いつかどこかの星へ

 あなたの浮かぶ夜を見上げなくなって、もう数年になります。ご無沙汰しております。

 とはいえ、もう私のことなんて覚えていないかもしれませんね。


 冷たい闇の中で、しんしんと輝くあなたのことが、私はとても好きで憧れていました。

 高く高くと昇ろうとしながらも、世界を見つめることを諦めようとはしない姿を尊敬していました。何度沈んでも再び空を昇る力強さも、あなたの描く光の円弧も。

 遠いあなたの発する熱は私にも届いていました。胸に炎を灯してくれていました。


 だからこそ、いつかの夜のことが私はどうしても赦せなくて。

 だって、あなたはシェダルでもカフでもナビでもないはずなのに。


 だから、私はあなたを見るのをやめました。きっとあなたにももう私の色は見えないでしょうね。


 ただ、あなたが岩戸に籠もったことを風の噂に聞きました。

 ……私は星ではありません。ただただ水底で見上げているだけ。錨を沈めることもなく。

 あの優しく輝いていたあなたが、繊細さ故に陰ったのなら、私は黙ってはいられなくて。


 なので、一筆書きました。

 私にとって、あなたは春の野道に咲く一輪の花のようでもありました。可憐ながらも力強く輝く黄色いあの花のような。

 もう綿毛も飛び終えた時期ですね。私の言葉なんて、芽が出るどころか、風に乗ることすらないかもしれません。

 それでも、熱の欠片くらいは届きますように。せめて、あなたのもとにアマノウズメが現れますように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る