手に入ります。
この街に流れてくるのはその一部に過ぎないのですよ」
「そうなんだ自分の身ぐらいは守りたいな。
何か武器を……」
「私の杖を貸しましょう。
馬車に積んでありますので、さあお乗りください」
馬車の中は結構狭い、4人乗りだと言うが隣に彼女が座ると体が当たってしまう程だ。
正面には彼女のメイドが座っている。
大人しそうで何処と無くぼんやりとした感じだ。
「彼女は?」
「私のメイドのハイディです。
彼女は私の側を離れたくないというので仕方なく同席することに成りましたわ」
席を代わってとは言えないし困ったな。
これがハーレム展開なのか?
触れている腕が暑苦しく思えるんだが……。
「えっと、俺も後ろの馬車に乗ったほうが良いんじゃないかな?」
「それはどういうことです。
私の言うことを聞くという約束を守る為には側に居ないと行けないって解りませんの?」
「よく解ります。
ですが俺が乗っていると狭くて暑苦しく成ってしまうんじゃないかなって」
「もしかして恥ずかしがっているの?
私はなんて罪深い女なのでしょうか」
君の株は大暴落しているよ。
見た目だけが価値だと思っているのなら終わっている。
ハッキリといえばメイドのカルメラの方が魅力的だ。
色々と陰ながら頑張って支えてくれる健気さはすごく素敵だ。
金が切れたら縁が切れるかも知れないが……。
「それで何を買うつもりなんだ?」
「月末に開催される仮面舞踏会に着る衣装ですわ。
優雅な舞を見て差し上げましょう」
月末に毎回、そんなイベントがあるのか。
ちょっとなんか面倒くさいぞ。
俺の知っている学校にはそんな物はなかったんだが、どうなってんだ。
魔法を使う世界だものな。
メイドが付き添ってくれるのは当たり前だし……。
いや……、もう考えるのはよそう。
「君ならとっても綺麗だと思う、
蝶が舞うような可憐さがあるんじゃないのか?」
「ふふ、まあ当然よ」
褒めておけば彼女は照れて黙る傾向がある。
彼女の鼻歌が聞こえてくる。
余程嬉しいんだろうな。
馬車で揺られどれぐらい経ったのだろうか、突然止まる。
反動でハイディが前に倒れて来る。
「おい大丈夫か?」
「失礼しました」
ジュリエンヌは後ろの小窓を開く。
「突然止まって危ないではないですか」
「山賊が出ました」
運転手の声が震えている。
状況はあまり良くないのだろう。
「杖を貸してくれるんだったな。
今すぐ貸してくれ」
彼女の見栄がよく解る黄金の杖だ。
宝石が散りばめられ先端には角の生えた馬の顔の飾りが付いている。
試験で使った杖は木製だったが……。
バーベルでも持っているかのような重さだ。
30キロ近くはありそうな重さだぞ。
杖を持って出ると乱戦が始まっていた。
護衛の兵士と山賊が斬り合っている。
山賊は鬼のようなお面を付けている為によく解る。
傭兵は不利とみるや適当に切り上げて逃げたようだ。
残った傭兵も切り伏せられた。
弱っ……、もう全滅じゃないか。
杖を地面に突く。
「俺が相手してやる」
「小僧が何を言う、大人しくその杖をよこせ」
周りは森のようで、こんな場所で火の魔法を使えば森が焼けるかも知れない。
さてこの状況でどんな魔法を使えばいい。
「暴走体質って聞いたことあるか?」
山賊の動きが止まった。
「まさか小僧が……、いや学園の庭をふっとばした化け物がいるって噂だ」
「それが俺だよ」
魔気が集まり杖が光り輝き始めた。
「こいつはやばい撤収だ!」
山賊が慌てて逃げ出す。
離れてくれるのはありがたい。
「紅蓮の業火に焼かれて灰となれ!
なんちゃって……へへへ……」
山賊達は避けるために地面に倒れ伏せた。
魔術師が直線に飛ばす魔法をよく使うためなのだろう。
山賊達は攻撃がないことに気づき戻ってくる。
そのまま逃げてくれれば魔法を使う必要はなかったんだが仕方ない。
俺が使う魔法は大地を浮かす魔法だ!
円盤を浮かせたときのように……。
念を込め魔法を使うと山賊達が空中へと放り投げられた。
力加減がまだ上手くない。
想像よりも高く飛んだな。
「あー、これは落ちてきたら危ないやつだな」
「凄いですわね。
一度にえっと……10人ぐらいを飛ばすなんて」
「どうしよう?」
「しょうがないですわね。
杖を返してください」
ジュリエンヌが杖を手に取ると直ぐに地面に突き立てる。
やっぱり重いんだな。
軽く念じると周囲の木々の枝葉が伸び落ちてくる山賊を捕まえた。
彼女は後ろの馬車から縄を出すと魔法を掛けた。
それは蛇のように動き山賊に巻き付き縛り上げた。
「全員を馬車に入れるて運ぶのは無理ね。
首をはねて持っていきましょう」
「殺すのか?」
「ええ、彼らを生かしておけば犠牲者が出ます」
法律はどうなってるんだ。
正当防衛じゃないような、そんな法があるのかも解らない。
「ちょっと待て、命を奪うことは許されることなのか?」
「当然です。
情けを掛けたら死んでいった傭兵達は無念でしょう」
しかし、手を血で染めるのは後味が悪い。
「俺が魔法で浮かせているから縄で引っ張れば良いだけだろう」
「大丈夫ですの?
ここからまだ時間がかかりますわ」
「出来る限り頑張ってみる」
縄を馬車に括り付け山賊達を風船のように浮遊させた。
運転手の男が近寄ってくる。
「あのその魔法で丸太を退けてもらえませんか?」
道を塞ぐように丸太が置かれている。
これで道を塞いで馬車を止めたのか。
馬車は舗装された道しか進めないんだろうな。
杖で丸太を叩き浮かせると軽く押すだけで退けることが出来た。
「凄まじい精神集中ですわね」
「反省してベットを浮遊させて寝ているんだ。
まあ冗談だけど」
「あははは……」
馬車に乗り街へ向かう。
魔法を維持するのは得意なようで、殆ど消耗せずに街にたどり着いた。
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