第6話 愛するあなたへ

 俺はベッドの上でため息をついた。今日もまた眠れない。こんな時は、いつも娘の事を考えてしまう。


 ――むく。たった一人の最愛の子ども。あいつがまだ学校にも通っていない頃、こう聞かれたのを思い出す。


「パパは小さいとき、何になりたかったの?」


 俺はどう答えたっけ?

 たしか

「正義の味方になりたい」って言った気がする。

 あの子はそれを聞いて、よく分からないという顔をしていたから

「ウルトラマンや仮面ライダーの事だよ」

って説明してやった。


 すると、パァッと顔を輝かせて

「パパ、ウルトラマンなの?」

ってうれしそうにしてた。


「ちょっと違うけど、そんなものかなあ。おまわりさんだからね」

と答えたら

「かっこいいー!」

って抱きついてくれた。

 まさか自分の娘にそんな事を言われるなんて思ってなかったから、とても嬉しかったっけ。


 ――でも、今はあの時とはまるで違う。こんなんじゃとてもあの子を守れない……俺はもうヒーローにはなれないし、人間ですらなくなった。

 きっとあの子は天国に行ったから、死んでしまった後も二度と会えないだろう。そう思うと、悲しみと彼女への思いで胸が張り裂けそうになる。


「椋……」

 お前に誇れるような人間に、もう一度なれるだろうか……

 堂々巡めぐりする考えをむりやり断ち切ろうと、闇の中でぎゅっと目を閉じた。


  了

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